保育園に特化 | 管理職(園長、副園長)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

保育園に特化 _ 管理職(園長、副園長)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

目次

1. はじめに

本コラムの目的と背景

これまでの連載では、保育士や主任保育士などに特化した人事評価制度の設計・運用ポイントを取り上げてきました。人材不足や離職率の高さが課題となる中小保育園において、人事評価制度が果たす役割はますます大きくなっています。採用・定着・育成の各局面で効果を発揮する評価制度をいかに構築し、活用していくか——その糸口をこれまでのコラムでご紹介してまいりました。

今回の第5回コラムでは、保育園組織のトップマネジメントである**「園長」や「副園長」**といった管理職に焦点を当てます。園の経営方針や理念を実行に移し、かつ現場を統括する“指揮官”として重要な役割を担う管理職ですが、その評価の難しさから後回しにされがちな領域でもあります。そこで本コラムでは、園長・副園長の評価がなぜ難しいのか、どのように制度を設計・運用すればよいのかを具体的に解説し、成功事例をご紹介します。

管理職(園長、副園長)を取り巻く課題と重要性

園長や副園長は、保育現場を支えつつ、人事・財務・対外折衝など多岐にわたる業務をこなさなければなりません。中小保育園の経営者にとっては、事業規模がそれほど大きくないゆえ、園長・副園長の役割が組織パフォーマンスの大半を左右するといっても過言ではありません。園内のマネジメントはもちろん、地域との連携や行政対応など、管理職の手腕が問われるシーンは多々あります。

しかし、現場の保育士や主任の評価に比べ、園長・副園長の評価をしっかりと設計している園はまだ少ないのが実情です。管理職だからこそ、**「どのように成果を測り、どのように処遇に反映するのか」**が曖昧になりやすく、評価制度そのものを導入しないままになっているケースもあります。

中小保育園における「管理職(園長、副園長)」への人事評価制度の導入状況

管理職(園長、副園長)の評価が後回しにされやすい理由

  1. トップの裁量が大きい
    中小規模の保育園では、創業者や理事長が直接園長を兼務している場合や、園長と経営者の距離が極めて近いケースが多々あります。結果として、「お互いの信頼関係で評価を済ませてしまう」ため、制度として形にしづらいのです。
  2. 役職手当で済ませる風土
    園長・副園長には一定の役職手当が支給され、「役職なら当たり前」という風潮で終わってしまうことが少なくありません。評価制度によって成果や業務内容を定期的に見直す文化が根付いていないケースが多いのです。
  3. 業務範囲が多岐にわたる
    園長・副園長の仕事は、保育内容のチェックだけでなく、経営管理、行政対応、保護者との交渉、スタッフの人事管理など非常に幅広いものです。どの部分を評価対象とし、どう指標化するかを整理できず、導入が遅れるという声も聞かれます。

経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ

  • 客観的な基準が作りにくい
    園長や副園長は組織のトップクラス。固定概念で「偉い立場だから評価が不要」という認識もある一方、「評価する側をどう評価すればいいのか」という悩みが生まれがちです。
  • 評価者が不在になりやすい
    園の設立者や理事長が評価するにしても、日常業務を細部まで把握していないこともあり、評価者との距離感が大きくなりがちです。
  • 結果とプロセスのバランス
    園児数の増加や収支改善といった結果指標だけでなく、現場の満足度や保育の質向上など、長期的視点も取り入れる必要があり、評価設計の難易度が高まります。

2. 管理職(園長、副園長)の評価が難しい理由とその対策

管理職(園長、副園長)の人事評価が難しい3つの事情

  1. 経営視点と現場視点の両立
    園長や副園長には、保育の質や職員育成だけでなく、経営面・収支面を意識した判断も求められます。そのため、**「事業の成果(経営指標)」「人材面での成果(離職率、満足度など)」**が混在し、単純な評価指標では測りきれない場面が多いのです。
  2. 長期的な成果が反映されにくい
    園長・副園長の仕事は、すぐに目に見えて利益や数字に直結するわけではありません。たとえば、地域連携や子育て支援策の拡充、組織づくりなど、成果が表れるまでに時間を要する案件が評価上で見過ごされがちになります。
  3. 兼任業務の多さ
    中小保育園では、園長や副園長が現場の保育に入ることも珍しくありません。保育業務の評価と管理業務の評価、さらには地域対応や行政対応など、複数の評価軸が絡み合うため、一元的に整理が難しくなります。

課題を解決するための3つの基本アプローチ

  1. 評価項目の細分化と優先度設定
    園長・副園長の役割を「経営管理」「保育品質の維持・向上」「人材マネジメント」「地域・行政対応」などに分割し、さらに各項目ごとに定量・定性の指標を設定します。そして、それぞれの優先度を明確にし、「この時期は特に離職率改善に注力する」「年度末は財務面を重視する」など、時期や環境に合わせたウエイト付けを検討します。
  2. 短期・中長期の目標管理(MBO)の導入
    半期や年単位で評価を行う際、短期目標と中長期的ビジョンの両方を設定する仕組み(MBO:Management By Objectives)を導入します。具体的に「新年度までに◯◯の取り組みを立ち上げる」「3年後までに園児数を◯◯名にする」といった数値目標と、保育理念や組織文化向上を目指す定性的目標を組み合わせるのがおすすめです。
  3. 第三者や複数評価者の視点を取り入れる
    経営者(理事長)や人事担当者が一方的に園長・副園長を評価するだけでなく、主任保育士などの管理職以外のスタッフからもフィードバックを収集し、評価に反映する手法があります。360度評価とはいかなくても、複数の視点を取り入れることで公平性が高まり、園長・副園長自身も納得しやすい評価になります。

3. 管理職(園長、副園長)向けの人事評価制度設計ポイント

園長や副園長の評価制度を設計する際には、「経営面」と「保育面」の両方を適切に盛り込む必要があります。ここでは「定量評価」「定性評価」「評価結果の活用方法」に分けてポイントを整理します。

定量評価の主要ポイント3選

  1. 収支・予算管理の指標
    • 予算達成度:年度末の収支計画に対してどれだけ達成したか
    • 補助金・助成金の活用状況:保育園運営を円滑にするための行政支援の獲得実績
    • 定員稼働率:園児数が定員の何%を占めているか
      これらの指標を設定することで、園長・副園長が適切に経営資源を管理できているかを見やすくなります。
  2. 離職率・採用率
    • 職員の定着率:年度単位で何%の職員が残っているか
    • 採用率:募集人数に対して、どの程度の充足率を達成したか
      経営者や園長が主導的に行う場合もあるため、園長・副園長の努力や施策が組織の安定度にどう影響しているかを定量的に把握できます。
  3. 保護者満足度・クレーム対応件数
    • 保護者アンケートのスコア:毎年度または定期的に実施するアンケートでの満足度
    • クレーム件数の推移:トラブルがどの程度発生し、どのように対処されたか
      保育の品質や対外的な園の評価は園長・副園長の管理能力の表れでもあるため、一定の数値化が可能です。

定性評価の主要ポイント3選

  1. リーダーシップとビジョンの提示力
    経営者が掲げる理念・方針を受け止め、園内に浸透させる力が求められます。「保育の現場でどのようにビジョンを語っているか」「職員のモチベーションアップのために、具体的にどんなアクションを取ったか」などを評価しましょう。
  2. 組織マネジメント力
    園長・副園長は保育士や主任を束ねる立場です。業務フローの整備、適切なクラス配置、業務改善の推進など、組織を効率的に運営する能力を定性的に評価します。たとえば、「チーム間の連携を促す方法」「問題が発生した際の解決プロセス」「新人育成体制の構築」などをチェックポイントに含めると良いでしょう。
  3. 外部折衝・地域連携力
    行政とのやり取りや地域イベントへの参加、保護者会との連携など、外部との関係づくりも園長・副園長の重要な仕事です。どのようなコミュニケーション手段を使い、どの程度成功に導いたか、イベント等でのリーダーシップや調整力などを評価することで、園が地域に果たす役割を明確にできます。

評価結果の活用方法

昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす

  1. 園長・副園長の職責レベルを段階化
    中小保育園の規模拡大や複数園展開によって、園長の上位に統括責任者を設ける場合もあります。評価結果を元に、より大きな園の運営責任者複数拠点をまとめる統括園長といったキャリアパスを提示することで、モチベーションを維持・向上させることができます。
  2. 組織全体への教育的影響
    管理職の評価結果を共有することで、他の主任・リーダー保育士にとっても「どんな力が評価されるのか」「将来、このポジションを目指すには何が必要か」が具体化されます。よって、園全体がキャリア形成や人材育成に前向きな風土を醸成できます。

スキルマップや資格取得支援制度との連動

  1. マネジメント・リーダーシップ系の研修サポート
    園長・副園長向けに経営やリーダーシップの専門的研修をサポートすることで、評価制度と学習機会を紐づけられます。定性的な評価項目に紐づくスキルを高める研修を受講すれば、それを評価時に加点対象とする仕組みを作るのも良いでしょう。
  2. 保育以外の専門知識習得の支援
    経営管理や財務、労務、ICTリテラシーなど、管理職にとって保育以外の知識も必要不可欠です。資格取得やセミナー受講を支援する制度を整え、評価制度と組み合わせることで、園運営全体が高度化しやすくなります。

4. 管理職(園長、副園長)向け 人事評価制度の活用事例

事例1

導入背景

  • 新規の行政事業への参入を見据えた組織改変
    A園は行政との連携を深め、新たな保育事業(夜間保育や一時預かりなど)への参入を目指していました。そこで園長や副園長の負担が増えると予想されるため、まずは管理職の役割を明確化し、成果をきちんと評価する仕組みを作ろうという動きが起こりました。
  • 園長・副園長の業務範囲の拡大
    従来の保育とスタッフ管理に加え、各種補助金の申請や新規事業の立ち上げなど、園長・副園長が担う業務が格段に増加。明確な評価基準がないままでは混乱を招くと判断し、制度設計を急ぎました。

導入内容

  1. 経営・保育・地域連携の3軸評価
    • 経営面:収支目標、助成金申請の状況、採用計画達成度などを数値化
    • 保育面:保育品質向上の取り組み、離職率、職員アンケートの満足度など
    • 地域連携・対外活動:行政との連絡頻度、イベント参加実績、地域からの評価(アンケート)など
      これらを年2回の評価会議で議論し、最終的な総合スコアを決定しました。
  2. 短期目標と中期プランの併用(MBO)
    年度単位の収支目標や保育改善目標(中期プラン)に加え、四半期ごとの進捗報告(短期目標)を設定。定例ミーティングで園長・副園長が進捗を発表し、経営者や人事担当者がフィードバックを行うサイクルを確立しました。
  3. 複数評価者の導入
    園長・副園長の評価は、経営者・理事長が主評価者となり、主任保育士・事務担当者などからのサブ評価を参考情報として集計。複数の立場の意見を反映させることで、納得感のある評価を実現しました。

効果

  • 園長・副園長が主体的に園運営の改善策を提案するようになり、行政事業への参入準備がスムーズに進行。
  • 複数評価者からのフィードバックが励みとなり、コミュニケーション面でも向上が見られ、離職率も前年より低下。
  • 保育の質と経営指標が同時に管理されるようになり、**「数字の部分」「子どもの成長や職員の満足度」**双方で成果が可視化。経営者の評価制度への満足度が高くなり、他の新規プロジェクトにも適用を検討中。

事例2

導入背景

  • 園長交代による経営方針の大幅変更
    B園では長年勤めた園長が退職し、新たに若手副園長が園長に昇格。保育方針や運営方針を刷新しようと試みるものの、スタッフからは「具体的に何が変わるのか分からない」「トップがやろうとしていることが見えにくい」との声が上がっていました。
  • 保護者からのクレーム増加
    同時期に、保護者対応の不十分さや行事の運営トラブルが表面化。新園長がうまく対処しきれず、副園長との連携もスムーズにいかない状況でした。経営者としては「新体制に即した明確な目標と評価が必要だ」と痛感し、制度導入に踏み切りました。

導入内容

  1. 園長・副園長間の役割分担を文書化
    • 園長:対外折衝(保護者対応、行政・地域対応)、組織戦略策定
    • 副園長:内部管理(保育士育成、行事運営、保育品質管理)
      これを明確にすることで、評価項目もそれぞれに合わせた形にカスタマイズしました。
  2. 職員や保護者からのフィードバックを重視
    保護者向けアンケートや職員面談で、「トップがやるべきこと」「現状困っている点」の意見を集約。評価指標に「保護者満足度の改善」「職員アンケートでの園長・副園長への意見」を含めることで、トップが率先して改善策を打ち出す仕組みを作りました。
  3. 定期モニタリングと柔軟な軌道修正
    新体制のため、当初の目標設定が適切かどうか不安があったため、3ヶ月ごとに見直しを実施。「評価項目の重み付けが合っているか」「現場の声を正しく反映できているか」を小刻みに確認し、必要に応じて修正していきました。

効果

  • トップ2名の役割分担がはっきりしたことで、保護者からのクレームが減少。行事も副園長が実行責任者となり、スタッフ全員で取り組む体制が整いました。
  • 職員へのアンケートでも、「園長と副園長が具体的な目標を打ち出してくれる」「改善の優先度が分かりやすい」という声が増え、組織全体の見通しが立ちやすくなったとの評価が得られました。
  • 新園長は結果的に保護者対応へ注力し、そのスキルを高める研修にも積極的に参加。評価制度が「園長自身のキャリアアップ支援」としても機能し、次年度以降の大幅な離職率改善に寄与しました。

5. まとめ

本コラムのポイント

  1. 管理職(園長、副園長)特有の評価項目の設定
    保育士や主任と異なり、経営管理や行政対応、地域連携、組織マネジメントなど、幅広い責任を担うことを踏まえ、定量評価・定性評価を細分化して設計する必要があります。
  2. 評価制度の導入・運用で得られる効果
    園長・副園長に明確な目標や評価軸ができることで、園全体の方向性が定まりやすくなるほか、組織文化の透明性が高まるというメリットがあります。短期指標(収支や離職率など)と中長期指標(地域連携や組織力強化など)を組み合わせ、モチベーション向上と園の持続的な成長に繋げましょう。

制度導入・運用における今後のステップ

  1. 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
    園の経営環境が変われば、管理職が果たす役割も変化します。新規事業や園の拡大に応じて、評価項目や指標の重要度を適宜アップデートし、形骸化を防ぎながら運用を継続することが大切です。
  2. キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
    園長・副園長だけでなく、主任やリーダー保育士が将来の管理職を目指すケースも増えています。評価制度を通じて「管理職に求められるスキルは何か」を明確に示すことで、次世代人材が計画的にキャリアアップできる体制を整えましょう。
  3. 管理職(園長、副園長)職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
    組織における保育の品質向上、財務安定、行政や地域との連携強化など、管理職が担う役割は園の業績やブランド力に直結します。彼らが適切に評価され、モチベーション高く仕事に取り組むことは、園全体の飛躍的な発展につながります。

以上が、第5回コラム「保育園に特化!管理職(園長、副園長)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」の全容です。
これまでの連載を通じて、保育園の人事評価制度が人材不足や定着率向上だけでなく、組織全体の質の底上げや持続的な成長に寄与することが見えてきたのではないでしょうか。特に園長・副園長の評価制度をしっかり整えることで、経営方針と現場の保育がより密接に連動し、保護者・地域からの信頼度も高まります。

中小保育園だからこそ、管理職への評価を曖昧にせず、組織として目指すビジョンを明確化しながら、短期・中長期の目標をバランスよく管理する姿勢が必要です。今回のコラムを参考に、ぜひ自園の管理職人事評価制度を充実させ、園全体の飛躍的な向上を実現してみてください。

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