
- フィットネス業に特化【第1回】|成功する評価基準と運用ポイント
- フィットネス業に特化【第2回】| 人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- フィットネス業に特化【第3回】| インストラクター職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介を選択
- フィットネス業に特化【第4回】| トレーナー職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- フィットネス業に特化【第5回】| パーソナルトレーナー職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- フィットネス業に特化【第6回】| マネージャー職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- フィットネス業に特化【第7回】| スタッフ職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- フィットネス業に特化【第8回】| 効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣
1. はじめに
本コラムの目的と背景
これまでの連載コラムでは、フィットネス業界の人事評価制度をテーマに、インストラクター職やトレーナー職、パーソナルトレーナー職、マネージャー職など、主に指導や管理業務を担うポジションにフォーカスして評価のポイントを解説してきました。しかし、フィットネス施設における重要な役割を果たすのは、なにもインストラクターやトレーナーだけではありません。フロント業務や会員受付、清掃・備品管理、ジムエリアのサポートやプール監視など、「スタッフ職」の働きが施設全体の運営を支えています。
今回(第7回)のコラムでは、このスタッフ職に焦点を当て、人事評価制度をどのように設計・活用すれば、彼らのモチベーションやスキルアップを促進できるのかを考えます。スタッフ職は、施設の“顔”となるカスタマーサービスの最前線であり、顧客満足度や安全管理、設備の維持など、多面的な役割を担いますが、その仕事の性質上、定量評価が難しいという課題もあります。
ここでは、フィットネス業界のスタッフ職を取り巻く現状や課題を整理したうえで、人事評価制度の具体的な設計ポイント、事例から学べるヒントを紹介します。経営者や人事担当者の方々にとって、スタッフ職の人材育成と組織強化にお役立ていただければ幸いです。
これまでの連載の振り返り
- 第1回:フィットネス業界における人事評価制度の概観と成功のポイント
- 第2回:導入メリット・デメリット、注意点の整理
- 第3回:インストラクター職向け制度の特徴や設計事例
- 第4回:トレーナー職における評価方法と実践事例
- 第5回:パーソナルトレーナー職にフォーカスした評価基準と事例
- 第6回:マネージャー職の評価の難しさや効果的な運用事例
今回の第7回では、これらの総論や個別職種の評価ノウハウを踏まえ、スタッフ職に特化した視点から深堀りしていきます。
スタッフ職を取り巻く課題と重要性
フィットネス業界のスタッフ職は、たとえば以下のような業務を担います。
- フロント業務:入退館管理、受付、会員手続き、問い合わせ対応、物販対応など
- 清掃・備品管理:ロッカールーム、シャワールーム、トイレなどの清掃。タオルやアメニティの補充、マシンメンテナンスの補助
- ジムエリア・プールの補助:利用者の安全監視、マシンの簡単な説明、利用ルールの周知など
- イベント・キャンペーンのサポート:スタジオイベントや季節キャンペーンなどの準備・運営補助
これらの業務は直接的な売上に直結しない部分も多い一方、顧客満足度や施設のイメージ、リピート率に大きく影響します。丁寧な接客や清潔感のある環境維持は、フィットネスクラブやジムを選ぶ際の重要なポイントとなり得ます。
一方で、スタッフ職にはアルバイトやパートタイム、派遣社員など多様な雇用形態が混在しているケースが多く、正社員との評価制度にギャップが生じやすいのが現状です。さらに、インストラクターやトレーナーと異なり、数値化が困難な接客要素や裏方業務が中心のため、適切な人事評価を行う仕組みが後回しになってしまう企業も少なくありません。
フィットネス業における「スタッフ職」への人事評価制度の導入状況
スタッフ職の評価が後回しにされやすい理由
- 直接売上に結びつきにくい
インストラクターやトレーナーのようにレッスン参加数やセッション数など分かりやすい指標が少なく、スタッフ職の業務は「施設の基盤を支える」役割に留まるため、評価項目の設定が難しい。 - 雇用形態が多様で統一的な評価が困難
正社員のスタッフだけでなく、アルバイト・パート・派遣・業務委託など多様な形態が混在し、それぞれ勤務時間や契約条件が異なるため、一律の評価制度が導入しづらい。 - 属人的・曖昧な評価になりがち
「あのスタッフはいつも笑顔で接客している」「清掃が行き届いている」など、主観や曖昧な基準で判断されやすく、スタッフ側は「何を頑張れば評価されるのか分からない」と感じることが多い。
経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 接客態度やホスピタリティなど定性面が多い
数値化しづらい部分をどう客観的・公正に評価すればよいのかが悩みの種。 - 多様な働き方を同じ軸で評価してよいのか
シフト制や学生アルバイトなど、働く目的も働き方も異なるスタッフを、正社員と同じ基準で評価してよいのか疑問を抱えがち。 - 評価制度がスタッフのモチベーションに直結
フロント対応や施設のクリーンネスが「施設の顔」となるだけに、評価制度が不十分だとスタッフのやる気を損ない、顧客満足度の低下や離職率の増加につながる恐れがある。

2. スタッフ職の評価が難しい理由とその対策
ここでは、スタッフ職の評価が特に難しく感じられる主な理由を3つに整理し、それぞれに対する基本的なアプローチを示します。
スタッフ職の人事評価が難しい3つの事情
- 定量指標の不足
売上やセッション数といった直接的な指標が乏しく、可視化できる要素が少ないため、評価基準が属人的になりやすい。 - 雇用形態や勤務スタイルの多様化
正社員、アルバイト、パート、派遣などが混在し、稼働時間や責任範囲にばらつきが大きい。結果として、一括りの評価制度を適用しづらい。 - 裏方業務やサポート業務が中心
清掃や備品管理など、目立たない業務ほど評価がされにくく、スタッフのモチベーションが下がりがち。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 定性評価を客観化する仕組みを整える
接客態度やホスピタリティ、安全管理といった定性面を評価する際、具体的な行動基準やチェックリストを設ける。たとえば、「明るい挨拶」「丁寧な言葉遣い」「苦情対応のスピード」などを具体的に定義し、可能な範囲で数値化やランク化を行う。 - 雇用形態別の評価制度を部分的に設計
正社員スタッフとアルバイトスタッフの評価基準を完全に同じにするのではなく、それぞれの責任範囲や期待役割に合わせて評価項目を調整する。コア業務は共通化しつつ、責任度合いに応じた追加項目を設けるなどの工夫をする。 - プロセス評価と成果評価をバランス良く組み合わせる
スタッフ職の場合、裏方業務や安全管理など、定量的成果が測定しにくい部分が多い。そこで「日々の清掃チェックリスト」「ユーザーの声を反映した接客改善提案数」など、プロセスや行動面で評価できる仕組みを導入し、定量成果(顧客満足度アンケートや苦情件数など)との両軸で評価する。
3. スタッフ職向けの人事評価制度設計ポイント
ここからは、実際にスタッフ職の評価を行う際に取り入れたい設計ポイントを、「定量評価」「定性評価」「評価結果の活用方法」に分けて解説します。
定量評価の主要ポイント3選
- 顧客アンケート結果・NPS
フロント対応や施設の清掃状況、スタッフの挨拶などを問うアンケートを定期的に実施し、スコアを計測する。NPS(ネット・プロモーター・スコア)で「スタッフの対応を他人に勧めたいか」を数値化する企業もある。 - クレーム件数やトラブル対応の発生率
スタッフのミスや接客態度に起因するクレーム件数、もしくはクレームが生じても早期解決に至ったケースの率を定量化する。施設全体のデータを集約し、どのシフト帯やエリアで問題が多いかを把握して評価に繋げる。 - 勤怠状況・シフト貢献度
スタッフ職はシフトで回しているケースが多いため、遅刻・欠勤率や急な休みの対応状況などを評価基準に組み込む企業も少なくない。特にパートやアルバイトの場合、勤務実績やシフト貢献度が評価の一部となりやすい。
定性評価の主要ポイント3選
- 接客・ホスピタリティ
明るい挨拶、丁寧な言葉遣い、笑顔の接客など、基本的なホスピタリティをどの程度実践できているかを評価する。具体的な行動例(来館時にお客様へ目を合わせて挨拶する、など)を列挙すると客観化しやすい。 - 安全管理・リスクヘッジ
プール監視やジムエリアでの安全確認、清掃時の注意点などを含め、事故や怪我を未然に防ぐ意識や行動を評価する。異常を見つけた際の報告ルートや手順を定義し、スタッフ全員が遵守しているかチェックすると良い。 - チームワーク・コミュニケーション
スタッフ同士の情報共有や協力体制は、スムーズな施設運営に欠かせない要素。新人アルバイトへのフォローや他部署との連携、業務引き継ぎの丁寧さなど、チームプレイを促す行動ができているかを評価基準に入れる。
評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
- 正社員登用やリーダー職へのステップアップ
スタッフ職で一定期間優秀な成績を収めた人には、正社員登用を検討したり、リーダー職やスーパーバイザーとしてチームを率いる機会を与える。アルバイトやパートでも、本人が希望すればキャリアを築けるようにすることで、モチベーションが向上する。 - ジョブローテーションやインストラクター職へのチャレンジ
フロントスタッフからインストラクターへ転身したい、清掃スタッフがトレーナーのアシスタントを希望するなど、部署を跨いだキャリアの可能性を示すことで、人材の流動性を確保しながら離職を防ぎ、組織力を高められる。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
- スタッフ職専用のスキルマップを作成
接客スキル、安全管理、設備点検、電話応対など、スタッフ職が習得すべきスキルを一覧化してレベルを設定する。評価結果に基づき、「次に身につけるべきスキル」を明確に示せば、スタッフ自身が成長意欲を高めやすい。 - 資格取得支援(AED講習、フィットネス関連資格など)
スタッフがAEDや応急処置の資格を取得することは、安全管理強化にも直結する。資格取得を評価制度と連動させ、取得費用補助や資格手当を設けることで、「裏方業務」というモチベーションの低下リスクをカバーしつつ人材を育てられる。

4. スタッフ職向け 人事評価制度の活用事例
ここでは、実際にスタッフ職向けの人事評価制度を導入し、成果を上げている事例を2つ紹介します。どちらも施設規模や運営形態が異なりますが、スタッフの存在価値を正しく認識し、定性評価を客観化する仕組みを整えた点が成功の要因となっています。
事例1
導入背景
首都圏で複数のフィットネスクラブを運営するA社では、フロントや清掃スタッフの離職率が高く、採用コストが増大していました。また、アルバイトやパートが「単なる時間給の仕事」と考えがちで、接客品質にばらつきがあったのが課題でした。経営陣は「スタッフの評価や処遇が曖昧なのでやる気が出ないのではないか」と考え、評価制度の導入を決断しました。
導入内容
- スタッフ専用の評価シートと行動指針を策定
フロント接客、安全管理、清掃品質などを細分化し、それぞれを定性基準+行動例としてリスト化。たとえば「お客様へ笑顔で挨拶し、名前を覚えるよう努力している」「備品の破損や不足を見つけたら、速やかに上長へ報告する」といった具体的な行動が評価項目となりました。 - 評価面談を年2回実施し、正社員とのキャリア連動
アルバイト・パートスタッフも含めて年2回の面談を行い、評価シートを元に自己評価と上司評価をすり合わせ。高評価のスタッフは希望に応じて正社員登用やリーダー職の推薦を受けられる仕組みに変更。 - 勤続年数やシフト貢献度の評価も加味
長期間働くことで施設運営に精通し、顧客との信頼関係を築いているスタッフを評価するため、勤続年数やシフト貢献度(繁忙時間帯を積極的に担うなど)もプラス要素として反映しました。
導入効果
- スタッフの定着率が向上:1年後の離職率が導入前に比べ15%減少。アルバイトやパートスタッフのモチベーションが高まり、「評価されている」という実感を得やすくなった。
- 顧客満足度アンケートのスコアがアップ:フロントや清掃の対応が「丁寧」と回答する顧客が増加。リピート率の向上や口コミ評価の改善につながり、入会数も堅調に推移。
事例2
導入背景
地方都市で大型のスイミングスクール付き総合フィットネスクラブを運営するB社では、会員が幅広い年齢層に及び、特に幼児~小学生の利用が多いのが特徴でした。プール監視やキッズレッスンのサポートを行うスタッフが多数在籍していましたが、安全管理への意識やホスピタリティに差があり、経営陣は「設備投資だけでなく人的サポートの質を高める必要がある」と考えていました。
導入内容
- 安全管理と接客の定性基準を明確化
B社は「安全管理」項目を特に重視し、プール監視の視野範囲や人数把握、緊急時対応の手順を徹底マニュアル化。これらを評価に反映させると同時に、「子どもへの声掛け」「親御さんへの接客態度」などの定性面も具体的な行動指針として設定しました。 - 報酬インセンティブと資格取得支援
プール監視や幼児対応に必要な資格(例えば水泳指導員や救急救命関連)を取得すると、時給や給与に加算される仕組みを導入。スタッフがスキルを身につけるほど施設の安全性やサービス品質が向上する好循環を狙いました。 - 評価結果を共有し、チーム全体で改善
評価面談だけでなく、月1回のスタッフミーティングで「最近のトラブル事例や接客事例」を共有し、個人の評価が組織の改善に繋がる体制を作りました。これにより、「誰かの失敗や成功が共有され、全員の学びになる」文化を醸成。
導入効果
- 安全管理事故の大幅減少:導入後1年で、プールや施設内でのヒヤリ・ハット報告件数が約30%減少。スタッフの意識が高まり、事故未然防止に繋がった。
- 子ども連れ会員の満足度アップ:親御さんのアンケートでは「スタッフの声掛けが丁寧」「子どもを安心して預けられる」というコメントが増加。口コミでの好評が新規入会促進にもつながった。
5. まとめ
本コラムのポイント
- スタッフ職特有の評価項目の設定
売上やセッション数といった直接的な定量指標が少ない分、接客・ホスピタリティ、安全管理、清掃・備品管理といった定性評価を具体的な行動基準に落とし込み、できるだけ客観的に評価できる仕組みが重要。 - 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
フィットネス業界は競合や利用者ニーズの変化が激しく、スタッフの業務内容も流動的。定期的に評価項目や基準をアップデートし、現場の声を反映することが大切。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
スタッフ職にも正社員登用やリーダー職への道、また他職種(インストラクターやトレーナー)への転身など、多様なキャリアルートを用意しておくと、モチベーション維持や定着率向上に効果的。
制度導入・運用における今後のステップ
- 評価基準と行動指針のさらなる明確化
スタッフ職は「具体的に何をどうすれば評価されるのか」を明確に示されないと、業務の優先度や改善点が分からず、漠然と働いてしまいがち。細かい行動レベルでの評価項目やチェックリストを定期的に見直し、分かりやすさを追求する。 - スタッフの声を活かし、制度をブラッシュアップ
フロントや清掃、プール監視など、実際に業務を担うスタッフが「何を苦労しているか」「どんなスキルが不足しているか」をヒアリングし、評価制度と研修計画を連動させることで、現場力を底上げできる。 - スタッフ職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
裏方業務やサポート業務といえど、顧客満足度や施設の評判、リピート率に大きく関わる。評価制度をしっかり整えてスタッフのモチベーションを高めることが、最終的には施設の業績向上やブランディング強化につながる。
スタッフ職は、フィットネス施設の“縁の下の力持ち”として不可欠な存在です。一人ひとりが適切に評価され、成長機会を得られる仕組みを整えることで、施設全体のサービス品質と従業員満足度が向上し、結果として顧客から愛される施設運営を実現できます。本コラムが、そのためのヒントとなれば幸いです。
今後も、フィットネス業界に特化した人事評価や組織マネジメントに関する情報を継続してお届けしてまいりますので、ぜひご期待ください。スタッフ職を含めた総合的な人材育成は、これからのフィットネスビジネスを支える重要な要素です。今こそ、人事評価制度の導入やブラッシュアップに着手し、施設運営のさらなる飛躍を目指してみてはいかがでしょうか。

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- フィットネス業に特化【第6回】| マネージャー職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
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