建設業に特化!現場職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

第3回:「建設業に特化!現場職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」

現場職は工期や安全管理、技能継承など、建設業の根幹を支える重要な存在です。しかし、その評価は「成果が見えにくい」「外部要因の影響が大きい」といった理由で後回しにされがち。

本コラムでは、現場職ならではの評価ポイントを定量・定性の両面から整理し、各企業が取り入れやすい運用事例を紹介しています。たとえば、単なる作業効率だけでなく、安全意識やチームワーク、技能指導の成果などをどう評価基準に落とし込むか。

こうした工夫ができれば、社員一人ひとりのモチベーション向上と離職率低下につなげることが可能です。ぜひ、ご覧ください。

目次

1. はじめに

本コラムの目的と背景

  • これまでの連載の振り返り
  • 現場職を取り巻く課題と重要性

建設業界全体の人事評価制度について、これまでのコラムでは導入・運用時のポイントやメリット・デメリットなどを解説してきました。とりわけ、人材不足や定着率の低下、技能継承の停滞など多くの課題を抱える建設業では、人事評価制度が「採用・育成・定着」の三位一体となった戦略を支える基盤となります。

しかし、経営者や人事担当者からは「現場職の評価が難しく、後回しになりがち」という声がしばしば聞かれます。現場職は天候や資材の納期、他の協力会社との連携など外部要因に左右されやすく、数値化が難しい領域も多いため、評価制度を整えるハードルが高いのです。その結果、「事務所主導の基準が現場の実態に合わない」「評価項目が曖昧でモチベーションにつながらない」といった問題が起こりやすくなります。

本コラムでは、そうした現場職特有の事情を踏まえながら、評価制度をどのように設計し、活用すれば効果的かについて解説します。前回までの連載内容を振り返りつつ、具体的な評価指標の作り方や事例も紹介し、経営者・人事担当者が現場職の評価制度をブラッシュアップする際に役立つ情報を提供していきます。

建設業における「現場職」への人事評価制度の導入状況

  • 現場職の評価が後回しにされやすい理由
  • 経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ

多くの企業が「評価制度の必要性は感じているが、構築・運用のコストが大きい」「客観的な指標をどう設定すべきか分からない」といった課題を抱えています。特に現場は業務負荷が高く、細かい評価指標の定義や面談の時間確保が困難なため、後回しになるケースが目立つのです。次章では、このように難しさを感じる主な要因を整理するとともに、解決に向けた基本アプローチをご紹介します。


2. 現場職の評価が難しい理由とその対策

現場職の人事評価が難しい3つの事情

1)外部要因の影響が大きい
建設現場では、天候不良や資材遅延、協力会社との調整ミスなど、自社だけではコントロールしきれない要因が数多く存在します。工期遵守や出来高といった客観的指標を用いても、一概に「本人の能力・努力の成果」とは結びつけにくい面があるのです。

2)定性的なスキルが多く、数値化が難しい
現場で必要とされる技能やノウハウは、熟練した職人の「経験」と「勘」によって大きく左右されます。また、安全意識や後輩指導など、数字だけでは測れない重要な要素も多く、評価基準の設計そのものが難しくなりがちです。

3)評価者とのコミュニケーション不足
経営者や人事担当者は現場の詳細を把握しづらく、評価者が主観的に判断してしまう危険性があります。忙しい現場では報告や面談の機会が限られ、適切なフィードバックをする仕組みがないまま評価が進んでしまう場合も珍しくありません。

課題を解決するための3つの基本アプローチ

1)定量指標と定性指標をバランスよく導入する
工期遵守率や品質関連の数値など「定量的に見やすい指標」と、チームワークやコミュニケーション、主体性など「定性的に評価すべき指標」の両面を組み合わせます。数値に偏りすぎると外部要因の影響を過大評価してしまいがちですし、逆に定性に寄りすぎると主観的になりがちです。バランスよく配置してこそ、公平性と納得感が得られます。

2)評価者が現場を理解する仕組みづくり
現場に足を運び、スタッフの働きぶりを直接観察する機会を増やすこと、現場リーダーや職長と評価者が定期的にコミュニケーションをとる仕組みを整えることが有効です。写真や動画、作業工程の記録をオンライン上で共有するなど、現場のリアルを把握できるようにしておくと、評価の質が向上します。

3)評価から育成へとつなげる意識づけ
評価制度はゴールではなく、現場のスタッフが成長し、組織としての成果を高めるための手段です。評価結果を正しくフィードバックし、改善策を提示するプロセスを大切にすることで、スタッフ自身が「次にどう行動すればよいか」を明確に把握できるようになります。優秀なスタッフには適切な表彰や報酬を与え、組織全体のモチベーションを底上げする仕組みにしましょう。


3. 現場職向けの人事評価制度設計ポイント

定量評価の主要ポイント3選

1)安全管理に関する指標
建設業において最も重視されるのが「安全管理」です。具体的には「安全パトロールの実施回数」「ヒヤリハット報告の数と内容」「安全教育への参加率」などを指標化できます。また、「災害件数をゼロにする」という目標だけでなく、日々の安全意識を高める取り組みにもスポットを当てることで、スタッフの意識向上が期待できます。

2)工期遵守率・進捗管理
工期遵守率や計画工程どおりに作業が進んだ割合を評価指標として取り入れます。ただし、天候不良や資材トラブルなど不可抗力の要因がある場合は、一定の補正基準を設けることが重要です。現場のスタッフが無理をして安全を損ねることがないよう、成果のみならずプロセスも評価対象に含めるとよいでしょう。

3)品質・出来高に関する指標
コンクリート施工ならば仕上がりの平坦度やクラックの少なさ、設備工事なら配管検査の合格率など、仕事内容に応じた品質指標を設定します。複数の品質指標を組み合わせることで、現場スタッフが具体的にどのレベルを目指せば高評価を得られるのかを理解しやすくなります。

定性評価の主要ポイント3選

1)チームワーク・コミュニケーション
建設工事は多職種が協働して進めるため、情報共有不足や意思疎通の乱れがトラブルの原因となりがちです。そこで、「報・連・相(報告・連絡・相談)の適切さ」「後輩や新人への声掛けと指導力」「協力会社との連携とコミュニケーション」などを評価基準として設定します。

2)安全意識・リスクマネジメント
定量評価でも安全管理指標は扱いますが、日常の行動レベルでの安全意識も重要です。「作業前の安全確認をどこまで徹底しているか」「不安全行動を見つけた際に自主的に是正できているか」などを評価し、スタッフの安全意識を高める方向へ誘導します。

3)主体性・改善意欲
現場は刻一刻と状況が変化するため、スタッフ一人ひとりが主体的に動いて問題を解決することが求められます。「作業効率アップのアイデア提案」「他スタッフへの積極的なサポート」「品質向上のための自主的な取り組み」など、本人の主体性や改善意欲を定性的に評価する仕組みを用意しましょう。

評価結果の活用方法

  • 昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
    評価結果は報酬や賞与の決定に直接関わるものですが、それだけに留めず、現場職の長期的なキャリアパスも明確に示すべきです。たとえば「一定の評価水準をクリアすれば、施工管理技士などの資格取得支援を得られる」など、目指すべき目標を提示するとモチベーションが高まります。
  • スキルマップや資格取得支援制度との連動
    評価を通じて得られた各スタッフの得意分野や課題をスキルマップに落とし込み、資格取得支援制度や研修制度と紐づけます。これにより、企業は効果的に人材を育成でき、スタッフも自身のキャリアビジョンを具体的に描きやすくなります。

4. 現場職向け 人事評価制度の活用事例

事例1

  • 導入背景
    A社は公共工事を中心に手掛ける中堅ゼネコンです。ベテラン職人の離職が相次ぎ、若手の定着率も低迷していたことから、人事評価制度をテコにして技能継承やモチベーション向上を図ろうと考えました。
  • 導入内容
    まず職長や現場代理人らとヒアリングを行い、工期遵守率・安全管理・品質検査結果といった定量指標を整理。一方で「チーム連携」「後輩育成」「日頃の安全パトロールへの積極性」を定性評価項目の軸に据え、具体的な評価基準をマニュアル化しました。評価結果は報酬に反映するだけでなく、成績が優秀な若手を対象に資格取得補助金を出し、キャリアアップを後押しする仕組みを構築。結果として、若手の離職率が改善し、各現場の安全意識も大きく向上しました。

事例2

  • 導入背景
    B社はリフォーム工事を主力とする地元密着型の中小企業。顧客満足度のばらつきが課題で、「担当者によって仕上がり品質や対応が異なる」というクレームも増えつつありました。そこで、現場スタッフの技術力と接客力を総合的に高めるため、人事評価制度の見直しに踏み切りました。
  • 導入内容
    まず「技術力」「コミュニケーション力」「顧客対応」を大項目とし、それぞれに定量・定性の細かい評価基準を設定。具体的には「工事の施工精度」「顧客へのヒアリングや提案の丁寧さ」「作業後の片付けと清掃の徹底度」などを挙げ、顧客アンケート結果も参考に評価を行う仕組みを整えました。さらに、評価結果が高いスタッフは社内で表彰し、特別手当を付与。これにより、スタッフ同士での指導やノウハウ共有が活発になり、顧客満足度が向上しただけでなく、クレーム件数も大幅に減少しました。

5. まとめ

本コラムのポイント

  • 現場職特有の評価項目の設定
    建設業の現場職は天候や資材など外部要因の影響が大きい一方で、安全管理やチームワーク、主体的な改善提案など、数値だけでは捉えきれない要素も重要です。定量評価と定性評価をバランスよく組み合わせ、公平性と納得感を高めることが不可欠です。

制度導入・運用における今後のステップ

  • 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
    建設業界は技術進歩や社会環境の変化が激しく、現場のニーズも常に変化しています。一度決めた評価基準や運用プロセスも、定期的にレビューしてアップデートする姿勢が大切です。
  • キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
    評価結果を昇給・賞与に反映するだけでなく、キャリアパスや資格取得支援、研修プログラムなどに反映することで、若手や中堅社員の成長を加速させ、組織全体の人材力を底上げします。
  • 現場職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
    安全管理や品質管理に力を入れた評価制度は、最終的に施工品質や顧客満足度の向上につながり、会社の業績アップにも大きく貢献します。現場の声を積極的に拾いながら、実効性のある評価制度をブラッシュアップし続けることが重要です。

このように、建設業における現場職の人事評価制度は、単なる査定の道具ではなく、組織の生産性向上や人材育成、定着率改善など、多面的なメリットをもたらす重要な仕組みです。実際の評価においては、日々の作業現場での観察や定期的なコミュニケーション、そして評価結果を次のステップ(研修やキャリアパス設計など)に繋げる工夫が欠かせません。ぜひ本コラムで紹介した事例やアプローチを参考に、自社の現場職がやりがいを持って働ける評価制度の構築を目指してみてください。業界全体が人手不足や技能継承といった課題を抱えるなか、現場スタッフ一人ひとりの成長を促すことが、建設業界全体の持続的な発展へと繋がることでしょう。

最後に、評価制度を整えるだけでなく、その内容を社内に周知・徹底し、継続的にアップデートしていく姿勢が重要となります。特に現場職は、業務内容や作業環境が常に変化しており、また個々のスタッフの得意分野やキャリア意向も様々です。評価制度を通じて、それらの変化と多様性を柔軟に反映し、組織全体の生産性と働きやすさを両立する取り組みを続けていきましょう。建設業がより魅力的な職業となり、多くの優秀な人材が現場で活躍できる環境を築くために、今後も人事評価制度の活用と改善に注力していくことが望まれます。

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