卸売業に特化!営業サポートに活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

目次

1. はじめに

1.1 本コラムの目的と背景

これまでの連載コラムでは、卸売業における人事評価制度の必要性・メリットや、営業・物流・仕入・営業サポートなど各職種の特徴に応じた評価指標の作り方、運用時の注意点などをお伝えしてきました。特に、第5回までは営業・物流・仕入のような“動き”や“目に見える成果”が多い職種を中心に解説を行いました。

しかし、卸売業には「営業サポート職」と呼ばれる重要なポジションが存在します。営業サポートは、営業担当者の業務を支えるだけでなく、社内外の調整や顧客とのやり取り、受発注管理、書類作成など多岐にわたる業務を担うことが一般的です。これらの業務は、直接的に数字(売上・コスト)には表れにくい反面、企業全体のオペレーションをスムーズに動かす要となる重要な役割でもあります。

そこで本コラムでは、営業サポート職に特化した人事評価制度のポイントを取り上げ、具体的な設計のアプローチや事例を紹介します。営業サポート職の方々が、評価制度のなかで正しく評価され、長期的なキャリア形成ができる環境を整えることは、企業全体の成長や従業員エンゲージメント向上に直結するはずです。

1.2 営業サポート職を取り巻く課題と重要性

1.2.1 サポート職が求められる背景

卸売業における営業サポート職の役割は年々増しています。以下のような要因がその背景として挙げられます。

  • 業務の複雑化
    複数の仕入先から多種多様な商品を扱い、多数の顧客へ納品するケースが増えると、受発注管理や在庫確認、物流手配などの業務も複雑化します。営業担当だけでなく、サポートスタッフが効率的に処理しなければ、現場が混乱してしまいます。
  • 顧客対応の迅速化
    今日の市場では、B2B取引でもスピードや正確性が求められます。問い合わせやクレームなどに迅速に対応するには、営業サポートが後方支援として確実に業務をこなすことが不可欠です。
  • 営業担当の生産性向上
    営業担当者が受発注や事務作業に追われると、本来注力すべき商談や提案活動が疎かになりかねません。営業サポートがこれらの雑多な業務を担うことで、営業担当は顧客折衝に集中できるようになり、売上アップへ繋がります。

1.2.2 課題と重要性

しかし一方で、営業サポート職に対しては以下のような課題が指摘されることが多いです。

  1. 定量的な成果指標の不明確さ
    営業サポート職は、直接的に売上を生む部署ではないため、その貢献度を数値化しにくい面があります。受発注件数や問い合わせ対応時間などを評価指標にすることは可能ですが、営業職ほど売上金額が分かりやすいわけではありません。
  2. 組織内の立ち位置が曖昧
    「サポート」というネーミングから、営業サポート職が軽視されるケースも残念ながら存在します。適切な評価制度が整っていないと、本人たちが「自分は裏方なのだから仕方ない」と感じ、モチベーションが下がる可能性があります。
  3. キャリアパスの不透明さ
    営業サポートとしての専門性を追求する道が社内に確立されていなかったり、数年働いた後に別部署(営業・総務など)への異動が暗黙の了解だったりと、長期視点でのキャリア形成がしづらい場合があります。

このような課題を解消し、サポート職が最大限の力を発揮するためには、「何を、どのように評価し、それを組織と個人の成長につなげるか」を明確に示す人事評価制度が不可欠です。

1.3 卸売業における「営業サポート職」への人事評価制度の導入状況

1.3.1 営業サポート職の評価が後回しにされやすい理由

  • 業務が定型化・反復化しやすい
    事務処理や問い合わせ対応はルーチンワークに分類されがちで、評価項目が「ミスなくこなしているか」だけになりやすい。結果、評価基準が単調になりがちです。
  • 成果の可視化が弱い
    営業職は売上などに直結しやすく、物流や仕入職はミス率やコスト削減といった指標が立てやすいのに比べると、営業サポート職の成果は「仕事が円滑に回っている状態」でしか測れず、定量化しにくいという面があります。
  • 現場優先で制度構築が遅れる
    企業によっては営業サポート職が少人数だったり、正社員以外の契約形態の人材を多く採用していたりすることもあり、人事評価制度の整備が後回しになってしまうのです。

1.3.2 経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ

  1. 個々人の業務範囲が多岐にわたる
    営業サポートの業務は受発注処理、請求書発行、見積書作成、顧客問い合わせ対応など多種多様です。誰が何をどの程度行っているか把握しづらく、統一的な基準が立てにくい。
  2. 顧客満足度への貢献度が測りにくい
    サポート職が良い仕事をすれば、顧客は営業担当に対して満足度を高め、結果的に受注が増えるかもしれません。しかし、その因果関係を直接的に数値化するのは難しいため、評価しきれない部分が生じます。
  3. 他部門との連携度合い
    サポート職は、営業・仕入・物流・経理など、社内外との連携が多いポジションです。どれだけ連携をスムーズに進められるかで業務効率が変わるものの、それを客観的に評価する仕組みが不足しがちです。

2. 営業サポート職の評価が難しい理由とその対策

2.1 営業サポート職の人事評価が難しい3つの事情

  1. 「裏方」というイメージが先行
    前述のように、成果が見えにくい裏方業務と捉えられることが多く、「営業の付属的存在」という見方が根強いと、評価制度の整備が後手に回る可能性があります。
  2. 社員ごとに業務内容・範囲が異なる
    ある社員は受発注管理がメイン、別の社員は顧客問い合わせ対応がメインといったように、同じ部署名でも担当分野が大きく異なる場合があります。全員一律の指標が作りづらいのが実情です。
  3. 一部の業務は外注やシステム化で代替可能
    受発注や在庫管理がシステム化されると、サポート職が担っていた仕事の一部は外注や自動処理に移行することがあります。そのため、制度設計が不変ではいられず、変化に対応するアップデートが求められます。

2.2 課題を解決するための3つの基本アプローチ

  1. 定量・定性指標のバランスを確保
    営業サポート職の評価では、定量指標として「処理件数」「対応時間」「ミス率」などを挙げることが可能です。また、定性指標では「顧客満足度」「社内連携」「コミュニケーション力」などが重要となります。どちらか一方だけでは偏るため、両面を組み合わせた評価が基本です。
  2. 職務内容ごとの評価基準を細分化
    営業サポートといっても、業務範囲は人によって異なります。受発注担当、問い合わせ担当、見積書作成担当など、具体的な職務内容を洗い出し、それぞれに合った評価項目を設定するアプローチが有効です。
  3. 評価者間の情報共有とキャリブレーション
    営業サポート職の評価は、営業担当や他部門のリーダーの意見も大いに関係します。評価の際には、関連部署からのフィードバックを集める仕組みを作り、評価者同士で基準のすり合わせ(キャリブレーション)を行うことで、客観性と公平性を保ちやすくなります。

3. 営業サポート職向けの人事評価制度設計ポイント

3.1 定量評価の主要ポイント3選

  1. 対応件数・処理速度
  • 受発注件数: 一定期間に処理した件数、ミス率、迅速性などを測定。
  • 問い合わせ対応: 顧客や営業担当からの依頼をどれだけ素早く正確に処理したか。平均対応時間1日あたりの処理量を指標化する。 これらの定量指標を活用すれば、サポート職がどれほど業務をこなしているかが分かりやすくなります。ただし、件数だけを追いすぎると品質がおろそかになるリスクがあるため、質とのバランスを考慮する必要があります。
  1. エラーレート(ミス率)
    サポート業務では、受注ミスや請求書作成ミス、データ入力ミスなど、細かいエラーが発生しやすいです。これらを定量的に把握し、一定水準以下に抑えることを評価目標にすることで、正確性や注意力を高められます。ただし、どこからどこまでを「個人の責任」にするか、システム不具合や他部門の誤情報などの要因をどこまで考慮するかを明確化しておくことが重要です。
  2. 二次的成果指標
    営業サポート職は直接売上やコスト削減に表れないものの、間接的な成果として「営業が本来業務に集中できるようになった」「顧客満足度が向上した」などが挙げられます。これを定量的に把握するために、営業担当の稼働時間削減量顧客アンケートでの対応満足度などを導入してみるのも一つの手です。

3.2 定性評価の主要ポイント3選

  1. コミュニケーション力・チームワーク
    サポート職にとって、社内外の関係者とスムーズに連携する能力は不可欠です。営業担当・仕入・物流・顧客などとのやり取りを円滑に進められるか、トラブル時にどのように対処・調整できるかなど、コミュニケーション面での評価は重要な定性指標となります。
  2. 問題解決力・主体性
    受注トラブルやクレーム対応など、イレギュラーが起きた際に主体的に動いて解決できるかが、優秀なサポートスタッフとそうでないスタッフを分ける要素です。システムトラブルや在庫不足などに対しても、迅速に関係部署と連携して解決策を提示する力が評価されるべきでしょう。
  3. 顧客対応スキル・マナー
    電話やメールでの応対マナー、顧客の要望を正確にヒアリングし営業へフィードバックする力など、いわゆるCS(顧客満足)に直結する業務を評価対象に含めます。顧客からの感謝の声やクレーム件数の変動も参考になりますが、単純な数字だけでなく、上司や顧客からの定性的なフィードバックが有効です。

3.3 評価結果の活用方法

3.3.1 昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす

  • 管理職コース(リーダー職)
    大規模な卸売企業では、営業サポート部門がチーム制を敷いている場合もあります。リーダー候補を選抜する際には、定量面での処理能力だけでなく、コミュニケーション力やマネジメント資質が評価されるため、定性評価で高評価を得た社員を育成対象にするのが効果的です。
  • スペシャリストコース(事務・オペレーションの専門家)
    マネジメントには興味がなくても、受発注管理や基幹システムの運用などに精通し、業務フロー改善をリードできるスペシャリストが求められることも多いです。ここでは、システム知識や業務改善スキルを高めた人材を適切に評価し、給与や役職で報いる制度が必要になるでしょう。

3.3.2 スキルマップや資格取得支援制度との連動

  • スキルマップの作成
    営業サポートに必要なスキル(受発注管理システムの操作、エクセル関数、プレゼン資料作成、コミュニケーション術など)をリスト化し、レベルごとに明示することで、社員は「次に習得すべきスキル」を把握しやすくなります。
  • 資格・研修のインセンティブ
    事務系の資格(MOSなど)や秘書検定、ビジネスマナー講座、コミュニケーション研修など、受講や取得によってプラス評価を付与する仕組みを導入すると、学習意欲と業務効率の向上を同時に図れます。

4. 営業サポート職向け 人事評価制度の活用事例

以下、実際に(架空の)企業で営業サポート職の評価制度を導入・運用しているケースを2つ紹介します。

4.1 事例1

4.1.1 導入背景

A社は、食品や日用品を扱う卸売企業。営業部門の規模が拡大し、営業サポート部門も10名ほどに増えてきたものの、明確な人事評価基準が存在していませんでした。

  • 各サポート担当はバラバラのやり方で業務を進めており、受発注ミスが多発。
  • 業務内容が不透明で「何を頑張れば評価されるのか分からない」という声がサポートスタッフから上がっていた。
  • 営業担当からも「対応が遅い」「誰が何を担当しているか分からない」という不満が表面化。

4.1.2 導入内容

  1. 職務内容の可視化と細分化
  • 営業サポートの業務を「受発注」「見積書作成」「在庫確認」「顧客問い合わせ対応」などに分解し、業務フローをマニュアル化
  • 社員ごとに担当領域を整理し、役割を明確にした。
  1. 評価項目の設定
  • 定量指標: 受発注処理件数、処理ミス率、問い合わせ対応数、問い合わせ対応の平均時間など。
  • 定性指標: コミュニケーション(顧客・社内)、イレギュラー対応力、社内連携・チームワークなど。
  • これらの指標を合計100点満点に割り振り、半年ごとに自己評価と上司評価を実施。
  1. フィードバック面談とキャリア設計
  • 半年に一度の評価面談で、定量・定性評価の結果を共有し、どの業務でどのような貢献があったかを具体的に話し合う。
  • 将来的にリーダー職を目指したい社員には、管理スキル研修やチームミーティングの運営役を任せて、早期育成につなげる。

導入後の成果

  • ミス率の低下と対応スピードの向上
    受発注や問い合わせ処理のミス率が2%から1%以下に減少し、顧客からのクレームも大幅に減った。評価項目に処理精度やスピードが含まれることで、サポートスタッフが正確性と迅速さを意識するようになった。
  • 社員のモチベーション向上
    具体的な目標を与えられたサポートスタッフは「自分の仕事が企業にどれだけ貢献しているか」が可視化され、モチベーションが高まった。中には「次はリーダー職を狙いたい」とキャリアアップを意欲的に語る社員も出てきた。
  • 業務効率と部門間連携の改善
    業務フローのマニュアル化により、営業担当とサポート担当の連携がスムーズになり、問い合わせ対応や在庫確認の二度手間が減少。結果的に営業部の売上活動にもプラスの影響があった。

4.2 事例2

4.2.1 導入背景

B社は、IT関連製品やオフィス用品を扱う中堅卸売企業。社内システムが高度に整備され、受発注はほぼオンラインで管理されているが、顧客対応や営業支援の範囲が広がるにつれ、サポート職の業務負荷が急増していた。

  • システム管理やマニュアル整備をサポート職が担い、属人的に運用している状態。
  • 社員それぞれが異なるスキルセットを持ち、評価軸が曖昧だったため、不公平感が漂っていた。

4.2.2 導入内容

  1. スキルマップとレベル制度の導入
  • 営業サポートに必要なITスキル、コミュニケーションスキル、問題解決力などをレベル1〜5で定義
  • 各社員が自己評価し、上司も客観的に評価を行い、ギャップを埋めるための研修やOJTを提供する仕組みに。
  1. 定量・定性評価の両立
  • 定量指標: システムへの入力件数、システムトラブル対応件数、対応時間、ドキュメント整備量など。
  • 定性指標: 部門間の連携、課題解決の提案数、顧客満足度への貢献(アンケートや営業担当からのフィードバック)など。
  • 半年ごとに全社的な評価フォーマットを用い、評価者は営業管理職とサポート部門リーダーが共同で行う。
  1. キャリアパスの拡充
  • 管理職コースだけでなく、「ITスペシャリスト」としてシステム運用・開発寄りのキャリアを進める道も設定。
  • 資格取得(MOSやITパスポートなど)や外部研修への参加を評価ポイントに組み込み、新しいスキル習得を奨励

導入後の成果

  • 属人的な運用の解消と業務標準化
    スキルマップとレベル制により、各社員が保有する知識やノウハウが可視化され、新人でも早期にキャッチアップできる体制が整った。個々人のITスキルレベルも向上し、システムトラブル時の対応スピードが大幅に改善。
  • 評価の透明性と納得度の向上
    どのような観点で評価されるかが明確になり、サポート職内での不公平感が減少。自己評価と上司評価で差がある場合も、具体的に話し合うことで認識のすり合わせが容易になった。
  • 多様なキャリアの実現
    従来は営業への異動が“出世コース”という認識が強かったが、ITスペシャリストやサポートリーダーなど、サポート職としての専門性を高める道が社員の視野に入るようになった。これにより、離職率が下がり、組織の定着率が上昇している。

5. まとめ

5.1 本コラムのポイント

  1. 営業サポート職特有の評価項目の設定
  • 定量評価: 処理件数、対応時間、ミス率、顧客や社内からの要望対応数など
  • 定性評価: コミュニケーション力、問題解決力、顧客満足度、チームワーク・部門間連携など
  • 併せて、業務フローごとの可視化や、職務内容の細分化が効果的
  1. 評価制度を昇給・賞与だけでなくキャリアパスの構築に活かす
  • 管理職(リーダー・マネージャー)への道と、スペシャリスト(事務・システム運用)への道を整備
  • スキルマップや資格取得支援を絡めることで、社員の成長を促進
  1. 具体事例から学ぶ実運用のヒント
  • 事例1: 営業サポート業務を細分化し、ミス率や対応スピードを指標化。業務フロー可視化&キャリア設計でモチベーションアップ
  • 事例2: スキルマップ・レベル制度で属人的な運用を解消し、ITスペシャリストや管理職など多様なキャリアを実現

5.2 制度導入・運用における今後のステップ

  1. 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
    営業サポート業務は、システム化や新規サービス導入などに伴って常に変化しています。定期的に現場の意見をヒアリングしながら、評価項目やキャリアパスをアップデートしていくことが大切です。
  2. キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
    若手社員が長期的な視点でスキルを磨けるよう、評価制度と研修・OJTを連動させ、明確な到達目標とインセンティブを用意しましょう。現場のキーマンとなるリーダーを育てることで、組織の持続的成長につながります。
  3. 営業サポート職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
    営業サポートは“裏方”ではあるものの、会社の売上や顧客満足度を支える基盤となる職種です。評価制度がしっかりと設計・運用されれば、社員個々の成長を引き出し、企業全体の業績アップやブランド価値向上にも寄与します。

おわりに

本コラムでは、卸売業における営業サポート職の人事評価制度に注目し、その重要性や設計のポイント、実際の導入事例を紹介しました。営業サポート職は、直接的な数字(売上・コスト)には現れにくいものの、企業活動を支える“縁の下の力持ち”として非常に重要なポジションです。

適切な評価制度を整えることで、処理スピードや正確性の向上、コミュニケーションの円滑化など、多くのメリットが期待できます。また、社員のモチベーションを維持し、定着率を上げるうえでも、サポート職の役割と貢献度を“見える化”する意義は大きいでしょう。

最後に、企業規模や扱う商材、システム環境によって、営業サポート職に求められるスキルや業務範囲は異なります。人事評価制度を導入・運用する際は、自社の実態を正確に把握したうえで、柔軟にカスタマイズすることが重要です。もし具体的な導入ノウハウや他社事例が必要であれば、人事コンサルタントの力を借りて検討を進めるのも一つの手段です。

本コラムが、これからの人事評価制度の見直しや導入を進める際の一助となれば幸いです。今後も引き続き、卸売業の皆さまが組織力を高め、事業を発展させるための情報をお届けしてまいります。ぜひ次回以降のコラムもご覧ください。

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