1. はじめに
- 第1回:「歯科クリニックの人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「歯科クリニックの人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「歯科クリニックに特化!歯科助手に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「歯科クリニックに特化!歯科衛生士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「歯科クリニックに特化!受付事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「歯科クリニックに特化!歯科技工士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「歯科クリニックに特化!歯科医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「歯科クリニック向け!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」

歯科クリニック特有の人事課題
歯科クリニックは、医科やその他サービス業とは異なる特性を持ち、そこで働くスタッフも多様です。歯科衛生士・歯科助手・受付事務・歯科技工士、そして歯科医師と職種が分かれ、それぞれが異なる専門性や業務特性を担っています。こうした多職種が連携しながら患者さんを中心に医療サービスを提供していくうえで、人事評価制度の設計や運用には歯科クリニックならではの配慮が必要です。
特に近年、歯科医院の数が飽和状態に近づいている地域もある一方で、若い歯科医師や歯科衛生士、歯科助手などの人材確保が難しく、また定着率の低下が問題となっているケースも少なくありません。歯科クリニックが安定的に運営され、質の高い治療・サービスを提供し続けるためには、優秀な人材の確保はもちろん、既存スタッフのモチベーションを高め、長く働き続けてもらうための仕組みづくりが欠かせません。その仕組みの中心となるのが「人事評価制度」です。
以下では、歯科クリニック特有の人事課題を「採用面」「定着面」「育成面」の3つに分けて整理し、それらがなぜ評価制度の重要性に直結するのかを解説していきます。
採用面の課題
- 専門人材不足の影響
歯科衛生士や歯科技工士は有資格者であり、一定の教育を受けた専門職です。しかしながら、こうした専門人材の絶対数は不足傾向にあり、給与や職場環境、スキルアップ機会が豊富な医科系施設や大規模医療機関へ人材が流れてしまうこともあります。
歯科クリニックが優秀な人材を採用するには、求人条件だけでなく、「職場の魅力」を積極的にアピールしなければならなくなっています。その魅力の1つが公正で分かりやすい人事評価制度です。評価制度を整え、キャリアパスや処遇の見通しを示すことは、求職者に対して“安心して働ける環境”をアピールできるポイントとなります。 - 仕事イメージの誤解
求職者の中には、歯科クリニックでの働き方やキャリアアップの可能性を十分に理解していない人もいます。たとえば歯科衛生士が高い専門性を持っている一方、歯科助手には「雑務を任されるだけ」「スキルアップしづらい」といった誤解を持たれるケースもあります。
実際には歯科助手においても患者対応や受付業務を兼任するなど、複数のスキルを発揮できる場面は多く存在します。人事評価制度で「何をどのように評価し、どう成長していけるのか」を明確にすることで、“将来を見据えた働き方”ができる職場であることを伝えやすくなります。
定着面の課題
- 有資格者の離職
歯科衛生士の場合、歯科クリニックに限らず、介護施設や病院の口腔ケア部門など、活躍の場は多岐にわたります。スキルや経験を積んだ歯科衛生士ほど転職・独立の選択肢が増えるため、待遇や職場環境に不満があれば他の職場に移りやすいという現状があります。
公正な評価制度と連動した給与・処遇体系が整備されていないと、歯科衛生士や歯科助手は「自分のキャリアに見合う評価がなされていない」と感じて離職する可能性が高まります。 - 医師・スタッフ間コミュニケーションの問題
歯科医師の方は、診療の方針や難易度の高い処置を中心に考えがちであり、スタッフとのコミュニケーションが不足しがちです。また、評価制度が曖昧だと、評価される側(スタッフ)からすれば「院長先生の個人的な感覚で評価されている」ように捉えてしまうケースもあります。
こうしたコミュニケーションの齟齬(そご)が長期にわたると信頼関係が損なわれ、スタッフの定着率が低下し、場合によっては医師自身のストレスも増大します。明確な基準に基づく定期的な評価面談は、双方向のコミュニケーションを促進し、信頼関係を築くうえで効果的です。
育成面の課題
- 体系だった教育プログラムの欠如
多くの歯科クリニックは規模が比較的小さく、スタッフの教育を担当する専任者がいない場合がほとんどです。院長や主任クラスの歯科衛生士がOJT形式で指導するケースが主流ですが、属人的なやり方になりがちで、育成内容や水準にバラつきが生じる恐れがあります。
人事評価制度を整備し、評価項目に合わせた研修や育成プログラムを明確にすることで、スタッフが「今、何を学べばよいのか」「次のキャリアステップにはどんなスキルが必要なのか」を認識しやすくなります。 - 多職種連携の難しさ
歯科衛生士、歯科助手、受付事務、歯科技工士など多職種が連携する際、それぞれが求められる専門性やスキルは異なります。評価項目を明確にしないまま一律に“スタッフ”として扱うと、業務量や難易度に大きなばらつきが生じる職種を公平に評価するのは困難です。
評価項目を職種ごとに細かく設定し、それぞれの専門性に応じた目標や指標を設定することが求められます。これにより、お互いの役割や強みを認め合いながらスキルアップを促し、チーム医療を円滑に進める効果が期待されます。
歯科クリニックにおける人事評価制度の重要性
上記のように、歯科クリニック特有の課題としては「採用」「定着」「育成」の各面で課題が見られます。これら3つの課題は独立しているわけではなく、連鎖的につながっています。適切な人事評価制度が整備され、運用がうまく進んでいるクリニックでは、採用力が高まるだけでなく、定着や育成にも好循環をもたらします。以下では、それぞれの観点でなぜ評価制度が重要となるのかを整理します。
採用面の重要性
- 処遇の透明性をアピールできる
応募者が「どのように評価され、どのようにキャリアアップできるか」をイメージしやすくなるため、歯科業界が未経験の人材や、他院からの転職を検討する有資格者にとっても、安心感を得られます。 - ブランドイメージの向上
公正・公平な評価制度を導入しているクリニックは、求職者や患者さんから「しっかりとした経営基盤がある」「スタッフを大切にする職場」という評価を得やすく、結果的に求人活動にも好影響をもたらします。
定着面の重要性
- 不満の顕在化・解消
評価制度が整備されていないと、スタッフはどう評価されているか分からず、不満を抱えやすくなります。評価面談の場が定期的に設けられれば、不満や疑問を共有しながら解消しやすくなります。 - キャリアプランの提示
スタッフ一人ひとりの将来像やキャリアパスを提示しやすくなり、「自分はこのクリニックでどんな成長ができるのか?」を実感しながら働くことができます。これが離職防止につながります。
育成面の重要性
- スタッフの成長を促す仕組み
人事評価制度で定められた目標や期待役割を達成するプロセスそのものが、スタッフの成長過程になります。成果を発揮したときは適切に評価されるため、モチベーション向上にも寄与します。 - 多職種連携を促進
職種ごとに目標と基準を設けていると、お互いの専門性や役割が明確になり、「誰がいつ、どの業務を担当すべきか」が可視化されます。結果的にチーム医療の質が向上し、患者満足度の向上にもつながります。
以上のように、歯科クリニックにおける人事評価制度は、採用力や定着率、スタッフの成長促進など、複合的なメリットをもたらします。次章では、歯科クリニックにおける評価基準の設定について、職種特性や評価指標の種類を踏まえて具体的に解説していきます。
2. 評価基準を設定する際の重要ポイント
歯科クリニックで人事評価制度を導入する際には、まず「何をどのように評価するのか」を明確にする必要があります。歯科助手、歯科衛生士、受付事務、歯科技工士、そして歯科医師それぞれの業務特性や専門性は異なるため、均一の基準だけでは不公平感が生じやすいからです。本章では、職種ごとの特性を考慮しながら、歯科クリニックならではの評価基準の設定ポイントについて解説します。
歯科クリニック特有の仕事特性
1) 歯科助手の特性
- 業務範囲の広さ
歯科助手は医師のアシスタント業務(器具の準備、患者誘導、治療補助等)だけでなく、受付や会計補助、雑務など幅広い業務をカバーするケースが多々あります。 - 資格要件が必須ではない
歯科助手は有資格者を必ずしも必要としないため、入職後に学習しながら現場でスキルを習得していくことが一般的です。 - 評価基準設定のポイント
「治療補助の正確性」「器具の管理能力」「患者応対のホスピタリティ」「複数業務を並行処理できるマルチタスク能力」などを定量・定性の両面から評価することが重要です。
2) 歯科衛生士の特性
- 国家資格保有の専門職
歯科衛生士は口腔衛生指導、歯石除去、PMTC(専門的口腔清掃)など専門知識・スキルを要する業務を行います。 - 患者さんとの信頼関係構築が重要
予防歯科の考え方が浸透する中で、歯科衛生士の役割は拡大しています。患者さんに対する口腔ケア指導やコミュニケーション力は、歯科医院のイメージや患者満足度にも大きく寄与します。 - 評価基準設定のポイント
「予防処置の技術レベル」「患者さんへの指導スキル」「接遇やコミュニケーション能力」「新しい衛生関連知識の習得度」などを評価対象にします。また、スキルアップへの意欲や勉強会への参加度合いも重視されることが多いです。
3) 受付事務の特性
- 患者さんの第一接点
初めて来院する患者さんや久しぶりに来院する患者さんにとって、受付事務スタッフの接遇や対応はクリニック全体の印象を左右します。 - 金銭管理・予約管理
受付事務には、会計処理・保険証確認・レセプト入力など、正確性とスピードが求められる事務作業が多いです。同時に予約管理業務も担うため、院内のオペレーションを円滑に進める要となります。 - 評価基準設定のポイント
「接遇レベル」「会計・保険処理の正確さ」「予約管理や患者誘導のスムーズさ」「クレーム対応力」「待ち時間短縮の工夫」など、質と効率の両面から評価することが必要です。
4) 歯科技工士の特性
- 院内ラボの有無
歯科技工士を院内に常駐させているクリニックと、外部のラボに依頼しているクリニックで状況は異なります。院内ラボがある場合は、クリニック内スタッフとして組み込まれやすく、評価制度を共通化しやすいでしょう。 - 高い技術力と美的センス
補綴物(クラウン、ブリッジ、入れ歯など)を作製するうえで、精度の高さや患者さんに合わせた色調・形状の再現力が非常に重要になります。 - 評価基準設定のポイント
「補綴物の精度・完成度」「作業効率」「患者とのコミュニケーション(必要に応じて)」「新素材・新技術の習得度」などを評価に含めます。特に審美面の評価は主観的になりやすいため、客観的な指標や患者さんの満足度なども取り入れる工夫が求められます。
5) 医師の特性
- クリニックの経営・管理者としての役割
院長や勤務医など立場は異なるものの、患者数の確保や治療の質の向上、スタッフマネジメントなど、多岐にわたる責任があります。 - 高度な治療技術と診断力
インプラントや矯正、外科的処置など、専門領域の幅が広く、スキルを身につけるには経験と学習が必要です。 - 評価基準設定のポイント
「診療技術」「新しい治療技術への取り組み」「患者数・患者満足度の向上」「スタッフ育成・マネジメント力」などが考慮されます。ただし医師の場合、経営者や管理者としての役割がある場合も多く、その役割に応じた評価項目の設計が必要です。
歯科クリニック特有の評価基準
職種別の特性を踏まえたうえで、評価基準を「定量的」「定性的」両面から設定することが重要となります。一般的には定量評価を「成果評価」、定性評価を「行動評価」と捉えることが多いですが、歯科クリニックならではの観点を加える必要があります。
定量的な評価基準
- 生産性や業務効率
たとえば、受付事務であれば「1日あたりの会計処理件数」「レセプト処理の正確度合い」、歯科技工士であれば「納品までのリードタイム」などです。ただし、医療の質や安全面を損なわないことが大前提となります。 - 患者数・リコール率
予防歯科を重視しているクリニックでは、歯科衛生士が担当する患者さんのリコール率(定期検診の受診率)が重要指標となり得ます。また、院全体としての新規患者数やリピート率は、スタッフ全員の接遇・案内が影響するため、チーム評価の要素として含めるケースもあります。 - 売上目標達成度
医業収益や自費診療の売上目標を評価指標として設定する場合がありますが、単純な「売上至上主義」になってしまうと医療サービスの質が損なわれるリスクもあるため、慎重な設計が必要です。
定性的な評価基準
- 接遇・コミュニケーション力
医療機関である歯科クリニックでは、患者さんへの対応や説明はとても重要です。患者さんが不安を感じないような丁寧な接遇ができているか、患者満足度調査やアンケートを参考に評価する方法が有効です。 - 協調性・チームワーク
多職種連携が不可欠な歯科クリニックにおいては、スタッフ同士の協力体制がスムーズかどうかがクリニック全体のパフォーマンスを左右します。他の職種とどれだけ情報共有やサポートを行えているかを評価項目に盛り込むとよいでしょう。 - 職業倫理・責任感
医療従事者としての倫理観や責任感は定性評価の中でも特に重視される項目です。勝手な判断で患者対応や治療を行わない、守秘義務を厳守するなど、基本的な倫理観の徹底状況を定期的に確認します。 - 専門知識・スキルアップ意欲
歯科助手や歯科衛生士はもちろん、受付事務や歯科技工士も時代とともに新しい知識を身につける必要が生じます。研修やセミナー参加、資格取得など、自発的な学習・成長意欲を評価に組み込むことはモチベーション向上にもつながります。
このように、歯科クリニックの各職種に合わせた定量・定性双方の評価基準をバランスよく設定することがポイントです。次章では、実際に評価制度を導入・運用していく際の具体的なポイントや注意点を見ていきます。
3. 運用を成功させるためのポイント
人事評価制度は、ただ制度を作っただけで終わりではありません。定期的な評価の実施や結果を活用したフォローアップがなされなければ、スタッフにとって形骸化した制度になってしまいます。本章では、評価者の育成やフィードバック面談、評価結果の活用方法など、実際の運用を成功させるための重要ポイントを解説します。
評価者の育成(評価者研修・面談スキル)
- 評価者研修の必要性
歯科クリニックでは院長や副院長、主任の歯科衛生士などが評価を担うケースが多いですが、評価者自身が“評価をする”という行為に慣れていない場合も少なくありません。「評価項目のどの部分を重点的に見ればいいのか」「具体的にどのような基準で点数を付けるのか」など、評価者同士で共通理解を持つための研修が不可欠です。 - 面談スキルの向上
評価には面談が付きものですが、忙しい診療の合間を縫って行われると時間が不足しがちです。また面談を担当する評価者が、適切なコーチングやフィードバックのスキルを持っていないと、スタッフのモチベーションを下げてしまうことがあります。
短い時間でも効果的に面談するためには、「まずは相手の話をよく聞き、共感・受容する」「良い点は具体的に褒める」「改善点は具体的な行動レベルで提案する」などの基本スキルを評価者間で共有しましょう。 - 客観的資料の活用
評価を行う際は、なるべく客観的な資料を用いると公平性が高まります。患者満足度調査の結果や、レセプト請求のエラー件数、ミーティング議事録など定期的に記録されたデータを評価に反映することで、評価者の主観に偏らない判断ができます。
フィードバック面談の重要性とポイント
- 定期的な面談サイクルの構築
少なくとも年2回、あるいは四半期ごとに評価面談を実施し、スタッフの目標と進捗、改善点を確認します。面談の頻度が低すぎると、スタッフが自分の評価や今後の方針を把握する機会が少なくなってしまい、モチベーションが下がりやすくなります。 - ポジティブフィードバックを重視
改善を指摘するだけではなく、良い点をしっかりと評価し、スタッフの自信ややる気を引き出すことが重要です。特に若手スタッフや未経験分野に挑戦しているスタッフに対しては、成功体験を認めることで成長意欲を高める効果が期待できます。 - 明確な次のステップの提示
面談では、「具体的にどのような行動をすれば次の評価期間で評価が上がるのか」を明確に伝えることが大切です。スタッフが曖昧な指示しか受け取れないと、「頑張っているのに評価されない」という不満に繋がります。
評価結果の活用方法
- 給与・賞与への反映
評価結果を給与や賞与にどの程度反映させるかは、歯科クリニックの規模や経営方針によって異なりますが、成果が給与にまったく反映されないと、評価制度のモチベーション効果が半減します。 - 昇格・役職任用
主任歯科衛生士やチーフ歯科助手など、役職登用や職位の設置を行う場合、客観的な評価結果に基づいて実施すると、公平感が得られやすくなります。 - スキルアップ支援策
評価結果をもとに、スタッフが不足しているスキルや知識を補うための研修やセミナー受講などを支援する仕組みを用意すると、スタッフのモチベーション向上につながります。
育成計画・キャリアパス設計への活用
- 個々の成長段階を可視化
評価のタイミングでスタッフの得意分野や苦手分野、興味分野を把握し、長期的なキャリアプランを共有すると、スタッフは目標を持って日々の業務に臨めます。 - ジョブローテーションや職種横断の支援
大規模な歯科クリニックや複数院を経営している法人では、歯科衛生士が受付を学んだり、歯科技工士が臨床の流れを知る機会を作ったりと、職種横断的な経験を促すキャリアステップを用意することで、スタッフの成長をサポートできます。
社員モチベーション向上施策との連動
- 表彰制度やインセンティブ制度
人事評価制度と連動した表彰制度を設けることで、頑張ったスタッフを大きく評価・讃える文化が生まれます。月間MVP、年間優秀スタッフなどの形で可視化するのも効果的です。 - 懇親会・イベントとの組み合わせ
評価面談だけでなく、定期的にコミュニケーションを図れるイベントや懇親会を用意しておくと、スタッフ同士の理解が深まり、相互評価がスムーズに進む場合があります。
ここまで紹介した運用のポイントは、決して難しいものではありません。とはいえ、忙しい診療の合間を縫って継続する必要があるため、ある程度の計画性と、評価者同士の連携が欠かせません。次章では、こうした運用ポイントを踏まえた「実践のヒント・具体例」をいくつか紹介します。
4. 実践のヒント・具体例
本章では、実際に歯科クリニックで評価制度を運用する際に役立つ「ちょっとした工夫」や「具体的な実践例」を紹介します。すべてをいきなり導入するのは難しいかもしれませんが、自院の状況に合わせて取り入れてみてください。
- 評価シートを職種ごとに作成する
歯科助手、歯科衛生士、受付事務、歯科技工士、歯科医師それぞれの評価項目と評価基準を詳細に記入したシートを作り、本人と評価者が共有するようにします。シートの項目例は以下のようなものです。
●歯科助手:治療補助スキル、器具準備の正確性、感染予防対策の理解度、患者応対、コミュニケーションなど
● 歯科衛生士:スケーリングやPMTCの技術レベル、患者教育スキル、予防歯科への貢献度、最新知識の習得度など
● 受付事務:電話応対の品質、会計処理の正確性、予約管理、クレーム対応、チームとの連携度など
● 歯科技工士:補綴物の精度、納期遵守、患者要望の理解度、新素材・デジタル技工への対応力など
● 医師:診療技術、診断力、スタッフ育成、クリニックの運営管理、売上・利益率など - 評価面談の流れを事前に決めておく
多忙な院長や主任スタッフでも、面談のフローをテンプレート化しておけば短時間で効率的に進められます。例えば、以下の流れにするとスムーズです。
(1) 前回評価から今回までの振り返り(良かった点・課題点)
(2) 本人の意見・要望をヒアリング
(3) 評価者からのフィードバック(良い点の具体的評価と改善点の提案)
(4) 次期目標の設定・合意
(5) その目標達成を支援するための施策や研修の案内 - 患者アンケートを評価資料に活用
定性評価の客観性を高めるために、定期的な患者アンケートを実施し、その結果を評価資料として活用します。「スタッフの対応が丁寧だった」「説明が分かりやすかった」などの声は、直接的にスタッフの接遇力やコミュニケーション力を表しているため、定性評価に大きく貢献します。 - ミーティングを評価フォローアップの場にする
定期ミーティングの中で、スタッフ一人ひとりの成果や問題点を共有する時間を設けると、チーム全体としての課題や改善策を話し合う場として機能します。特に多職種が連携するケースでは、別職種のスタッフが現場で何を課題としているのかを知る良い機会となります。 - 評価制度の運用フローを一枚のチャートにまとめる
評価のタイミングや手順が複雑になると、現場で運用しにくくなります。
– 何月に評価シートを配布するのか
– 何月に自己評価を記入してもらうのか
– 何月に評価者面談を実施するのか
– いつ給与・賞与の決定に反映されるのか
これらをクリニック全員が見える形でチャート化し、掲示板やデジタルツールで共有することで、スムーズな運用が可能になります。
こうしたヒントや具体例を参照しながら、自院のスタッフ構成や診療方針にあった形でアレンジしてみてください。評価制度は「作って終わり」ではなく、運用しながら改善を重ねていくプロセスが大切です。
5. まとめ

- 第1回:「歯科クリニックの人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「歯科クリニックの人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「歯科クリニックに特化!歯科助手に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「歯科クリニックに特化!歯科衛生士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「歯科クリニックに特化!受付事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「歯科クリニックに特化!歯科技工士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「歯科クリニックに特化!歯科医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「歯科クリニック向け!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」
最後に、本コラムで解説した「歯科クリニックの人事評価制度」の要点を振り返り、今後の導入・運用の参考にしていただけるよう再確認します。
ポイントの再確認
- 歯科クリニック特有の人事課題
採用面では専門人材の確保が難しく、定着面では公平な評価がされず離職につながりやすい。育成面では専門教育の場が少なく、スタッフの成長支援が不足しがち。こうした課題を乗り越えるうえで人事評価制度が重要な役割を果たす。 - 職種ごとの評価基準設定が不可欠
歯科助手、歯科衛生士、受付事務、歯科技工士、歯科医師それぞれで求められるスキルや業務特性が違うため、定量と定性の両面からバランスよく評価項目を設計する。専門性やコミュニケーション力など多面的な視点が重要。 - 運用の継続と改善が評価制度の鍵
評価者の育成やフィードバック面談、評価結果の活用などのプロセスをしっかりと回すことで、スタッフのモチベーションと成長を促す。形骸化を防ぐには、継続的な見直しと評価者間の連携が不可欠。
歯科クリニックに合った評価項目の設定
歯科クリニックでの評価制度は、大病院や一般企業の制度をそのまま当てはめても効果を発揮しないことがあります。
- 各職種の専門性を十分に理解
- 診療理念や経営方針との整合性を持たせる
- 患者満足度やチーム連携などの特有の指標を重視
これらを考慮し、クリニック独自の評価項目を設けることが大切です。
評価者育成とフィードバック面談の重要性
- 評価者研修:評価基準の理解、面談スキルの習得
- フィードバック面談:スタッフのやる気を高め、課題を明確にするコミュニケーションの場
- 客観的データの活用:主観的な判断だけではなく、患者アンケートや作業実績などのデータを踏まえて評価
こうしたアクションがしっかりと実行されると、人事評価制度がスタッフの成長とクリニックの発展に貢献する仕組みとなります。
<終わりに>
- 第1回:「歯科クリニックの人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「歯科クリニックの人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「歯科クリニックに特化!歯科助手に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「歯科クリニックに特化!歯科衛生士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「歯科クリニックに特化!受付事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「歯科クリニックに特化!歯科技工士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「歯科クリニックに特化!歯科医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「歯科クリニック向け!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」

本コラムでは、歯科クリニック特有の人事課題を踏まえながら、人事評価制度の基礎から評価基準の設定、そして運用のコツについて解説しました。採用・定着・育成の面で効果を高めるためには、評価制度を単なる「査定」の道具と捉えるのではなく、「スタッフのやる気と成長を引き出す仕組み」として活用することが不可欠です。
次回のコラム(第2回)では、人事評価制度を導入するメリット・デメリットや、そのデメリットをカバーする対策、導入成功事例などについて詳しく紹介します。
歯科クリニックならではの事情を踏まえ、総合的に人事制度を整備していくことが、スタッフや患者さんにとっても「より良い医療環境」づくりにつながるはずです。ぜひ引き続きご覧いただき、自院の人事制度整備に役立てていただければ幸いです。