360度評価とは
360度評価とは、従業員の評価を上司だけでなく、周囲の従業員にも参加してもらう方法です。同僚や先輩、部下など様々な立場の人々が評価者となり、全方位からの視点を得ることができます。
具体的な評価方法は、アンケート調査や専用のフォームを利用する場合が一般的です。しかし、評価者の数が多いため、従来の評価方式よりも時間がかかります。特に被評価者が多い部門では計画的な進め方が必要です。
360度評価は、ベンチャー企業をはじめとして、大手企業でも導入されることがあります。ただし、評価者の範囲は企業によって異なります。また、評価者が近すぎると、情が湧いて評価が甘くなる可能性があるため、注意が必要です。
360度評価を導入する際には、制度のブラッシュアップや試行錯誤が求められます。しかし、多様な視点を得られることで、従業員のスキルアップやチームの強化につながるとされています。
360度評価が注目される背景
360度評価は、昔から存在していたアイデアであるにもかかわらず、2015年ごろから注目を集めるようになりました。その理由の1つに、実力主義の浸透が挙げられます。
従来の日本の評価システムでは、直属の上司が評価の絶対的な権限を持っていました。従業員たちは、上司に好印象を与えることに注力し、他のことをいい加減に済ませることがよくありました。これが収益に一致していれば問題はありませんが、チームの生産性に悪影響を与えることがあります。
360度評価は、この問題を解決するために取り入れられました。この評価システムでは、上司だけでなく周囲の従業員たちからの評価を受けるため、上司に好印象を与えるだけでは十分ではありません。従業員たちは、誰からも認められる貢献度の高い仕事を求められます。このように実力主義に基づいた形で、360度評価が重要視されるようになったのです。
360度評価のメリットの1つに、評価者が増えることで正確性が高まる点があります。評価者が多ければ、偏った評価を防ぎ、本当の実力を正確に評価できます。このような360度評価の取り組みは、企業の生産性向上にもつながるとされています。
360度評価の目的
360度評価を取り入れる企業にはさまざまな思惑があります。たとえば、対外的に先進性をアピールして、ブランドイメージをアップさせたいケースもあるでしょう。しかし、一般的には前述のように従業員の評価を適切に行うことが目的となります。
これまでの方法では上司の主観が影響するため、不満を持たれてしまうことが多くありました。従業員のモチベーションを下げるどころか、転職や退職に結びつくリスクも懸念されます。
360度評価であれば客観性が高まるので、そういったリスクをかなり抑えられるのです。もちろん一人ひとりの主観がある程度入ることはあるでしょう。とはいえ複数の評価者がいるので、その平均をとっていけば主観をかなり排除できます。平準化によって客観性を担保しやすくなり、結果のフィードバックを素直に受け入れやすくなるのです。
ここでポイントになるのは評価制度自体の目的です。そう言われると、給与などの処遇の決定をイメージする人も多いでしょう。たしかに雇用契約を結んでいる以上、処遇の更新は従業員にとって大きなテーマです。
しかし、企業の目的は別のところにあるので注意してください。あくまでも収益の最大化を目指しており、そのためには従業員を成長させなければなりません。足りない点を発見し、それを改善せることが必須となっています。そのきっかけを見いだすことが評価の目的というわけです。
しかし、従来の客観性に欠ける方法だと、適切に評価されているとは感じられません。そのせいで本来の目的を達成するのは難しいのが実情です。
この状況を打破することも360度評価に期待されている役割です。上司の目からは完璧に思える従業員でも、部下からみるといろいろ欠点があるかもしれません。むしろ、そのようなケースが多かったからこそ、これまで伸び悩んでいたケースがよくあります。
部下の信頼もしっかり得て、上司からも頼られるような存在を企業は強く求めています。この新しい評価制度で価値を認められるのは、そのような全方位に存在感を発揮する人材です。言い換えると主体的なスタンスが求められており、待っているだけのタイプは評価が低くなります。周囲へのフォローができる従業員を育めることもポイントです。
このように360度評価を選択する目的は企業の姿勢に大きく関わっています。言い換えると、従業員はその目的を理解したうえで働くことが、自分の評価を高めることにつながるのです。
360評価の評価項目
自社が360度評価を採用するなら、評価項目を慎重に検討することが大切です。
基本になるのは期中の成果であり、数値で表せるように工夫しなければなりません。契約件数やノルマの達成率なら観点ですが、周囲へのサポートなどは数値にするのが難しいです。そのため、周囲の従業員たちに点数を付けてもらうことが基本となっています。
極端に高いものと低いものを排除したうえで、平均や総和を算出する方法などを使うことが多いです。異なる基準のすり合わせにも気を付けましょう。
たとえばサポートを点数化するなら、それを売上などとどのように比較するのか決定する必要があります。サポートの10点が売上の100万円に相当するなど、変換する目安を定めなければなりません。これに妥当性がないなら、少なくともどちらか一方から不満が噴出してしまいます。
できるだけ多くのデータを集めたうえで、サポートがいくらの売上に見合うのか検討しましょう。他の組み合わせに関しても、多くの人が納得できる変換の基準を設けていきます。
普段の業務態度も主な評価項目の一つであり、これにこそ360度評価の効果が大きく発揮されます。なぜなら、上司の前でだけ真面目でも、他の人の申告によって本来の姿が暴かれてしまうからです。もちろんすべてを鵜呑みにはできませんが、サンプルが多くなるほど本来の業務態度が浮き彫りになっていきます。
これはチームにおける立ち位置など、今後のキャリアにも深く営業してくる評価項目です。人間関係の円滑さなどにも影響し、分析によってチームワークと相関があることも分かります。
このように成果と同等以上にチェックが必要であり、それを改善することが組織力のアップにも直結するのです。
さらに、能力開発に関する評価項目も重要度が高くなっています。成果ばかりに目を向けていると、従業員の成長度を把握するのは困難です。企業が発展していくには、一人ひとりのレベルアップが求められます。
ところが、伸び具合を測るのは難しく、どのような取り組みをしているのか調べることも容易ではありません。そのため、多角的な観点によって、知識や技能が増強されていることを確認する必要があります。
360度からしっかり検証すれば、ある程度は伸び率の推察が可能です。そうすれば、これから必要になる学習なども必然的に見えてきます。フィードバックによって本人に自覚させて、ポジティブに成長を促していくのが理想的な進め方です。
360度評価のメリット
様々な立場の人が1人の従業員を評価する360度評価は、特定の立場からだけでなく、多角的に評価できる点にメリットがあります。
従来の評価制度は上司が部下を評価するケースが主流ですが、これだと上司から見た部下の一面しか評価されないです。その点、多角的に評価が行える360度評価であれば、異なる立場や関係性から部下の様々な面を知ることができます。
これは企業にとっても、本人にとってもメリットだといえるでしょう。上司に嫌われていて自分の評価が実際よりも低いと感じている人は、この360度評価を受けることで、正当な評価が受けられる可能性があります。
360度評価は従来の上司に加えて、同僚や部下も含まれます。より公平な結果に期待することができますし、評価される本人も納得に至りやすいです。
元々は欧米を中心に取り入れられていましたが、近年は日本でも注目を集めています。その理由はやはり、従来の評価手法の欠点を解消できることにあるでしょう。働き方改革の取り組みが本格化していることもあって、人材育成に力を入れる企業を中心に、導入検討や導入が行われています。従業員のモチベーションアップにも繋がりますから、検討しない手はありませんし、導入する企業が増えているのも頷けます。
360度評価は名前のように、1人の従業員を全周から評価を行うことに特徴があります。上司1つ取っても、部下との距離感は様々ですし、上司は上司でも人によって評価対象の理解度は異なります。そのため、普段関わることが多い上司は自分が知っている範囲で評価しますし、一方であまり知らない人は受けた印象などで評価を行うことになるわけです。
定量化できるものについては、数字で評価することが可能ですが、360度評価では主観による評価もあります。
つまりそこがメリットになると考えられますし、同時に主観に偏り過ぎないように注意が必要なことも理解できます。
360度評価は、端的にいえば客観的な人材の評価ができるのが最大の特徴であってメリットです。主観的になり過ぎては、このメリットが損なわれてしまいますから、評価項目の設定には十分に注意する必要があります。
客観的な評価に繋がるのは、上司以外も評価に加わること、立場や関係性が異なる人が複数評価に関わるのが理由です。
そう考えると、上司のみの評価とは違って本人の人物像が更に詳しく見えてきますし、評価の正確性が高まることも分かります。
人付き合いが限定的で、どういう人物か誰も知らない人については評価のしようがありませんが、会社で組織の一員として働く以上は、全く人付き合いがないわけでもないです。こういう、人付き合いに積極的ではないということも評価されるので、改めてより正しく人物像が評価に反映されると評価手法だといえます。
ちなみにテレワーク時代にも360度評価は有効で、むしろテレワークが広まり浸透してきたからこそ、360度評価に注目が集まっていると思われます。非対面で画面越しのやり取りが中心のテレワークは、部下を知って把握しようにも、上司は部下を詳しく理解するのが困難です。対面でもただでさえ部下の一面しか知ることができないわけですから、画面越しとなれば従来の評価手法では評価が難しくなるのも当然です。
しかし、同僚や部下という新たな視点を評価に加えることで、テレワークで見えにくくなる人物像が見えるようになります。これこそがまさに360度評価のメリットであって、注目を集めている理由の1つです。
日本では大手企業の導入が進んでおり、導入率が2016年の時点で46%を超えているという調査結果もあるほどです。中小企業は導入が遅れているものの、近年は関心が高まっていますから、今後は中規模以下の企業でも導入が進むものと予想されます。
360度評価のデメリット
一見すると客観的かつ公平な評価が行えそうな360度評価ですが、メリットばかりではないのも確かです。
当然ながら導入にはコストが掛かりますし、従来の手法を置き換えたり定着させるのに時間が掛かります。設定する評価項目にもよりますが、主観に頼ることが増える評価手法なので、評価とその結果が主観に偏るリスクがデメリットなります。
自分が評価されるイメージしてみると分かりますが、360度評価は周りの目を気にするようになるので、例えば上司は部下からの評価を気にして厳しい姿勢を見せなくなる恐れがあります。叱る必要がある時に叱らなくなったり、無意識のうちに甘く評価してしまうなどです。
360度評価では、評価する側もされる側になるので、お互いに実際よりも良い評価をする可能性も懸念されます。このように、普段から接する立場の人からの評価は、評価対象の正確な評価に期待できる一方で、甘めの評価になりやすいことを留意すべきです。直接的な関わりが少なかったり、利害関係のない人による評価だと、正確性が損なわれることになります。
これが360度評価のデメリットであって、ジレンマと言っても間違いではないでしょう。
360度評価は評価基準を明確にすること、誰が評価するか選定基準もしっかり考える必要がありそうです。明確な評価基準は客観的で公平な評価に期待できますが、主観を完全に排除するのは不可能です。
評価者の人数が少なければ主観に偏りやすく、客観性が半減するので360度評価のメリットが小さくなります。360度評価の強みを最大限に活かしたいのであれば、デメリットを小さくしたり解消する運用が不可欠です。
従来の上司からの一方的な評価は、元々主観に偏りやすいデメリットが同時に、同僚や部下の主観が評価に影響しないメリットがあります。
360度評価は、主観を排して多角的に人物像を浮かび上がらせられる手法だと思われますが、同僚同士が口裏を合わせてお互いに良い評価を行う取り決めをする可能性が排除できないです。他にも先輩が立場を利用して後輩に良い評価をするように迫る、そういう不正が発生しないとも限らないわけです。
勿論、同僚や部下からの密告がないとも限らないので、不正を働こうとする人には相応のリスクがあります。
それでも社外で証拠が残らないようにやり取りが行われれば誰も気がつけませんし、評価が確定するまで不正が発覚しないこともあり得ます。
こういった懸念材料が360度評価の欠点や短所で、十分に理解した上で取り入れたり実施する必要があることが分かります。
部下が上司を評価したり、上司や部下に限らず贔屓の相手を評価する時は、採点が甘めになりがちです。良い評価をするように迫ったり口裏を合わせなくても、自然とこういう評価になりやすいのが欠点です。
上司や先輩からの下の立場に対する評価は、立場が弱い人と違って報復を恐れる必要がないことから、忖度せずに評価が行われることが多いです。
つまり、下から上に対する評価は甘めの傾向で、上から下には主観混じりでも公平になりやすいです。
この非対称性は360度評価の明らかなデメリットですし、是正には努力や労力が必要になります。コストが増加する一因ですから、コスト増を嫌う企業は是正に消極的で、評価がアンバランスで非対称性なままとなり得るでしょう。
導入して普及、定着すれば終わりというものではなく、実践と分析や改善を繰り返しながら、客観性や正確性を担保する必要がある評価方法です。絶対的に客観的な評価ができる方法ではないので、従来の評価手法を置き換えるだけで済むわけではなく、客観性を高めたり保つのに労力やコストが掛かるのがデメリットです。
360度評価を導入するステップ
360度評価導入の流れは、目的の明確化と評価項目の設計、評価基準の設定となります。誰が評価するかということも、360度評価の導入においてスキップできないステップの1つです。
目的は誰もが納得できるようなものにして、評価項目は主観が入り込みにくく設計を行うことが必要です。評価基準も曖昧ではなく、上司からでも部下からでも評価が偏らないようにするべきでしょう。
それから、評価の後に評価の対象者に対するフィードバックを盛り込むことも、360度評価導入の設計におけるポイントとなります。
フィードバックは内容であったり、いつどのタイミングで行うかなどについても予め決めておくのが望ましいです。
360度評価は、既存の評価方法を最初から完全に置き換える必要はなく、部分的に導入することもできます。この場合は評価を行う範囲を決めることも、360度評価の導入の重要なステップです。
正式に導入を行うことが決まったら、従業員に告知して周知徹底を図ることになります。そして評価の実施となりますが、調査票によるアンケートやWebによるアンケートなど、調査方法に合わせた準備も必要です。
360度評価の実施は期限を設けて始めること、従業員が忘れずに期限内に評価を済ませられるように、いわゆるリマインドを設定することも大切です。
一通り終わったらフィードバックを実施して分析、改善点を発見して次に活かすという形になります。
360度評価導入のステップは、項目によって多少前後することはあるものの、大まかな流れはだいたい決まっています。改めて360度評価の導入ステップを確認すると、評価の目的や評価項目、評価基準の設定に始まり、運用方法を確立することが基本です。フィードバックの内容やタイミングについては、この段階で検討したり決めておくのが良いでしょう。
次に従業員に対する周知徹底を図り、周知が行き渡ったらいよいよ実施です。360度評価の実施は、一定の期間内に指定の方法で評価者から評価が行われるのが理想的です。期限を過ぎたり遅れて評価となると、集計に遅れが生じたり評価にバラツキが出る可能性があります。このため、期間は長く期限に余裕を持たせて、複数回リマインドを掛けることをおすすめします。リマインドは期限が近づくほど間隔を短くして、従業員に評価を促進するのが正解です。
集計を終えて評価結果が出たら、評価対象者にフィードバックを実施します。フィードバックの内容や結果は開示するのがベストで、改善すべきところを共有したり、相談しながら改善に向けて取り組むのが良いです。
360度評価の導入を検討するのであれば、そこまで考慮して設計を行ったり運用をすることが求められます。
具体的な運用方針や運用方法は企業によりますが、本人に結果を返したり、会社全体に結果を公開するところもあります。どこまでオープンにするかはケースバイケースですが、評価する側も評価される側から見られていることを意識する体制で運用すれば、立場による不公平は改善すると思われます。
360度評価に正解はないので、制度設計の難易度が高くて最初は手探りという企業も少なくないでしょう。設計の経験がなかったり自信がない場合は、外部のコンサルタントに相談して設計してもらう手もあります。
勿論コストは掛かりますが、設計や運用の経験が豊富なコンサルタントを味方につければ、不安を解消してから導入や実施に進めるはずです。中には360度評価をパッケージとして、導入しやすく提供を行っているコンサルティング企業もあります。専門的で特化している企業もあるくらいですから、相談先はいくつも存在しますし、導入が決まっていなくても相談してみる価値はあります。
360度評価で失敗しないためのポイント
360度評価で失敗を避けるには、既存の事例を参考に、項目の設定や設問の設計に気をつけることが大事です。
項目の数はただ多ければ良いというものでもなく、設問は答えやすいものでなくてはいけません。内容が重複する項目があると混乱を招きますし、設問が複雑だったり特定の結論に誘導するような形だと問題です。すんなりと理解できてあまり迷わずに答えられる、それが理想的な360度評価で、失敗しないためのポイントとなります。
参考にする事例は成功例だけでなく、失敗例にも目を通すのが賢明です。導入を検討する企業の規模だったり、業種や従業員数などが類似する事例を参考にするのもおすすめです。同じやり方で成功するとは限りませんが、少なくとも失敗を避けるためのヒントが手に入るはずです。
360度評価は、従業員のモチベーションが高まったり、正当に評価されていると感じられなければ意味がありません。評価を実施することでモチベーションの低下が発生したり、離職率が上がるような運用は明らかに失敗です。
また運用に関わる人の負担が増加するのも問題なので、負担を分散する運用体制を確立するべきでしょう。
評価者が違えば同じ対象を評価しても結果は違ってきますが、そこは念頭において多少のバラツキを吸収できるようにしておくのが正解です。
最悪なのは360度評価が機能しなくなったり、形だけで制度の存在意義がなくなってしまうことです。フィードバックを軽視したり、改善を図らないとそうなりますから、他人事ではなく自らのことと捉えて、PDCAサイクルを回し続けるのがベストです。
360度評価で懸念すべきは忖度や不正で、忖度によって普段の業務に支障が出るのはNGです。評価される意識が強くなると、従業員は嫌われないように行動し始め、コミュニケーションを避けたり必要なコミュニケーションが不足する事態が発生します。
不正もまた評価制度の根幹を揺るがしかねませんし、問題が大きくなったり発覚すれば、従業員は不審がって360度評価を信用しなくなる恐れがあります。かといって問題を隠して後々バレるのも良くないですから、問題が発覚したら速やかに情報を発信したり、後悔するのが無難でしょう。
そういう制度設計を最初の段階で済ませておくことが、運用で失敗しないための大事なポイントです。評価が従業員の自信に繋がったり、仕事のやり方の改善や成長に繋がるのが望ましいですから、制度が成功するように導入の段階から360度評価の計画を進めるのが理想的です。
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