
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第1回】成功する評価基準と運用ポイント
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第2回】人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第3回】車販営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第4回】整備職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第5回】サービスフロント職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第6回】営業サポート職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第7回】本部スタッフ職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第8回】効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣
1. はじめに
自動車販売業特有の人事課題
自動車販売業、いわゆるカーディーラーは、乗用車や商用車などの販売を主たる業務としながら、整備・車検・保険・リースなど多岐にわたる事業領域をカバーする業界です。特に中小規模の自動車販売店では、地域密着型のサービス提供により、地元のお客様との信頼関係を築きながら事業を展開しているケースが多いでしょう。一方で、昨今の急速な業界変化(電気自動車の普及、カーシェアリングの台頭、Web・SNSを活用した集客など)に伴い、人材面での課題が顕著になりつつあります。
以下では、代表的な人事課題として「採用面」「定着面」「育成面」の3点に着目し、それぞれが自動車販売業特有の要因とどのように関わっているかを概観します。
・採用面の課題
- 若年層の自動車離れ
近年、若年層の車離れや自動車購入への関心低下が指摘されています。自動車販売業が新卒採用や中途採用を行う際にも、自動車業界への興味が薄い若年層をどう引きつけるかが一つの大きな課題となっています。 - 知名度の問題
大手ディーラーや大手グループ会社と比較すると、中小の自動車販売店はどうしても企業知名度で劣りがちです。求人情報を出しても求職者の目に留まらなかったり、「安定性」に対する不安が先行してしまうケースもあります。 - 整備士不足
近年、整備士の資格保有者が減少傾向にあり、特にベテラン整備士の高齢化も進んでいます。若年層の整備士の確保が困難であるという現実は、多くの中小自動車販売店が頭を抱えている問題です。 - 業務の多様化
販売のみならず、保険の取り扱いやクレジット契約手続きのサポート、Web集客(SNS対応やネット広告)など、店舗オペレーション全般に関わる業務が広範囲に及びます。これらをこなせる多能工的な人材を採用したいというニーズがある一方で、そういったスキルやマインドを持つ人材を採用するのは容易ではありません。
・定着面の課題
- 成果主義とのバランス
自動車販売店では、営業職を中心に「売上ノルマ」や「販売台数」などの数値目標が明確に設定されるため、成果主義的な人事評価が行われる傾向が強いです。一方で、成果主義に偏りすぎると、数字を追いかけるプレッシャーや評価への不満から離職につながるケースもあります。 - キャリアパスの不透明感
特に中小企業では、社員がステップアップしていく具体的な道筋(キャリアパス)が見えづらいことが多々あります。営業職から管理職への昇格、整備職からサービスフロント職へのキャリアチェンジなど、明確に「将来像」を描ける人事制度がないと、社員のモチベーションが下がりやすく、離職につながる恐れがあります。 - 職場環境への不満
特に整備工場や営業フロアなど、季節や天候に左右される職場環境もあり、長時間労働になりがちな現状、休日が不定期になってしまうことも珍しくありません。こうした職場環境が厳しい場合、定着率に大きく影響する可能性があります。 - 中小企業ならではの限られた人員
人手不足の中で社員一人ひとりが複数の業務を兼任しなければならない状況が続くと、過度な負担から離職を検討する社員が増えるリスクがあります。売上が好調であっても、増員が追いつかず、現場の疲弊が進んでしまうといったジレンマも中小の自動車販売店ではよく見られます。
・育成面の課題
- OJT中心で属人的
自動車販売業は、先輩社員が後輩社員に対して現場で指導しながら育てるOJT(On the Job Training)が中心となりがちです。しかし、先輩社員の「経験や勘」に依存する部分が大きいと、指導内容にバラツキが出やすく、体系的・継続的な育成が難しいという課題があります。 - 研修制度の不足
中小の自動車販売店では、大手のように社内研修プログラムや外部研修に投資する余裕がないケースがあります。結果として「技術や知識をアップデートできる機会」や「マネジメントスキルを学べる機会」が不足し、社員の成長やモチベーションが停滞しがちです。 - 新しい車種・技術への対応
EV(電気自動車)やハイブリッド車など、車の技術はめまぐるしく進化しており、整備士には新しい知識とスキルが求められます。営業職であっても、電子制御機構やIT系の説明が求められることが増えています。こうした最新トレンドへのキャッチアップが追いつかず、社員教育が後手に回ってしまうリスクがあります。 - 専門人材と総合人材の両立
販売・整備・保険・事務などが密接に絡み合うのが自動車販売店の現場です。社員全員が専門性を高めつつも、ある程度の総合力を持つ必要がありますが、それらをバランスよく育成するための仕組みづくりは簡単ではありません。

自動車販売業における人事評価制度の重要性
こうした人事課題を踏まえたとき、人事評価制度が果たす役割は非常に大きいといえます。評価制度がしっかりと設計・運用されているかどうかによって、採用力・定着率・育成効果などに大きな差が出るからです。
・採用面の重要性
- 自動車販売店としての魅力アピール
しっかりとした評価制度があるという事実は、求職者にとって「この会社では頑張り次第で正当に評価される」「キャリア形成ができるかもしれない」という安心感につながります。特に中小企業の場合、評価制度の整備が「大手に負けない魅力づくり」の一助となる可能性があります。 - 企業としての方針や価値観の可視化
評価制度には、企業が大切にしている価値観や行動指針が反映されることが多いです。たとえば、「お客様満足度を高める行動をどう評価するのか」「チームプレイをどの程度重視するのか」といった点は、評価項目や評価基準を通して可視化されます。求職者にとっては、入社前に会社の考え方を知る手立てにもなるため、ミスマッチを防ぐ効果も期待できます。
・定着面の重要性
- 公正な評価によるモチベーション向上
「売上台数」や「粗利額」などの定量的な成果だけでなく、「顧客対応」「チーム貢献」など定性的な面も評価にきちんと反映することで、社員が納得感を持ちやすくなります。納得できる評価がされていると感じれば、社員はモチベーションを高く維持しやすくなるでしょう。 - キャリアパスの明確化
評価制度と連動させて、具体的なキャリアパスを提示することにより、社員は自分の将来像を描きやすくなります。店長や拠点長、マネージャーといった役職への昇格要件が評価制度で示されれば、「次に何を頑張ればよいか」がより明確になります。結果として定着率の向上につながる可能性が高まるでしょう。 - 評価を通じたコミュニケーション促進
評価の過程で上司と部下が面談し、フィードバックが行われることで、相互理解や業務改善のヒントが得られます。問題点や課題を早期に共有することで、離職を未然に防いだり、組織全体の改善にもつなげられます。
・育成面の重要性
- 評価基準が学習目標となる
「どのような行動や成果を出せば高い評価を得られるのか」というのは、社員にとって一種の“学習目標”です。行動規範やスキルレベルなどが明確に評価基準として示されていれば、社員は自ら弱点を補う学習やスキルアップに取り組みやすくなります。 - 研修施策との連動
評価制度で測定した結果を踏まえ、「営業が苦手な社員には営業研修を」「CS向上が課題の社員には接客研修を」というように個別の研修・教育施策を組むことができます。これによりOJTに頼り切らない体系的な育成がしやすくなり、育成効果の最大化が期待できます。 - 次世代リーダーの選抜・育成
評価制度を通じて、潜在的なリーダー候補や管理職候補を見抜き、早期から育成プログラムに乗せることが可能になります。組織の将来を担う人材を計画的に育てるためにも、公正かつ客観的な評価制度の存在は欠かせません。
2. 評価基準を設定する際の重要ポイント
自動車販売業特有の仕事特性
中小の自動車販売店には、営業職・整備職・サービスフロント職・営業サポート職・本部スタッフ職など、複数の職種が共存しています。それぞれの職務内容や成果指標は異なるため、評価制度を設計する際には、それぞれの仕事特性を深く理解し、的確に評価項目を設定する必要があります。
・車販営業職の特性
- 販売台数・粗利などの業績指標が明確
車販営業職では、売上や粗利などの定量指標が比較的分かりやすく、評価しやすい側面があります。月単位・四半期単位での販売台数をKPIとするケースが多いでしょう。 - 顧客満足度やリピート率も重要
数字だけを追うと、強引な営業や過度な値引きに走りがちになるリスクがあります。そのため、お客様との長期的なリレーションやリピート率、紹介件数なども評価に加えることで、健全な営業活動を促すことができます。 - 個人営業とチーム営業の両立
担当制で一人ひとりの営業が目標を持つのが一般的ですが、店舗全体で協力してお客様のニーズに対応するシーンも多いです。個人目標と店舗全体の成果をどのように評価項目に落とし込むかが、評価設計のポイントとなります。
・整備職の特性
- 技術力と対応スピード
整備職は車両の点検・修理・整備を担い、安全かつ的確に作業する技術力が求められます。同時に、お客様の納期要望に応じた作業スピードや効率化も重要視されます。 - 品質管理とクレーム率
整備のミスが事故やクレームに直結する可能性があるため、品質管理の度合いを評価に含むのは不可欠です。具体的には再整備率の低さや、お客様からのクレーム件数の少なさなどが評価指標になります。 - 資格保有やスキルアップ
自動車整備士の資格だけでなく、EVやハイブリッド車の整備に必要な新しい資格や研修受講履歴などを評価に入れるケースもあります。業界の技術進歩が速い分、定期的なスキルアップが重要です。
・サービスフロント職の特性
- 顧客対応力
サービスフロント職は整備の受付や、顧客からの問い合わせ対応などを担当します。いわば店舗の“顔”となるポジションであり、お客様の要望を正確に把握し、整備職や他部署と連携するコミュニケーション能力が求められます。 - 売上・利益への貢献度
車検や点検、部品交換などの提案を通じて、整備関連の売上増を担う役割もあります。いかに適切な提案を行っているか、営業職との連携のもとで追加販売につなげているかといった面も評価対象となるでしょう。 - 顧客満足度
直接お客様とやり取りを行う立場だけに、接客態度や説明のわかりやすさなど、CS(Customer Satisfaction)に大きく影響を与えます。顧客アンケートなどを活用して定性的に評価する仕組みが有効です。
・営業サポート職の特性
- 事務処理・手続き業務の正確性
車両登録や保険手続き、ローン契約の書類準備など、営業サポート職にはさまざまな事務作業が求められます。これらの正確性や納期遵守が店舗の信頼に直結します。 - 営業職・サービス職との連携
営業サポート職は裏方として営業や整備、サービスフロントを支える役割です。チームワークの良さ、コミュニケーションスキル、段取り力などが評価されます。 - 顧客対応の補助
電話対応や来店受付など、カウンター業務を担うことも多く、第一印象として店舗の評価を左右する場合もあります。やはりCS視点は欠かせません。
・本部スタッフ職の特性
- 経営企画・人事・総務などの専門領域
中小規模でもある程度の本部機能が存在し、人事管理や経理、総務、IT管理などを担当している場合があります。それぞれ専門性が高いため、評価項目も多岐にわたる可能性があります。 - 数値目標に加え、プロジェクト推進能力の評価
経営企画であれば新規事業の企画・推進、人事であれば採用目標の達成や研修設計など、定量評価だけではなく、プロセスやスピード感、組織への貢献度などを含めた総合的な評価が求められます。 - 店舗現場との連携
本部と現場の間に温度差が生まれないように、コミュニケーションやサポート力が重視されることが多いです。現場が抱える課題をどれだけ理解し、解決につなげられるかがポイントです。

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自動車販売業特有の評価基準
自動車販売店における評価制度を設計する際は、職種特性だけでなく「定量的な評価基準」と「定性的な評価基準」をバランスよく組み合わせることが成功のカギとなります。
・定量的な評価基準
- 売上・粗利
車販営業職を中心に、店舗全体の売上や粗利をKPIとして設定することが一般的です。整備やサービスフロントでも、部品や整備売上を指標化できます。 - 販売台数・契約件数
個人の実績として最もわかりやすい指標です。ただし、販売台数だけに偏ると不正や過度な値引きが生じる可能性があるため、他の指標との併用が望まれます。 - 稼働率・納期遵守率
整備職やサービスフロント職では、稼働率や納期遵守率、作業時間などを測定することができます。工場の生産性や効率を数値化することで評価しやすくなります。 - CSアンケート回収率
お客様アンケートの回収率や顧客満足度スコアを定量化し、営業・サービスフロント・整備などの部門横断で追う事例も増えています。
・定性的な評価基準
- 行動評価(コンピテンシー評価)
営業職であれば「ヒアリング能力」「クロージングスキル」、整備職であれば「作業手順の正確性」「安全意識」など、各職種に求められる行動や態度を評価項目に設定します。 - 顧客満足度・コミュニケーション力
お客様への接客態度や説明のわかりやすさ、チーム内でのコミュニケーション力、問題解決力など、成果の裏にある行動プロセスを評価することで、短期的な成果主義の弊害を緩和できます。 - チーム貢献度・協調性
店舗全体のパフォーマンスを左右するのは個々の連携です。営業職同士の情報共有や整備職との連携、本部との連携など、チームプレイの重要度は非常に高いものがあります。 - 自己啓発・スキルアップへの取り組み
勤務時間外での勉強や資格取得、研修への参加意欲などを定性的に評価することで、社員の成長意欲を促進することが可能です。
3. 運用を成功させるためのポイント
せっかく精緻に設計した評価基準も、実際の運用でうまく回らなければその効果を十分に発揮できません。ここでは、自動車販売業で人事評価制度を運用するうえでの重要なポイントを解説します。
・評価者の育成(評価者研修・面談スキル)
- 評価者研修の必要性
評価はどうしても主観が混じりやすく、評価者ごとに基準が変わってしまうリスクがあります。そこで、評価者に対して評価の目的や評価項目、評価方法などを研修でしっかりと教えることが重要です。 - 面談スキルの強化
評価面談は単なる結果のフィードバックの場ではなく、社員の悩みや課題を吸い上げ、次の行動を導く場でもあります。上司にとっては、聴く力・質問力・アドバイス力が求められます。 - 公正性の担保
店舗の人員が少ない中小企業では、評価者と被評価者の距離が近く、情意や私情が評価に影響しやすい傾向にあります。評価項目を客観的に分解し、複数の評価者を交えて最終評価を決定するなど、公正性を確保する仕組みが求められます。
・フィードバック面談の重要性とポイント
- 事実ベースのフィードバック
「先月の販売台数が目標に対してどの程度達成できたのか」「どんな行動が成果につながったのか」「今後の改善点は何か」など、事実や具体例を交えてフィードバックすることが重要です。 - メンター的な役割
評価者は、評価するだけでなく、被評価者の成長や目標達成を支援する存在であることを意識しましょう。次の目標や学習課題を明確にし、必要なリソースやサポートを提示することが理想です。 - キャリアパスとの連動
フィードバック面談の中で、被評価者が将来どうなりたいか、どんなキャリアを望んでいるかを把握し、それに沿ったアドバイスや育成の方向性を提示することが大切です。
・評価結果の活用方法
- 報酬・昇給への反映
評価結果は昇給や賞与に反映されるのが一般的ですが、そこでの反映基準を明確にしておくことで、納得感を高められます。また、社員のモチベーションを高めるために、評価と報酬がどの程度連動するかをあらかじめ周知しておく必要があります。 - 昇格・配置転換
店長やリーダー候補などの要職登用、整備からサービスフロントへのキャリアチェンジなど、人材配置の参考情報として評価結果を活用することは極めて重要です。評価データをもとに“適材適所”を実現することで、組織全体の生産性を高められます。 - 研修・教育計画の策定
評価結果から浮き彫りになった組織や個人の弱点を踏まえ、研修計画や育成プログラムを立案できます。例えば「接客力に課題がある社員には接客研修を」「整備の品質にばらつきがあるなら技術研修を強化」など、評価結果と教育施策を連動させるのが理想です。
・育成計画・キャリアパス設計への活用
- キャリアパスの具体化
評価制度で求めるスキルや行動を階層別に整理し、「新入社員→中堅社員→リーダー→管理職」と段階的にレベルアップする仕組みを作ります。評価結果で達成度合いを測定しながら、キャリアステップを踏ませていく流れを明確化すると、社員の成長意欲を引き出しやすくなります。 - 中長期的なリーダー育成
店舗運営や経営に携わる管理職を早期に育成する必要がある場合、評価制度を通じて「リーダーシップ」や「マネジメント力」が高い社員を発掘し、計画的な育成を行います。店長候補や複数拠点を管理する統括マネージャーなど、中長期的な人材育成ビジョンを描くのに有効です。
・社員モチベーション向上施策との連動
- インセンティブ制度の導入
営業職を中心に、個人やチームの達成度に応じたインセンティブ(報奨金)を付与する方法は一般的です。ただし、インセンティブだけに頼ると短期的な数値しか見なくなる可能性があるため、定性的な評価とのバランスを取ることが大切です。 - 社内表彰やイベント
評価制度の結果として優秀な業績を収めた社員を定期的に表彰する仕組みや、達成度が高い店舗・チームを発表するイベントなどは、組織全体のモチベーションを高める手段となります。 - スキルアップ支援
評価結果をもとに資格取得支援、外部研修への参加補助などを積極的に行うことで、社員の自己成長意欲を高められます。こうした施策は定着率向上にも寄与します。

4. 実践のヒント・具体例
ここでは、自動車販売業の現場で評価制度を導入・運用するにあたり、実際に役立ちそうなヒントや具体例をいくつかご紹介します。
- 評価項目の明確化と可視化
- 例:営業職の場合、評価シート上で「販売台数」「粗利貢献度」「顧客満足度(CS)」「チーム貢献度」「行動評価(提案スキル・コミュニケーション力など)」をそれぞれ点数化し、ウェイトを設定する。
- 定量評価と定性評価を混在させる場合、それぞれの配点や比率を明示する。
- 評価周期の設定
- 四半期ごとや半年ごと、1年ごとなどのスパンを決め、都度フィードバック面談を実施する。
- 車販営業職など短期目標を追いかける場合は四半期ごと、整備職など長期的視点が必要な場合は半年・年次など、職種特性に合わせて変える事も考えられる。
- 目標管理(MBO)との組み合わせ
- 評価制度とあわせて、社員一人ひとりが期初に目標を設定し、期末に振り返りを行うMBO(Management By Objectives)を組み合わせる例は多い。
- 目標は売上や台数といった定量指標だけでなく、研修受講や資格取得などの成長目標も含める。
- 評価者間のすり合わせミーティング
- 店長や拠点長など、複数の評価者で評価のすり合わせを定期的に実施し、評価のばらつきを抑える。
- 「この行動をどのように評価すべきか」といった具体的事例を持ち寄り、議論することで評価精度を高めることができる。
- 外部コンサルタントの活用
- 評価制度の設計や研修の実施において、外部の人事コンサルタントを活用するのも一つの方法です。自社だけでは気づきにくい業界全体のトレンドや他社事例を取り入れやすくなります。
5. まとめ
最後に、本コラムで取り上げたポイントを改めて整理し、自動車販売業特有の人事評価制度の在り方について総括します。
・ポイントの再確認
- 自動車販売業特有の人事課題
- 採用・定着・育成に関わる課題が多面的に存在し、しかも業務内容や職種が多岐にわたるため、評価制度は業界特有の事情を十分考慮して設計する必要がある。
- 人事評価制度の重要性
- 採用時の魅力向上や社員の定着率アップ、育成の効率化などに直結し、自動車販売店にとって評価制度は経営の根幹となる。
- 公正な評価と丁寧なフィードバックが、組織全体の活性化と売上向上を後押しする。
- 評価基準の設定
- 営業・整備・サービスフロント・営業サポート・本部など、それぞれの職種の特性を踏まえたうえで、定量的評価と定性的評価を組み合わせる。
- 数字だけに偏らず、顧客満足度やチーム貢献度、自己啓発などもバランスよく盛り込むことで、短期的な成果主義の弊害を防ぐ。
- 評価制度の運用ポイント
- 評価者研修、面談スキルの強化、公正性の担保が不可欠。
- フィードバック面談や評価結果の報酬・昇格への連動が社員のモチベーションを左右する。
- 評価データを活かして育成計画・キャリアパス設計を行い、人材の成長を長期的に支援する。
- 実践のヒント
- 具体的な評価シートの作成、MBOとの組み合わせ、評価者間のすり合わせなど、細かな工夫が制度定着を後押しする。
- 必要に応じて外部コンサルタントの力も借りつつ、継続的に評価制度をブラッシュアップしていくことが大切。
・自動車販売業に合った評価項目の設定
自動車販売業では、「販売台数」「粗利」「整備品質」「顧客満足度」など、定量指標が比較的設定しやすい職種が多い一方で、顧客対応やチームワークなど定性的に見るべき項目も多く存在します。評価制度を設計する際には、部門や職種ごとに必要なスキルや行動規範を整理し、その上で定量・定性の両面から評価項目を作成することが重要です。
また、評価項目は一度作って終わりではなく、経営方針や市場環境の変化に合わせて見直しを行い、常に最新の状況に適応させることが成功の秘訣です。
・評価者育成とフィードバック面談の重要性
どんなに素晴らしい評価シートや基準を用意しても、運用段階で評価者の力量や面談スキルが不足していると、不公平な評価や不十分なフィードバックになりがちです。評価者自身が自社の評価制度を深く理解し、公正性を意識しながら評価と面談を行えるよう、体系的な教育と定期的なフォローアップが欠かせません。
さらに、面談はあくまで「上司が評価結果を一方的に伝達する場」ではなく、「部下の意見や悩みを共有し、次の行動を支援する場」であることを全社的に認識すると、制度そのものへの信頼感と社員のモチベーションが向上します。
終わりに
本コラムでは、中小自動車販売業の経営者や人事担当者の方に向けて、人事評価制度を設計・運用するうえで押さえておきたいポイントや、業界特有の事情を踏まえた評価基準の在り方について解説してきました。自動車販売業は職種が多岐にわたるだけでなく、お客様との長期的な関係づくりが重視される点で、評価制度の設計には工夫が求められます。
しかし、人事評価制度をしっかり整備し、定着させることができれば、採用力・定着率・社員の成長スピード・売上・CS向上と、多面的なメリットが得られる可能性が高まります。次回のコラム(第2回)では、「自動車販売業(カーディーラー)の人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」と題して、評価制度導入の際に想定されるメリットやデメリット、さらにはそれらをカバーする具体策や成功事例を取り上げる予定です。ぜひ併せてご覧いただき、自社の人事制度構築の一助としていただければ幸いです。
自動車販売業の現場を理解したうえで設計・運用される人事評価制度は、組織全体の生産性を上げ、社員一人ひとりのキャリアを充実させる原動力となります。もし、具体的に「自社の評価制度を見直したい」「評価者研修を実施したい」などのご要望がありましたら、人事コンサルタントとしてお力になれれば幸いです。みなさまのビジネスの成長と社員の活躍を、今後も全力でサポートしてまいります。

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