建設業における施工管理の人事評価制度をテーマに、これまでの連載内容を踏まえつつ、施工管理の特性や評価のポイント、制度導入の具体例などをまとめました。施工管理は建設プロジェクトの要として重要視される一方、その評価が後回しにされやすい現状も否めません。
本コラムでは、施工管理に特化した評価制度づくりのヒントをご紹介します。貴社の制度設計・運用の参考にしていただければ幸いです。
1. はじめに
- 第1回:「建設業の人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「建設業の人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「建設業に特化!現場職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「建設業に特化!施工管理に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「建設業に特化!建設事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「建設業に特化!設計職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「建設業に特化!営業・営業サポートに活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「建設業向け!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」

本コラムの目的と背景
- これまでの連載の振り返り
- 施工管理を取り巻く課題と重要性
前回までの連載では、建設業界における人事評価制度をテーマに、全体像から現場職特化の視点まで、さまざまな切り口で解説してきました。建設業では人材不足や技能継承の問題が深刻化しており、優秀な人材を採用・育成・定着させるためには、公平かつ納得感のある評価制度が不可欠です。特に施工管理の担当者は、現場全体を統括する立場にありながら、多様なスキルや調整力が必要とされるため、適切な評価基準を設定することの難しさが指摘されています。
施工管理は工期や品質、安全面、コスト管理など、多岐にわたる領域を横断的にマネジメントするポジションです。プロジェクトの成否を左右するといっても過言ではなく、建設業においては「縁の下の力持ち」あるいは「現場の指揮官」として重要な役割を担っています。しかし、その成果を数値化・客観化するのは容易ではありません。外部環境の影響や協力会社との連携状況、予期せぬトラブルへの対処など、評価に含めるべき要素が多岐にわたるからです。
そこで本コラムでは、施工管理の役割やその評価が難しいとされる要因を整理したうえで、評価制度に落とし込む際のポイントや運用のヒントを紹介します。これまでの連載で扱った評価制度の基礎を踏まえつつ、施工管理という職種にフォーカスして具体的に掘り下げていきます。
建設業における「施工管理」への人事評価制度の導入状況
- 施工管理の評価が後回しにされやすい理由
- 経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
施工管理への評価制度が十分に整っていない企業の背景には、いくつかの要因があります。たとえば、実務が忙しく評価の手間をかけられないこと、工期短縮や安全確保など多角的な管理指標が混在しており、どのように優先順位を付けるかが明確でないことなどが挙げられます。加えて、施工管理者自身が「結果を出すことが当たり前」という認識を持っている場合が多く、成果をきちんと評価してもらう必要性を感じていないケースもあるでしょう。
また、評価者サイド(経営者・人事担当者)からは、「具体的にどの指標で施工管理者の仕事ぶりを測るべきか」「工事内容や工種によって成果指標が大きく変わるが、どこまで柔軟に設計すればいいのか」といった難しさを感じる声も聞かれます。こうした現状を打破しないままでは、施工管理者のモチベーション向上や組織全体の生産性向上に結びつけるのは難しいでしょう。次章では、施工管理の評価を難しくしている代表的な理由を解説し、同時に解決へ向けた基本的なアプローチを提案します。
2. 施工管理の評価が難しい理由とその対策

施工管理の人事評価が難しい3つの事情
1)業務範囲が広く、外部要因も多い
施工管理は「工程管理」「品質管理」「安全管理」「原価管理」など、多岐にわたる領域をカバーします。一方で、天候不順や協力会社の作業遅れ、資材納入のトラブルなど、自分だけではコントロールしきれない要素も多々存在します。そのため、評価項目を設定しても「外部の影響が強い部分をどう扱うか」が曖昧になりやすく、評価そのものが属人的・曖昧になってしまうことがあります。
2)定量化が難しい調整能力・交渉力
施工管理の大きな仕事のひとつに、さまざまなステークホルダーとの調整・交渉が挙げられます。元請け・下請け・施主・協力会社など、人間関係の調整が仕事の大半を占める場面もあり、そこにかかる時間や労力は数値化しにくいものです。目に見えた成果(工期短縮、コスト削減)があれば評価しやすい一方で、問題が起こらないように事前に根回しをしたり、関係者とスムーズにコミュニケーションを図ったりといった地道な取り組みが見えにくいという難点があります。
3)評価者が施工管理の実態を十分に理解していない
多忙な経営者や人事担当者は、施工現場に足を運ぶ機会が限られ、実際にどのような調整や判断がなされているかを把握しづらいことがあります。現場の進捗だけを追いかける形で評価しようとすると、表面的な数字(工期の遅延や原価のオーバーなど)で判断してしまいがちです。そこには、施工管理者の苦労やスキルが正当に評価されない落とし穴が潜んでいます。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
1)評価基準に「成果指標」と「プロセス指標」を組み合わせる
工期遵守率やコスト削減額、安全事故件数のような「最終成果」を測る定量指標に加えて、調整・交渉といった「プロセス」を評価する定性指標を導入することで、外部要因や目に見えにくい努力をすくい上げます。これにより、施工管理者が主体的に取り組んだ施策や、未然に防いだトラブルの大きさなども評価対象に含めやすくなります。
2)評価者・施工管理者間のコミュニケーションを強化する
評価者(経営者・人事担当者)が現場や会議に積極的に参加する、定期的な報告書や写真・動画共有システムを導入するといった工夫で、施工管理者の活動内容を可視化しましょう。評価の前段階で正確な情報を得られるようになれば、評価者と施工管理者の「認識のズレ」を最小限に抑えることができます。
3)キャリア成長を見据えた評価制度にする
施工管理者は、会社のなかでも高度な専門知識とマネジメントスキルを要求されるポジションです。したがって、評価制度を単なる給与や賞与の決定だけにとどめず、資格取得支援や管理職へのステップアップなど、本人のキャリア成長と紐づけることが不可欠です。評価を通じて「今後どんなスキルを伸ばすべきか」が明確になり、モチベーションを高める結果につながります。
3. 施工管理向けの人事評価制度設計ポイント
定量評価の主要ポイント3選
1)工期遵守率・工程進捗管理
施工管理において、工程の把握と調整は最も重要な業務のひとつです。設定したスケジュール通りに進んだ比率、遅れが出た場合のリカバリーまでの期間などを評価対象とします。ただし、悪天候や資材遅延など、施工管理者の努力だけではどうしようもないケースもあるため、一定の補正基準や考慮事項を明文化しておくことが大切です。
2)原価管理・コスト削減
原価管理の精度は、企業の利益に直結します。資材調達を含むコストマネジメントの巧拙により、プロジェクトの最終的な収益性が大きく変化するでしょう。施工管理者が予算内に工事を収めるために取った施策、協力会社との価格交渉、余剰資材の活用などを数値で捉え、評価項目として設定します。
3)品質管理・検査合格率
施主や発注元、行政機関による検査・検品における合格率や是正件数は、施工品質を端的に示す指標となります。施工管理者がどのような品質保証体制を作り、どれだけ綿密にチェックを行っているかは、最終的な検査結果やクレーム件数に反映されるため、定量評価に取り入れやすい部分です。
定性評価の主要ポイント3選
1)チームマネジメント・コミュニケーションスキル
施工管理は多様な業者・職種を統括するリーダー役でもあります。連絡・交渉のスムーズさ、問題発生時の対処の早さ、部下や協力会社との協調姿勢などを定性的に評価し、優れたコミュニケーション力を発揮している人材をきちんと評価することが大切です。
2)リスクマネジメント・安全意識
建設現場では事故や災害のリスクが常に伴います。日々の安全パトロールや危険予知活動、災害発生時の迅速な対応策などは、施工管理者の大きな責務のひとつです。定性的な視点から、どのようにリスクを察知・回避しているか、安全教育をどれだけ徹底しているかなどを評価に含めることで、社員全体の安全意識を高めることにつながります。
3)課題解決への主体性・改善提案
工程の遅延やコストオーバー、安全上の懸念など、問題は現場で絶え間なく発生します。こうしたトラブルに対して、施工管理者が主体的に解決策を考案し、協力会社や社内関係者と協調して実行できるかどうかは大きな評価ポイントです。単に指示を待つのではなく、自ら問題の根本原因を探り、改善策を実行に移しているかを注視します。
評価結果の活用方法
- 昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
評価結果は、成果に応じた昇給・賞与の算定材料となるのはもちろんですが、施工管理者のキャリアビジョンを描く指針として活用することも重要です。たとえば、上位資格(一級建築士・構造設計一級建築士など)の取得支援、チームリーダーやプロジェクトマネージャーへの昇格など、専門スキルとマネジメントスキルを並行して成長させるロードマップを示すことで、社員のモチベーションを大きく高められます。 - スキルマップや資格取得支援制度との連動
評価結果をもとにスキルマップを更新し、施工管理技士や建築士などの資格取得と関連づける方法もおすすめです。たとえば、3Dモデリングや環境シミュレーション、特殊構造設計などの専門分野への深耕をサポートする仕組みや、社内勉強会の開催などを絡めると、組織全体の技術レベル向上につながります。
4. 施工管理向け 人事評価制度の活用事例
事例1
- 導入背景
A社は公共事業と民間工事を両軸で行う中堅ゼネコン。受注が増える一方で、施工管理の人材不足と既存の管理職の負担増が問題化していました。加えて、既存の評価制度では工期やコストだけに注目が偏り、調整やコミュニケーションの巧拙が評価されにくかったため、若手・中堅のモチベーションが伸び悩む原因となっていました。 - 導入内容
まず経営陣が現場を巡回し、施工管理者の実務を細かく観察。そのうえで、工期遵守率や原価管理だけでなく、「工程表の更新頻度・正確性」「協力会社との連絡調整のスムーズさ」「安全教育への取り組み」などのプロセス評価項目を設定しました。加えて、評価結果によっては資格取得支援や研修受講が優先的に受けられる仕組みを導入。これにより、施工管理者が普段から「どこを意識すれば評価されるか」を理解しやすくなり、日常の業務改善に積極的に取り組むようになりました。
事例2
- 導入背景
B社はリニューアル工事や内装工事を中心に手がける中小規模の建設会社。マンション大規模修繕などの案件を多くこなしていたが、施工管理者一人ひとりの能力に頼る場面が多く、個人差が激しい状況でした。特に顧客とのコミュニケーションや工事説明・調整において、担当者によってクレーム件数がばらつくことが課題に。 - 導入内容
コミュニケーション面や顧客対応力を重視した定量・定性指標を設定。具体的には「顧客アンケート評価点数」「クレーム件数」「協力会社や近隣住民への告知手順や回数」などを評価項目に組み込み、定期的なフィードバック面談で施工管理者が抱えている課題をヒアリングし、改善策を協議しました。また、評価結果と連動して、社内表彰制度を始め、営業部門と連携するプロジェクトを優先的に担当できる仕組みを構築。結果として、顧客満足度が向上し、クレーム数も減少。施工管理者の離職率も改善し、社内の風通しが大きく良くなったといいます。
5. まとめ

- 第1回:「建設業の人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「建設業の人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「建設業に特化!現場職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「建設業に特化!施工管理に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「建設業に特化!建設事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「建設業に特化!設計職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「建設業に特化!営業・営業サポートに活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「建設業向け!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」
本コラムのポイント
- 施工管理特有の評価項目の設定
施工管理は工程・品質・安全・原価の管理に加え、調整・交渉・リスクマネジメントといった多面的なスキルを必要とします。数値化しやすい工期遵守率やコスト削減額などの定量評価だけでなく、コミュニケーション力や問題解決能力など定性的な面も適切に組み込むことが重要です。
制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
建設業界は技術革新や経済状況の変化、公共事業と民間工事の比率変動など、多くの要素が短期間で変わり得る業種です。施工管理の評価制度も、一度整えたら終わりではなく、定期的に見直しを行いながら柔軟にアップデートしていく姿勢が大切です。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
施工管理者は、会社の中核を担う人材へと成長する可能性が高く、将来的にはプロジェクトリーダーや管理職へのステップアップも期待できます。評価制度を通じてスキルアップや資格取得を支援することで、次世代の管理職候補を育成し、組織の持続的発展に貢献しましょう。 - 施工管理特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
施工管理が円滑に機能すれば、工期短縮や品質向上、コストコントロール、安全確保など、企業の業績や信頼度を大きく高める要素が整います。こうした成果が正当に評価され、組織全体に共有される仕組みがあれば、施工管理者の意欲向上だけでなく、会社全体の成長エンジンとして機能するでしょう。
総括すると、施工管理は建設業界において重要度の高いポジションである一方で、評価設計が難しいという特徴があります。しかし、定量評価と定性評価をバランスよく組み合わせる、評価者と被評価者のコミュニケーションを密にする、評価結果をキャリアパスや資格取得支援と結びつけるなどの工夫によって、施工管理者の働きがいを高めながら、企業としての競争力を強化することが可能です。
本コラムを通じて、施工管理特有の評価項目の設定や運用のポイントが少しでも参考になれば幸いです。建設業界が抱える人材不足や技能継承の課題は、評価制度の改善によって部分的に解決が期待できる領域でもあります。ぜひ、貴社の制度設計・見直しの際に、本記事の事例や提案を取り入れていただき、施工管理者のモチベーションを高め、企業の成長を加速させるきっかけとしてご活用ください。
今後も引き続き、建設業における人事評価制度のあり方や実践事例を掘り下げてまいります。施工管理をはじめとする各職種の特性を理解し、その実態に合った制度設計を行うことで、組織全体の力が底上げされ、より高品質かつ安全な建設プロジェクトを実現できるはずです。ぜひこの機会に、施工管理への評価方法を見直し、一歩踏み込んだ人材育成・組織改革を検討してみてください。