製造現場の最前線で働く製造職の評価は、離職率や生産効率に大きな影響を与えるといわれています。組立や検査など定型作業が多い一方で、品質意識やチームワーク、改善提案など数値化しにくい部分が多く、評価に悩む企業も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、製造職向けの人事評価制度を構築するためのポイントを徹底解説。定量面(生産数・不良率など)だけでなく、協調性や責任感、安全意識などの定性要素も視野に入れた評価設計の方法をお伝えします。実際の事例も交え、現場スタッフのモチベーションアップと品質改善を同時に実現する秘訣に迫ります。
1. はじめに

- 第1回:「製造業の人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「製造業の人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:製造業に特化!品質管理職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第4回:製造業に特化!生産管理職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第5回:製造業に特化!機械工に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第6回:製造業に特化!製造職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第7回:製造業に特化!営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第8回:製造業に特化!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣
本コラムの目的と背景
製造業においては、「営業職」「品質管理職」「生産管理職」「機械工」など多岐にわたる職種が存在し、どの職種にも共通するテーマとして「人事評価制度」があります。これまでの連載では、製造業特有の評価制度設計と運用の要点を解説し、各職種ならではの難しさや成功事例をご紹介してきました。本コラムの第6回では、いよいよ多くの企業において“ものづくりの最前線”を担う「製造職」に焦点を当て、評価制度のポイントと事例を取り上げます。
製造職は、生産ラインで直接製品を組み立てたり、検査したり、梱包・出荷などを行う場合もあれば、特定工程のオペレーションや設備操作を専門とするケースもあります。いずれにせよ、製造現場の品質と生産効率を左右する重要な役割でありながら、評価指標が不明瞭であったり、属人的な評価にとどまっていたりする企業も少なくありません。そこで本コラムでは、製造職の評価における難しさやその対策、制度設計のポイントを具体的に解説します。
製造職を取り巻く課題と重要性
製造職が高いモチベーションで働き、適切なスキルアップを図るためには、公正かつ納得感のある人事評価制度が欠かせません。評価を通じて自身の業務を振り返り、将来のキャリアを考える場を提供することで、製造現場全体のパフォーマンス向上を目指せます。
- 離職率の高さと人材不足
製造職は、単調な作業や肉体的な負担が大きいというイメージを持たれがちで、近年では若手を中心に敬遠されやすい職種となっています。さらに、人材不足の中で採用難が続く現場も多く、モチベーションの維持や離職防止が経営課題となるケースが少なくありません。 - 製品品質と生産性の要
製造職は、実際に製品を作り上げる当事者でもあるため、そのスキルや意識次第で不良率の増減や納期の達成度が大きく変わることがあります。正確かつ効率の良い作業を続けるためには、明確な評価基準と適切なフィードバックが必要です。 - 熟練度の差が顕著
同じ作業でも、ベテランと新人では作業スピードや品質に大きな差が生じがちで、教育・育成が追いつかないと現場全体の生産性が低下する恐れがあります。評価制度を通じて育成方針を明確化し、技能継承をスムーズに行うことが大切です。
製造業における「製造職」への人事評価制度の導入状況
- 製造職の評価が後回しにされやすい理由
営業であれば売上高や粗利額、品質管理なら不良率やクレーム件数など、比較的数値化しやすい指標がありますが、製造職は多くの場合「一定の作業を繰り返す現場」という認識が強く、客観的指標の設定が難しいと感じられる傾向にあります。そのため、主観的な評価や年功序列が残りやすく、若手の不満やモチベーション低下につながるケースも少なくありません。 - 経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 多様な工程や作業内容があり、職場によって同じ「製造職」でも求められるスキルが全く違う。
- 単純作業の反復と見なされがちで、「どこをどう評価すればいいか分からない」という声が挙がる。
- ベテラン社員が「暗黙知」で仕事をこなし、新人への指導がOJTに頼りきりになっているため、個人差が大きい。
こうした理由から、製造職に特化した評価制度が整備されていない企業も少なくありません。しかし、ここをしっかりと改善し、公平な評価と適切な育成を行うことで、現場の生産性向上と人材定着を同時に実現できます。
2. 製造職の評価が難しい理由とその対策
製造職の人事評価が難しい3つの事情
- 「目に見えづらい」成果
営業職であれば売上など数値目標をはっきり設定できますが、製造職の場合、問題なくラインが稼働することが“当たり前”となりやすく、大きなトラブルがなければ成果が見えにくいというジレンマがあります。結果として、頑張っていても「評価されにくい」という不満を抱える社員が増加しやすいのです。 - 工程ごとの評価基準の違い
製造ラインや工程によって、作業内容や求められる技術レベルが大きく異なるため、一律の指標で評価するのは難しいという課題があります。たとえば、組み立て工程と検査工程では、スピードと正確さの比重が異なりますし、部品の種類によっても難易度が変わります。 - 属人的な技能とチームワーク要素
特定のベテラン社員が多種多様なトラブルを乗り越えている場合、その技能やノウハウが可視化されないまま他の社員に共有されないケースがあります。一方で、製造現場はチームワークが欠かせない環境でもあり、「個人評価」と「組織評価」をどの程度バランスよく設定するかが難題となります。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 定量評価と定性評価の両立
- 生産数や歩留まり(不良率)、作業スピードといった定量指標を明確化しつつ、トラブルへの対処能力や改善提案数、チームへの貢献など定性面も合わせて評価する。
- 職種や工程ごとの特性を踏まえた評価表を作成し、公平性を担保するために定期的なレビューを実施する。
- 工程の“見える化”と作業標準の整備
- 各工程での作業手順や作業時間、不良率、検査基準などをドキュメント化して共有し、誰がどのように作業しているかを見える化する。
- 作業標準が明確になることで、属人的な技能が減り、個々の成果や改善度合いを比較しやすくなる。
- 評価者の教育とマルチ評価の導入
- 製造現場の知識が乏しい人事担当だけで評価を行うと、正確な評価が難しくなる。工場長やラインリーダーなどの実務者が評価の一部を担い、人事部門と連携して多角的な評価を行う仕組みが望ましい。
- また、評価者自身が製造職の現場を理解していなければ、表面的な数値だけで判断するリスクがあるため、評価者研修や現場見学の機会を増やす工夫も必要。

3. 製造職向けの人事評価制度設計ポイント
ここからは、製造職に特化した評価制度の設計において、どのようなポイントを押さえるべきかを詳しく見ていきます。定量評価と定性評価のバランスを取ることはもちろん、評価結果の活用方法が制度の効果を大きく左右します。
定量評価の主要ポイント3選
- 生産数・稼働率・不良率
- 個人またはチーム単位で、「目標生産数」「実績」「不良率」を集計し、達成度を評価基準とする。
- ただし、設備トラブルや材料供給の遅れなど、当人の責任ではない要因で計画が崩れる場合もあるため、評価の際は要因分析を行い、必要に応じて考慮することが大切。
- 作業時間の遵守・短縮度
- 工程ごとの標準作業時間と実際の作業時間のギャップを指標として活用。短縮できている社員は効率化への努力を評価し、逆に長引く場合は原因を探り改善に繋げる。
- 安全性や品質を犠牲にしてスピードを上げていないかのチェックも併せて実施する必要がある。
- 改善提案数・採用件数
- 製造職ならではの視点で改善提案がどれだけ行われたか、実際に採用されて効果を上げた件数をモニターする。
- 改善が定着し、不良率低減やコスト削減に繋がった場合には高く評価するなど、数値化しやすい形に落とし込むと良い。
定性評価の主要ポイント3選
- 品質意識・丁寧さ
- 製造職は製品の最終的な品質を左右するため、「単に生産数をこなす」のではなく、ミスを防ぎ高品質を維持する意識を持てているかが重要。
- 製品検査や自己チェックをどの程度丁寧に行っているか、ラインリーダーや品質管理部門からのフィードバックを含めて評価する。
- 安全管理・職場環境の整備
- 製造現場では、安全意識が欠けると重大事故に繋がるリスクがあります。危険予知(KY)活動への参加度合いや、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の徹底状況を定性評価の対象とする。
- チーム全体の安全意識を高める働きかけや声掛けができている社員はプラス評価とし、リーダーシップを育成する材料にする。
- チームワーク・後輩指導能力
- 製造ラインは複数のメンバーが協力し合うことで成り立っており、周囲とのコミュニケーションや後輩への指導が大きな鍵を握ります。
- ベテラン社員が若手をサポートする姿勢や、トラブル時の協力体制など、チーム貢献度を明文化した評価軸として設定する。
評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
- 製造職の社員が将来的に「班長→リーダー→ライン長」とキャリアアップしていく道を明示し、評価制度の結果を根拠に昇格・昇給を検討する。
- 社員には「何をできるようになれば次のステップに進めるのか」を具体的に示し、キャリアの見通しを立てやすくする。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
- 製造職に関連する資格(フォークリフト運転技能講習、はんだ付け検定、溶接関連資格など)を取得することで、業務の幅が広がるケースも多い。評価を通じて社員の適性や興味を把握し、適切な資格取得を促す制度を導入すると効果的。
- スキルマップを作成し、誰がどの工程や機器の操作に強みを持っているかを可視化することで、人材配置やジョブローテーションの検討材料とする。
4. 製造職向け 人事評価制度の活用事例
ここでは、実際に製造職を対象とした人事評価制度を導入し、成果を上げている企業の事例をご紹介します。導入背景や運用方法を参考に、自社の課題と照らし合わせながら取り入れられる部分を検討してみてください。
事例1
導入背景
A社は自動車部品の製造を手がけており、従業員数は約400名。従来は年功序列型の給与体系が残っていたこともあり、若手がモチベーションを失いがちで、離職率の高さが課題となっていました。また、ベテラン社員の技能が属人的で、工程標準が明文化されていないため、品質トラブルや手戻りが増えるリスクも抱えていました。
導入内容
- 工程標準の再整備と定量・定性指標の設定
- 主要な製造工程について、作業手順と品質チェックポイントをドキュメント化し、全員に周知。
- 生産数や不良率、標準作業時間の遵守率を軸にした定量評価と、品質への意識やチーム貢献度を軸にした定性評価を組み合わせた評価表を作成。
- 改善提案制度との連動
- 製造職であっても積極的な改善提案を行った社員にはポイントを付与し、評価・昇給に反映。
- 提案が採用された際には、全社的に成果を共有し、改善アイデアを広める取り組みを推進。
導入後の効果
- 若手社員が具体的な目標を持って日々の業務に取り組むようになり、離職率が低下。
- ベテラン社員も「自分が持っている技能を伝えて組織全体を伸ばす」という意識を高め、技能継承が進んだ。
- 不良率やクレーム件数が減少し、製品の品質安定とコスト削減に寄与。
事例2
導入背景
B社は食品加工を行う企業で、パート・アルバイトを含めると製造現場に500名以上が従事していました。しかし、正社員・パートを問わず、作業品質と安全管理に対する意識がまちまちで、現場が混乱するケースが多かったのです。また、繁忙期と閑散期の差が大きく、定着率が悪化傾向にありました。
導入内容
- 多様な雇用形態に対応した評価表の作成
- 正社員、パート・アルバイトそれぞれに応じた評価項目を設け、共通の定量指標(作業スピード、不良率など)と定性指標(衛生意識、安全意識など)の両輪で評価。
- パート・アルバイトにも、「能力に応じて時給や役割が変わる」という仕組みを周知。
- キャリアアップ支援と管理職育成
- 評価結果が優秀な社員には、ラインリーダーや現場管理職への昇格が可能となるプログラムを導入。
- 評価面談で本人の意思を確認し、管理職候補としての教育を充実させることで、組織全体のリーダーシップレベルを強化。
導入後の効果
- パート・アルバイトでも「評価される指標」が明確になったことで、モチベーションが向上し、定着率が改善。
- 正社員はリーダー候補として必要なスキル(後輩指導、品質管理、シフト管理など)を明確に学べるようになり、組織内でのキャリアパスを描きやすくなった。
- 結果的に、ラインの稼働効率が上がり、食品ロスやクレームも減少。業務全体が安定稼働するように。
5. まとめ

本コラムのポイント
- 製造職特有の評価項目の設定
- 単なる生産数や不良率の定量評価だけでなく、品質意識やチームワークなど定性面も加味して、公平かつ納得できる評価表を作成する。
- 工程ごとに作業特性が異なるため、職務・工程ごとに指標を微調整し、複数の評価者を設定することで客観性を高める。
制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
- 製造ラインや扱う製品が変化したり、自動化の進展で業務内容が変わったりする場合があるため、定期的に指標や評価項目をアップデートする。
- 現場からのフィードバックを吸い上げ、継続的にブラッシュアップを行うことで、評価制度への信頼を築く。
- キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
- 製造職の社員が将来どのような役割を担えるか(班長、組立リーダー、品質管理部門へのスライドなど)、明確なキャリアルートを提示してスキルアップを促す。
- 評価結果を元に、適性に応じた研修やOJT、資格取得支援を行い、長期的な視点で人材を育成する。
- 製造職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
- 製造現場は企業の“ものづくり”を直接担う心臓部。現場社員が十分に力を発揮できる環境を整えれば、品質向上とコスト削減を同時に実現し、ひいては企業の業績アップにつながる。
- また、公平で透明性のある評価制度を運用することで、社員のモチベーションと定着率が高まり、安定的な生産体制を築き上げることができる。
製造職は、企業が生み出す製品の品質・安全・コストに直接影響を与える重要な役割です。その力を最大限に引き出し、かつ社員自身も納得感をもって働ける環境を整えるためには、客観的かつ総合的な人事評価制度が欠かせません。本コラムで解説した方法や事例を参考に、自社の実情に合った評価制度づくりを進めてみてください。

評価制度を軸に、社内の工程可視化や技能継承、チームワーク向上を同時に推進することで、現場で働く一人ひとりが「自分のやっている仕事には価値があり、正しく評価される」という確信を得られます。その結果、企業全体の生産性と収益性が高まり、競争力が強化される好循環が生まれることでしょう。
以上で、第6回「製造業に特化!製造職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」を締めくくります。前回までの連載コラムもあわせてご活用いただき、貴社に最適な人事評価制度の構築にお役立てください。次回以降も、製造業における人事制度や人材マネジメントに役立つ情報をお届けしてまいりますので、どうぞお楽しみに。社員と企業がともに成長できる評価制度を目指して、ぜひ取り組みを進めていただければ幸いです。
- 第1回:「製造業の人事評価制度を徹底解説|成功する評価基準と運用ポイント」
- 第2回:「製造業の人事評価制度を徹底解説|人事評価制度を導入するメリット、デメリット」
- 第3回:製造業に特化!品質管理職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第4回:製造業に特化!生産管理職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第5回:製造業に特化!機械工に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第6回:製造業に特化!製造職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第7回:製造業に特化!営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 第8回:製造業に特化!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣