リハビリテーションを担う療法士は、患者さんの生活機能回復に大きく貢献します。一方で、「患者ごとに異なるリハビリプログラムを、どう評価に繋げるか分からない…」というお悩みも多いのでは? 本コラムでは、クリニックで働く理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などの評価指標を、定量・定性の両方から提案。患者満足度やモチベーション管理など、他職種とも協力しながら成果を高める秘訣を紹介しています。療法士の評価制度を整えることでリハビリ部門を強化したい方、必見です!
1. はじめに

- 第1回:「クリニックの人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「クリニックの人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「クリニックに特化!医療事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「クリニックに特化!看護師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「クリニックに特化!技師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「クリニックに特化!療法士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「クリニックに特化!医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「クリニックに特化!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」
● 本コラムの目的と背景
本連載ではこれまで、人事評価制度を「クリニック」という組織特性に合わせてどのように設計・運用するかを、職種ごとに掘り下げてきました。医療事務、看護師、技師など、それぞれの専門領域や役割に応じた評価のポイントや成功事例をご紹介してきたところです。
今回は、リハビリテーションを提供する「療法士」に焦点を当て、人事評価制度の構築・運用方法を詳しく解説します。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)など、療法士は病院だけでなく近年ではクリニックでも活躍の場が広がっています。患者さんに対するリハビリテーションや機能回復を支援する彼らの存在は、クリニックの付加価値向上や地域医療への貢献度アップに直結します。
しかし、クリニック規模で療法士を雇用する際、「どのように評価すればいいのか」「給与や昇給・昇格をどのように決めればいいか」という疑問を抱く経営者・人事担当者は決して少なくありません。ここでは、療法士を取り巻く課題や、評価設計のコツ、実際の活用事例をご紹介してまいります。
● これまでの連載の振り返り
- 第1回・第2回
クリニックで人事評価制度を導入するメリット・デメリットや、運用時の注意点を総論的に整理。 - 第3回・第4回・第5回
医療事務、看護師、技師という職種ごとの特有の評価項目や、制度活用の成功事例を詳しく解説。スタッフのやる気や専門性を引き出す評価制度こそが、クリニック経営の安定化につながるという点を強調しました。
今回の第6回では、療法士に注目し、さらに実践的な視点から人事評価制度のポイントを共有していきます。
● 療法士を取り巻く課題と重要性
クリニックで働く療法士は、整形外科やリハビリ科、内科(循環器系リハビリなど)など、多様な診療科で活躍します。大病院ほどの規模ではなくとも、地域密着型クリニックで定期的にリハビリを受ける患者さんは増加傾向にあり、そのニーズに応えられる療法士は貴重な戦力です。
- 患者満足度への影響が大きい
リハビリは長期にわたるケースが多く、患者さんと療法士が築く信頼関係が、クリニックの評判やリピーター獲得につながります。 - 専門性が高く、かつケアの質も求められる
単に「トレーニング」や「施術」をするだけではなく、患者さんの生活背景や心理面に配慮した総合的なサポートが必要です。 - 療法士が複数在籍するクリニックではマネジメントも課題
スタッフ数が増えるほど、それぞれのスキルレベルや得意分野を把握し、適材適所に配置することが重要になります。
● クリニックにおける「療法士」への人事評価制度の導入状況
● 療法士の評価が後回しにされやすい理由
- リハビリの成果が数値化しにくい
患者さんごとにリハビリの進捗やゴールが異なるため、単純な数値目標を設定しづらい。客観的な評価軸の策定に苦労するケースが多い。 - 院長や経営者がリハビリの専門知識を十分に把握しづらい
医師であっても、リハビリ専門の知識までは詳しくカバーしきれないことがある。療法士の業務がブラックボックス化しやすく、公平な評価が難しい。 - 外来が忙しく、管理やフィードバックの時間が取れない
看護師や医療事務のマネジメントで手一杯になり、療法士の面談や日々の指導が疎かになる場合もある。
● 経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 評価基準の明確化とスタッフの納得感
「患者さんのリハビリ経過」がダイレクトな評価指標になるものの、個人差が大きく単純比較ができない。スタッフ本人にも、どのポイントが評価につながるのか伝わりにくい。 - 給与テーブルやキャリアステップの設計
病院と比べて小規模なクリニックでは、「主任療法士」や「指導者ポジション」などをどこまで細かく設定するかが難しく、結果的にモチベーションを引き出しづらくなる。
次章では、こうした課題を踏まえたうえで、「療法士の評価が難しい理由」と、その解決アプローチを3つに分けて解説します。
2. 療法士の評価が難しい理由とその対策
● 療法士の人事評価が難しい3つの事情
- 患者一人ひとりに合わせた個別性の高さ
リハビリプログラムは、患者さんの年齢、疾患、生活状況などにより大きく変化します。単純に「歩行距離が増えた」「関節可動域が拡大した」などの成果は見えても、それがスタッフ個人の評価にどの程度直結すべきかが悩ましいところです。 - 定期的な測定や客観的指標が不足しがち
療法士は各種テスト(ROMテスト、筋力テスト、ADL評価など)を行いながら患者の状態を把握しますが、その測定結果は患者ごとの回復度合いや治療方針との兼ね合いが大きいです。評価指標として統一しにくい部分が多く、スタッフ間で比較・検証が難しくなります。 - 治療のモチベーションや接遇面も大きな要因となる
リハビリの成果には、患者さん自身のモチベーションや家庭環境も影響します。療法士がいかにアプローチしても、患者さんの協力が得られなければ思うように成果が出ないケースもあるため、「スタッフ個人のスキルと成果」をイコールで結びつけづらいのが実情です。
● 課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 患者ごとの目標設定と評価を「プロセス評価」に組み込む
結果だけでなく、プロセス(どのようなプログラムを組み、どれだけ計画的に実施できたか)を評価対象に含めることで、個別性の高さに柔軟に対応します。 - 定性評価と定量評価を組み合わせる
リハビリプログラムの完遂率、来院頻度、検査指標などの定量評価に加え、コミュニケーションスキルやモチベーション管理、チーム連携などを定性評価に含める。 - キャリアステージ別・専門領域別で評価基準を細分化
新人、中堅、ベテランというキャリアステージや、運動器リハビリ・脳血管疾患リハビリなど専門分野で求められる知識や技術レベルを明確化し、それに応じた評価ポイントを設ける。
こうしたアプローチを踏まえて、次章では「療法士向け人事評価制度設計の具体的なポイント」をご紹介します。

3. 療法士向けの人事評価制度設計ポイント
3-1. 定量評価の主要ポイント3選
1.リハビリ実施件数・プログラム完遂率
- 1日・1週間・1ヶ月あたりのリハビリ実施件数
患者さん一人ひとりに行ったリハビリ回数や時間を集計し、療法士の担当件数とのバランスを可視化する。 - リハビリプログラムの完遂率
設定したプログラム(期間・回数・目標)を患者がどの程度達成できたかの「完遂率」を記録する。ただし、患者事情による中断も多いため、スタッフ個人の努力をどう反映するかは工夫が必要。
2.機能評価指標の改善度合い
- ROM(関節可動域)テストや筋力テストなどの改善度
初回評価と経過評価を比較し、一定の改善がみられたかを定量的に把握する。ただし「個人のスキル」だけでなく「患者さんの状態」に左右されるため、他の評価指標とも総合して判断。 - ADL(日常生活動作)評価の推移
日常生活動作がどれほど独立して行えるようになったかを記録し、改善率を算出。患者さんのQOL向上に繋がったかを数字で示すことで、療法士の貢献度を見えやすくする。
3.通院継続率・キャンセル率
- リハビリ通院の継続率
患者が途中で通院をやめてしまう割合が高い場合、モチベーションフォローの問題がある可能性がある。 - キャンセル率の変動
患者都合でのキャンセルは一定数あるものの、スタッフの対応や指導によっては減少が期待できるため、改善努力の指標とする。
3-2. 定性評価の主要ポイント3選
1.コミュニケーション力・患者対応力
- 患者の不安や痛みに寄り添う態度
患者満足度調査や医師、看護師からのフィードバックを踏まえ、療法士がどれだけ丁寧に説明・サポートしているかを評価。 - モチベーション維持のための工夫
患者さんが自主練習を続けられるように、ホームエクササイズの提案や励ましを行っているかを面談などで確認。
2.専門知識・技術の更新度
- 最新のリハビリ手法や関連資格の取得
学会や研修に参加し、新しいリハビリテクニックを習得しているか。自己研鑽の姿勢を評価。 - 個々の患者に応じたアセスメント能力
病態や生活背景を踏まえた上で、適切なリハビリプランを立案できるか。困難症例への対処能力も評価対象。
3.チームワーク・他職種連携
- 医師・看護師・事務スタッフとの連携度合い
問診情報や検査結果を共有し、必要に応じて医師と相談したり、看護師と協力して患者をサポートするなど、院内連携のスムーズさを確認。 - 後輩指導やリーダーシップ
療法士が複数在籍している場合、先輩スタッフの指導力やリーダーシップも重要な評価ポイント。新人や中途採用者の育成に貢献しているかを見極める。
3-3. 評価結果の活用方法
● 昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
- リハビリ部門の主任・リーダー職設定
大病院ほどの組織階層がなくても、中規模以上のクリニックなら「主任療法士」「リハビリチーフ」などのポジションを設けることでモチベーションアップが見込める。 - 専門領域の担当制
脳血管疾患やスポーツリハビリなど、得意分野を持つスタッフを“スペシャリスト枠”として待遇を変える仕組みも有効。評価結果を元に担当を振り分けることでスタッフの成長欲求を刺激できる。
● スキルマップや資格取得支援制度との連動
- スキルマップの作成
「運動器リハ」「内部障害リハ」「脳血管疾患リハ」「言語・高次脳機能」など、クリニックで扱う可能性がある領域をリスト化し、各スタッフの習熟度を可視化。どの分野を伸ばせば次のステージに行けるかを明示する。 - 資格取得・研修参加を評価に反映
認定理学療法士や認定作業療法士などの取得、学会発表、外部セミナー参加を積極的に奨励し、評価面でも加点・手当支給などを行う。
4. 療法士向け 人事評価制度の活用事例
最後に、実際に療法士向け人事評価制度を導入し、成果を上げた2つのクリニック事例を紹介します。
事例1
導入背景
- クリニック概要
都市部で整形外科とリハビリテーション科を併設。医師2名、看護師4名、理学療法士3名、作業療法士1名、医療事務3名が在籍。患者層はスポーツ外傷から慢性疾患の高齢者まで幅広い。 - 課題
3名の理学療法士と1名の作業療法士の間で、得意分野や担当患者に偏りが発生し、院長も公正な昇給判断ができずにいた。また患者アンケートで「待ち時間が長い」「誰がどの患者を診ているか分からない」という声が上がっていた。
導入内容
- スキルマップ作成と担当制の導入
各療法士の専門領域(運動器、スポーツ、手指機能など)や得意分野を明確にし、週ごとに担当表を作成。評価の際は「担当領域における計画達成度」と「横断的な連携(他領域へのサポート)度合い」を定量・定性でチェック。 - 定量評価:キャンセル率・リハビリ完遂率を可視化
患者が途中で通院をやめてしまう率や、設定したリハビリ期間を予定通り完了できたかを数値化。スタッフ個人の責任ばかりではないが、「患者とのコミュニケーションやフォロー」が上手なスタッフほど数値が良くなる傾向を確認。 - 定性評価:患者満足度アンケートと同僚評価
半年に一度、患者満足度アンケートを実施。スタッフそれぞれのリハビリ説明や対応への評価を収集し、匿名の同僚評価(看護師や医事スタッフ、他の療法士)も取り入れて、コミュニケーションや連携の質を多面的に評価。
導入後の変化
- 得意分野の担当制で業務効率が上がり、患者の待ち時間が減少。スポーツリハ担当の療法士が部活生を中心に受け持つなどの仕組みが功を奏した。
- 患者満足度アンケートでは「説明が丁寧」「相談しやすい」という意見が増え、定着率も向上。
- スタッフ間の連携が活性化し、キャンセル率が低いスタッフのノウハウを全員で共有するなど、相乗効果が生まれ始めている。
事例2
導入背景
- クリニック概要
地方都市の内科・循環器科クリニック。医師3名、看護師6名、医療事務4名、理学療法士2名、言語聴覚士1名在籍。心臓リハビリや呼吸器リハビリも行っている。 - 課題
新規に言語聴覚士を採用したが、内科的リハビリの経験が浅く、業務指導の体制が曖昧。理学療法士との役割分担も不明確で、誰がどの患者さんをフォローすべきか混乱していた。
導入内容
- キャリアステージ別評価基準の設定
新人(経験1~2年目)、中堅(3~5年目)、ベテラン(5年目以降)といった段階に分けて、必要なスキルや期待役割をリスト化。言語聴覚士はコミュニケーション評価や嚥下機能評価のスキル習得度を重点的にチェック。 - 定量評価:機能評価指標と通院継続率
患者の呼吸機能テストや歩行耐久テストの結果、言語聴覚士の評価では嚥下機能テストや発話機能テストを導入。通院・リハビリ継続率も合わせて数値管理し、療法士個人の取り組みを見える化。 - 定性評価:院内勉強会や連携会議への参加度合い
毎週1回、医師・看護師・療法士によるケースカンファレンスを実施。そこにどれだけ積極的に参加し、自分の意見を述べ、他職種の意見を吸収しているかを評価項目に加えた。
導入後の変化
- 言語聴覚士が積極的にカンファレンスで意見を交わし、口腔ケアや嚥下機能向上のプログラムを看護師と共同で改善するなど、連携がスムーズに。
- 理学療法士との役割分担も明確になり、心臓リハビリをメインに行うスタッフが言語面の問題を把握した場合は言語聴覚士を呼ぶなど、患者さんに合わせたチームアプローチが進んだ。
- 評価制度をベースに明確な期待役割が提示されることで、新人スタッフの離職率が低下。長期的なキャリアパスを見据えて働く姿勢が育まれた。
5. まとめ
● 本コラムのポイント
1.療法士特有の評価項目の設定が鍵
- 定量評価:リハビリ件数、完遂率、機能評価指標の改善度、通院継続率など、ある程度数値化可能な領域を整理
- 定性評価:患者対応の丁寧さ、モチベーション維持の工夫、他職種との連携、学習意欲などを面談やアンケートで把握
- 成果だけでなくプロセスを評価:患者個々の事情によって結果が左右されるため、設定した計画を適切に実行しているかというプロセス面の評価が欠かせない
2.制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
新たな療法士の採用やリハビリ科の拡充などがあれば、評価項目や基準をこまめにアップデートする。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
「主任療法士」「専門療法士」「教育担当」などの役職・ポジションを作り、評価結果をもとにステップアップできるように設計。 - 療法士特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
リハビリ部門の充実は患者満足度やリピーター率向上に直結。正しい評価制度があれば、優秀な療法士を確保・育成し、クリニックのブランド力・業績向上へとつなげられる。
◆ おわりに
- 第1回:「クリニックの人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「クリニックの人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:「クリニックに特化!医療事務に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第4回:「クリニックに特化!看護師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第5回:「クリニックに特化!技師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第6回:「クリニックに特化!療法士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第7回:「クリニックに特化!医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」
- 第8回:「クリニックに特化!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣」

リハビリを担う療法士は、クリニックの医療サービスを差別化し、患者さんの健康とQOL(生活の質)向上を支える重要な職種です。その一方で、患者一人ひとりの状況やリハビリプログラムが大きく異なるため、評価制度の設計が難しいと感じる経営者・人事担当者は少なくありません。しかし、本コラムで紹介したように、定量評価と定性評価を組み合わせ、プロセス評価の視点を加えることで、療法士の専門性と努力をしっかりと見極め、組織としての成長を促す仕組みを構築できます。
療法士がやりがいを持って働ける環境が整えば、患者さんの満足度はさらに向上し、口コミやリピーター増加といった経営メリットも得られるはずです。今後も多職種連携が重視される医療現場において、クリニックならではの小回りの利く評価制度を活かし、療法士とともに高品質なリハビリテーションを提供していきましょう。
次回以降のコラムでも、クリニックの人事評価制度やマネジメントに関する有益な情報をお届けしてまいります。ぜひ引き続きご覧いただき、実際の運用にお役立てください。