
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第1回】成功する評価基準と運用ポイント
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第2回】人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第3回】車販営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第4回】整備職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第5回】サービスフロント職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第6回】営業サポート職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
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1. はじめに
本コラムの目的と背景
これまでの連載では、自動車販売業全般における人事評価制度の重要性や導入のメリット・デメリット、そして車販営業職に特化した評価制度の設計ポイントを解説してきました。いずれも「中小規模の自動車販売店(カーディーラー)が抱える人材課題」を踏まえ、採用面や定着面、育成面でいかに評価制度を活用できるかという視点で進めてきました。
- 第1回では、業界特有の課題(採用・定着・育成)が複合的に存在する中、評価制度が果たす役割と成功ポイントを整理。
- 第2回では、評価制度導入のメリット・デメリットを整理し、業績向上や採用力アップを図るうえでの実践事例をご紹介。
- 第3回では、車販営業職に焦点を当て、数字だけでない評価の難しさや、顧客満足度やチームワークを含めた包括的な評価制度設計の事例をお伝えしました。
そして今回のコラム(第4回)は、「整備職」に焦点を当てます。整備職は、自動車販売店にとって「安全性・信頼性」を担保する重要ポジションであるにもかかわらず、評価が後回しになりやすいという課題があります。整備職のモチベーションを維持し、技術力を高めるための人事評価制度の設計・運用ポイントを、具体的な活用事例とともに解説します。
整備職を取り巻く課題と重要性
自動車販売店の整備職は、お客様が購入した車を安心・安全に乗り続けられるよう、点検・整備・修理・車検などを担う極めて大切な職種です。特に中小規模の販売店では「車を売った後に整備で稼ぐ」ビジネスモデルが大きな柱となるケースも多く、整備職の質やサービスが顧客満足度(CS)やリピート率に直結します。
一方で、整備士不足や高齢化、働き手の少ない地方エリアでの採用難など、さまざまな課題も顕在化しています。電気自動車(EV)やハイブリッド車など、新技術への対応も求められるなかで、整備職のスキルアップと定着をどう図るかは、中小自動車販売店の生き残りを左右する重要テーマとなっています。
中小自動車販売業における「整備職」への人事評価制度の導入状況
整備職の評価制度に関しては、大手ディーラーやフランチャイズチェーンでは比較的整備されているケースが多いものの、中小規模の販売店では未整備または形骸化していることが少なくありません。以下のような理由が考えられます。
整備職の評価が後回しにされやすい理由
- 目に見えにくい成果
営業職のように「販売台数」や「保険契約件数」といった定量指標が分かりやすくないため、適切な評価基準を設定しづらい。 - 経営者や店長が営業出身
中小の販売店では、経営者や店長が営業畑出身である場合が多く、整備職の細かい技術面や工数管理への理解が十分でない。 - 現場管理者の評価スキル不足
整備工場のリーダーや工場長が「技術指導は得意だが、人事評価の仕組みを設計・運用した経験がない」というケースも多い。
経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 定量評価と定性評価のバランス
整備作業のスピード(台数)を追うと品質が犠牲になる恐れがあり、一方で品質重視に走りすぎると生産性が下がる。両立が難しい。 - 資格や技術力の評価が複雑
自動車整備士資格(2級・3級)、電気自動車関連資格、外部研修参加歴など、多様な基準が存在するが、それらを給与や昇進にどう結びつけるかが悩みどころ。 - チームプレイの評価
実際の整備現場は複数名で作業を分担することが多い。トラブル対応や後輩指導など、個人では測りにくい貢献をどう評価すべきかが課題となる。

2. 整備職の評価が難しい理由とその対策
ここでは、整備職の評価が難しいとされる主な事情を3点に整理し、それぞれの課題を解決するための基本的なアプローチを解説します。
整備職の人事評価が難しい3つの事情
- 安全・品質の重要性と生産性向上のジレンマ
整備職には車両の安全性や品質管理が最優先で求められますが、店舗経営の観点からは限られた工場リソースでできるだけ多くの台数をさばき、利益を最大化したいという要望があります。この相反する要素をどうバランス良く評価に反映させるかが難点です。 - 作業工程の属人化
ベテラン整備士が独自のノウハウや“職人技”に頼る現場では、作業手順が標準化されていなかったり、評価者が何を基準に技術レベルを判断するか曖昧になりがち。結果として評価が主観的になりやすく、公平性を保ちにくい面があります。 - 多様化する整備ニーズへの対応
ガソリン車のみならず、EV・ハイブリッド車・ADAS(先進運転支援システム)の整備・点検など、多種多様な知識・技能を求められる時代になっています。資格やスキルのアップデートが頻繁に必要であり、評価制度が変化に追いつかないとモチベーションを損ねる恐れがあります。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 品質指標+生産性指標の「両輪評価」
品質(クレーム率や再整備率の低さ、安全管理など)と生産性(作業スピード、整備売上、入庫台数など)を両方評価項目に入れる。短期的にどちらか一方に偏らないよう、ウェイトを調整してバランスを取る。 - 技術レベルの可視化と標準作業手順の整備
整備の工程を**標準作業手順(マニュアル)**として整備し、作業レベルを段階的に明確化する。技術チェックリストや先輩・工場長によるOJT評価などを組み合わせ、属人的になりがちな評価を客観化する仕組みを構築する。 - 資格取得・研修参加の奨励と評価連動
整備職の成長には資格取得や外部研修への参加が不可欠。**「指定資格を取れば昇給」**といった仕組みや、研修で学んだことをレポート提出させるなど、学習成果を評価する仕組みを用意してモチベーションを高める。
3. 整備職向けの人事評価制度設計ポイント
では、具体的に整備職にどのような指標を設定し、評価結果をどう活用していけばよいのか。ここでは「定量評価」「定性評価」「評価結果の活用」の3つの観点から整理してみます。
定量評価の主要ポイント3選
- 再整備率(クレーム率)
整備完了後に不具合が発生し、再度整備が必要となるケースが少ないほど品質は高いとみなせます。クレーム率が低いほどお客様満足度が高く、安全管理意識も高いと判断できます。 - 作業時間・稼働率
一般的な整備メニュー(オイル交換、タイヤ交換、車検など)の標準工数を定め、実際の作業時間と比較して生産性を評価する方法です。また、1日の入庫台数や稼働率(どれだけ工場が稼働しているか)も併せて指標化すると、現場の効率向上を促しやすくなります。 - 整備部門の売上や粗利貢献
「整備工賃」「部品売上」「追加整備や部品交換の提案実績」などを測ることで、整備職自身がどれだけ売上や利益に貢献しているかを把握できます。闇雲に売上を追うのではなく、安全性や必要性を踏まえた提案ができているかを確認することが大切です。
定性評価の主要ポイント3選
- 品質・安全意識
再整備率の低さだけでなく、「作業手順を確実に守る」「工具や部品の管理が適切」「お客様の車を丁寧に扱う姿勢」などを評価します。工場長や上司が観察しながら、チェックリストなどで定性的な評価を実施すると良いでしょう。 - チームワーク・後輩指導
整備工場では複数人が連携して作業する場面が多いです。後輩の育成、他の整備士との協力、サービスフロントや営業との情報共有など、チームプレイにどれだけ貢献しているかを評価対象に含めると、組織全体の効率や士気向上につながります。 - 自己研鑽・スキルアップ意欲
整備職は常に新しい車種や技術に対応する必要があります。資格取得の勉強や外部研修への参加、技術情報の収集・共有など、自発的にスキルアップを目指す姿勢を評価に含めることで、長期的に高い技術力を保つ組織風土を醸成できます。
評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
評価結果は、整備士一人ひとりのキャリア形成にも大きく関わります。たとえば、
- 「3級整備士」から「2級整備士」へステップアップしたタイミングで昇給やポジション変更
- **「工場リーダー」「サービスマネージャー」**など管理職候補としての資質を評価し、研修やOJTでマネジメントスキルを強化
など、単に賞与額を決めるだけでなく、将来のキャリアパスを示すことで整備職のモチベーションを大幅に高められます。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
整備職のスキルアップや評価を「見える化」する仕組みとして、スキルマップや資格取得支援制度との連動が効果的です。
- スキルマップ: 「基本整備(オイル交換、タイヤ交換)」「故障診断機の使用」「EV関連作業」「リコール対応」「接客力」など、整備職に求められる複数の技能をリスト化し、各社員の習熟度を可視化。
- 資格取得支援: 国家資格である整備士の2級・1級や、自動車メーカーが実施する専用資格、EV整備関連の資格取得を推奨。取得後は昇給や手当を上乗せするなど、明確なインセンティブを設定。
これにより、社員は「どのスキルを伸ばせば評価されるか」「次にどの資格を取ればキャリアアップできるか」を明確にイメージしやすくなります。

4. 整備職向け 人事評価制度の活用事例
ここでは、実際に整備職向けの評価制度を導入・活用している中小自動車販売店の事例を2つご紹介します(いずれも実例を基にした架空事例です)。
事例1
・導入背景
- 地方で2店舗を展開する中小ディーラー(社員数40名)。
- 整備士の定着率が低く、特に若手が技術を習得しきる前に辞めてしまうケースが頻発。
- 経営者が「整備部門が手薄になると販売後のサポートが疎かになり、結果的に車販にも影響が出る」と危機感を抱き、外部コンサルタントの協力を得て評価制度を見直す。
・導入内容
- 評価項目の明確化(定量+定性)
- 定量指標: 再整備率、作業時間、整備売上(部品販売含む)
- 定性指標: 作業品質、安全意識、チーム貢献、自己研鑽
評価シートを全店舗共通で使える形に統一し、整備工場長が定期的に記入。
- 資格取得支援の強化
2級整備士以上を目指す若手には講習費の一部を補助し、合格後は月額の技術手当を支給。EV関連の資格取得も推奨し、取得者には新型車の整備研修に優先的に参加できるよう配慮。 - 自己評価+上司評価+同僚評価の組み合わせ
評価の客観性を高めるため、被評価者自身が自己評価し、工場長が上司評価を行い、さらにチームリーダーや先輩整備士が同僚評価を一部担当。「技術面」「チームワーク面」で多角的に評価を実施。
結果
- 若手整備士がスキルアップに前向きになり、離職率の大幅低下につながった。
- チームリーダーやベテラン整備士が後輩育成に力を入れるようになり、工場全体の生産性が向上。
- EVやハイブリッド車の整備にも対応できる人材が増え、サービスの幅が拡大。地域での評判も上がり、車販にも好影響を及ぼした。
事例2
・導入背景
- 都市部に拠点を置く販売店(社員数20名)。
- 競合が多いエリアで、整備工場の回転率と売上を高めることが経営の課題。
- 一方でクレーム対応が増加傾向にあり、品質を維持しながら生産性を上げるために評価制度の再構築が急務だった。
・導入内容
- 「品質ポイント」と「生産性ポイント」の二軸評価
- 品質ポイント: クレーム件数、再整備率、厳守すべき安全基準の遵守度合いなど。
- 生産性ポイント: 1日の入庫台数、平均作業時間、部品や関連サービスの追加提案数など。
評価期間終了時に、品質ポイントと生産性ポイントの合計を「整備実績スコア」として算出。昇給や賞与に反映する。
- 月次面談でのフィードバックループ
工場長が毎月末に、整備士と短い面談を実施し、その月の品質・生産性の達成度を確認。- 「スピードを重視しすぎてクレームが出ていないか」
- 「作業時間が延びたのはどの工程か」
など具体的な原因分析を行い、翌月の改善目標を設定。
- リーダーシップ評価の追加
ベテラン整備士には、若手の教育や新人のOJT指導、現場の段取り改善などリーダーシップを発揮してもらう役割を課し、その成果を評価に含めた。
結果
- クレーム率が低下し、顧客満足度が向上。リピート入庫や紹介が増え、整備売上が安定。
- 整備士が「品質を守りつつどう効率を上げるか」を意識するようになり、段取りや作業手順の見直しが進んだ。
- リーダー候補が育ち、工場長がすべてを管理しなくても回る仕組みが少しずつ整備され、組織的な運営が可能となった。
5. まとめ
本コラムのポイント
- 整備職特有の評価項目の設定
- **定量(再整備率、作業時間、売上貢献度など)と定性(品質・安全意識、チームプレイ、スキルアップ意欲など)**を組み合わせる。
- 資格取得や研修参加を奨励し、その成果を給与・昇進に直接結びつける。
- 標準作業手順の整備や技術チェックリストを活用し、評価を客観化する。
- 制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
新しい車種や整備技術が登場するたびに必要とされるスキルセットが変化する。定期的に評価項目をアップデートし、時代に合った仕組みに。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
評価結果をもとに、若手をリーダー候補に育成したり、スペシャリストとしての専門領域を深める機会を提供するなど、整備職が将来像を描けるようにする。 - 整備職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
生産性と品質、安全意識の両立を促進し、クレーム削減やリピート率向上に繋げる。整備部門が強い販売店は、長期的にも顧客満足度を高めることができ、結果的に車販にも好影響を与える。
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
整備職は「華やかな営業職」とは違った意味で、店舗の“裏方”ながらも不可欠な存在です。お客様の安全と安心を守るという大きな責任を背負いつつ、企業の長期的な収益を支える要でもあります。だからこそ、整備職に合った評価制度をしっかり設計し、モチベーションの向上・技術力の底上げ・組織力の強化を図ることが、中小自動車販売店の競争力向上に不可欠です。
評価制度は「数字」だけでは測りきれない部分をフォローし、公平性と納得感を高める仕組みでもあります。定期的な見直しや評価者の育成を怠らず、「整備職が活躍できる環境」を作っていくことで、離職率の低下や顧客満足度の向上など多方面にわたる成果が期待できるでしょう。
本コラム(第4回)を通じて、整備職向けの人事評価制度のポイントと事例をご紹介しました。これまでの連載と合わせて、皆様の組織運営の一助になれば幸いです。今後も引き続き、自動車販売業に特化した人事ノウハウや具体的な事例をお届けしていきますので、ぜひご参考いただければと思います。

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