歯科クリニックに特化!歯科医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

第7回:歯科クリニックに特化!歯科医師に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

歯科クリニック運営の要である歯科医師。治療技術や診断力はもちろん、スタッフのマネジメントや患者とのコミュニケーションまで、多岐にわたる役割を背負っています。ただ、院長と勤務医が混在する現場では「どのように評価をすればいいのか」「売上以外の面をどう数値化するか」など、悩みも多いのではないでしょうか? 

本コラムでは、歯科医師特有の評価項目を整理し、定量指標(新患数、売上など)と定性指標(コミュニケーション力、チームワーク、専門性)をバランス良く組み込む制度設計をわかりやすく紹介します。さらに、評価制度を通じて若手医師の成長を促し、院内全体の雰囲気を向上させた成功事例も掲載。スタッフの離職を抑え、医院の業績向上につなげるための実践的なヒントが満載です。

歯科医師の評価でお悩みの経営者・人事担当者の皆さまは、ぜひご覧ください!

目次

1. はじめに

本コラムの目的と背景

歯科クリニックの運営において、人事評価制度はスタッフの成長や定着、そして組織全体の業績向上を支える重要な仕組みです。これまでの連載コラムでは、歯科助手や歯科衛生士、受付事務、歯科技工士など、多職種が混在する歯科医院ならではの評価制度の在り方を解説してきました。しかし、肝心の「歯科医師」に対する評価制度が十分に整っていないクリニックも実は多いのではないでしょうか。

歯科医師は、歯科医療の中心的役割を担うだけでなく、クリニックの経営やマネジメントを担うケースも少なくありません。特に複数の歯科医師を雇用している医院では、スタッフの一員としての立場に加え、経営上の責任を持つ“プレイングマネージャー”的な立場で働く歯科医師もいるため、評価が複雑になりがちです。

本コラムでは、まずは歯科医師を取り巻く課題やその評価の難しさを整理した上で、歯科医師向けの人事評価制度をどのように設計・運用すればいいのか、具体的なポイントと事例をご紹介します。「他の職種の評価制度は整えたが、歯科医師は院長の裁量で決まっている」「新しく勤務医を増やす予定だが、公平な評価の仕組みがない」という方は、ぜひ参考にしてみてください。

歯科医師を取り巻く課題と重要性

日本の歯科医院は多くの地域で飽和状態になりつつあり、生き残りをかけた差別化や専門性向上が叫ばれています。その中心的役割を果たす歯科医師が十分に能力を発揮できるかどうかは、クリニックの生産性、患者満足度、スタッフのモチベーションに大きく影響します。

  • 質の高い治療
    患者さんが歯科医院を選ぶ際、「どのような治療が受けられるか」「最新の医療技術に対応しているか」などが重要視されます。歯科医師の知識・技術レベルが高いほど、専門的な治療や症例にも対応できるため、医院の評判やリピート率が向上します。
  • スタッフマネジメント
    複数歯科医師体制の医院では、歯科医師同士が互いに情報共有を行い、また歯科衛生士や歯科助手との連携を密にする必要があります。歯科医師自身がスタッフを教育したり、患者対応の方針を示したりするケースも多く、組織全体の指揮官的な役割を担うこともあります。

歯科クリニックにおける「歯科医師」への人事評価制度の導入状況

歯科医師の評価が後回しにされやすい理由

  1. 「院長=経営者」であるケースが多い
    小規模医院では院長自身が経営者、または実質的なトップであるため、評価制度を作る際に自分(院長)の仕事ぶりを客観的に査定する仕組みが整わないケースが見受けられます。
  2. 勤務医に対しては収益貢献度のみで判断されがち
    複数の歯科医師を抱える医院では、勤務医の売上や自費診療獲得など数値的な面だけで評価してしまう傾向があります。コミュニケーション力や患者対応などの定性面が見落とされ、結果として勤務医が不満を抱え、離職するリスクが高まります。

経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ

  • 高度な医療技術をどの程度数値化できるのか
    歯科医師の治療技術や診断力は、専門的な知識がないと評価しづらい部分があります。また、結果が患者さんの口腔内に表れるまでに時間がかかることもあり、すぐに数値化するのが難しいです。
  • マネジメント要素との両立
    特に院長や経営幹部クラスの歯科医師には、診療だけでなくクリニック全体の経営、スタッフ管理、マーケティングなど幅広いスキルが求められます。これらを総合的にどう評価に組み込むかは大きな課題です。

次章では、歯科医師の評価が難しい背景を3つの主要な事情に分けて深掘りし、それらを解決するための基本的なアプローチを提示します。


2. 歯科医師の評価が難しい理由とその対策

歯科医師の人事評価が難しい3つの事情

  1. 専門性・技術力の高さと習熟度の差
    歯科医師は国家資格を持ち、大学院や研修医期間を経て臨床に入りますが、得意分野や研修内容によって大きくスキルが異なります。同じクリニックに複数の歯科医師が在籍する場合、それぞれの専門領域(インプラント、矯正、審美など)やキャリア段階によって評価基準を変える必要があり、制度設計が複雑になりがちです。
  2. 売上だけでは測れない患者満足度・リピート率
    歯科医師の仕事は、必ずしもすぐに収益に直結するわけではありません。定期検診や予防診療を重視する医院では、患者との長期的な関係づくりが重要で、売上などの短期指標では測れない医療の質が評価ポイントとなります。
  3. 経営・マネジメントスキルの評価が曖昧
    院長クラスの歯科医師には、スタッフの教育・マネジメントや新規患者の獲得戦略など、経営者としての能力が求められます。しかし、これらを数値化する基準が明確でないと、結果的に「勘と経験」で評価する形になり、不公平感が生じやすくなります。

課題を解決するための3つの基本アプローチ

  1. 職務範囲と期待役割の明確化
    歯科医師としての臨床技術だけでなく、どの専門領域を担当するのかスタッフ指導やチームマネジメントはどの程度関与するのかなど、役割分担を可視化しておくことが大切です。
  2. 定量指標と定性指標をバランスよく組み合わせる
    売上や自費診療数、患者数などの定量評価だけでなく、患者満足度やスタッフからのフィードバック、チームワークやリーダーシップなどの定性評価を並行して行うことで、歯科医師の真の実力や貢献度を公平に捉えられます。
  3. キャリアステージに応じた評価軸の設定
    新人歯科医師、勤務医、院長候補、経営幹部など、キャリアステージにより求められるスキルや役割は異なります。ステージごとに評価項目を細分化し、成長プロセスを段階的に把握できる仕組みを作ることが望ましいです。

次の第3章では、これらの基本方針を踏まえ、歯科医師向けの人事評価制度をどのように設計すべきか、具体的な評価ポイントと活用方法を解説します。


3. 歯科医師向けの人事評価制度設計ポイント

歯科医師の評価制度を構築するうえでは、定量評価定性評価を組み合わせ、その上で評価結果を給与・賞与だけではなくキャリアパススキルアップ支援に活かすことが重要です。

定量評価の主要ポイント3選

1.診療売上・自費診療獲得数

  • 勤務医の場合、保険診療・自費診療の売上や担当患者数は比較的把握しやすい数値指標です。ただし、「売上主義」になりすぎると患者満足度や医療の質がおろそかになるリスクがあるため、あくまで一つの目安として位置づけましょう。

2.新患獲得数・リピート率

  • 広告や口コミで来院した患者さんをどの程度定着させられているか、リコール率や継続通院率などを追うことで、「患者さんとの信頼関係づくり」や「説明力」を測る一助となります。

3.診療効率(1日あたりの平均診療数、キャンセル率など)

  • タイムマネジメントやアポイント管理が適切にできているかを定量評価する際に活用できます。キャンセルや予約変更が多い場合、説明不足やコミュニケーションの問題があるかもしれません。

定性評価の主要ポイント3選

1.診断力・治療技術の総合評価

  • 特に専門性が高い分野(インプラント、矯正、口腔外科など)を担当する歯科医師については、院長やベテラン医師、場合によっては学会や研修会の評価・認定などの外部指標を参考にしながら、臨床スキルを総合的にチェックします。

2.コミュニケーション力・患者満足度

  • 患者さんのアンケートや口コミ、スタッフからのフィードバックなどを活用し、「分かりやすい説明ができているか」「患者さんの不安を上手に和らげられているか」などを評価します。医療従事者としてのモラルや対応も含めて見極めることが大切です。

3.リーダーシップ・マネジメント能力

  • 複数の歯科医師やスタッフをまとめたり、医院の運営方針を決定する立場にある場合、スタッフ教育やチームビルディングへの貢献度を評価項目に組み込みます。院長・副院長クラスであれば、経営的視点も含めたマネジメント能力を重視しましょう。

評価結果の活用方法

昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす

  • 例:歯科医師のキャリアステージ
  1. 新人歯科医師(基礎臨床力の習得)
  2. 中堅歯科医師(専門領域の確立、患者管理の質向上)
  3. クリニックリーダー(スタッフ指導、医院運営への参画)
  4. 院長・経営幹部(戦略立案、人事・財務管理など全体マネジメント)

このように、段階的なキャリアパスを設定し、評価結果によって「次のステージに進むためにどのスキルを強化すればよいか」を明確に示すと、歯科医師自身が目標を持ちやすくなります。

スキルマップや資格取得支援制度との連動

  • スキルマップの作成
    インプラント・矯正・審美・小児など、専門領域ごとに必要な知識・技術を一覧化し、どこまで習得しているかを可視化します。これを評価面談の際に活用し、学習計画を立てると効率的です。
  • 学会・セミナー参加支援
    歯科医師にとって、研修や学会発表は技術向上と人脈づくりの大切な機会です。評価結果と連動して、セミナー参加費の補助や学会発表支援などを行うと、歯科医師のモチベーションを高め、医院全体のスキルアップにもつながります。

次の第4章では、実際に歯科医師向けの評価制度を導入して成功した事例を2つご紹介します。どのような背景があり、どのように設計・運用したのかを学ぶことで、自院での導入や改善に役立ててください。


4. 歯科医師向け 人事評価制度の活用事例

事例1

導入背景

都市部で複数院を展開するA歯科グループでは、勤務医が増えるにつれ、「誰がどのように評価されているのか分からない」「売上以外の貢献度が評価されない」という不満が蓄積していました。特に若手歯科医師は、まだ技術習得の途上で、売上だけでは評価が低くなりがちだったため、早期離職のリスクが高まっていたのです。

導入内容

1.役割分担とキャリアパスを明確化

  • 「一般歯科」「小児歯科」「矯正」「口腔外科」など、各専門領域を担当する歯科医師の役割を整理。また、「新人 → 中堅 → リーダー → 院長候補」といったキャリアパスを院全体で共有し、評価基準を各ステージに合わせて策定した。

2.定量評価×定性評価シートの開発

  • 定量評価:月ごとの売上、患者数、新患数、自費診療比率など
  • 定性評価:患者満足度アンケート、スタッフ評価(コミュニケーション・指導力など)、自己評価(学習・研修参加状況)

3.半年に1回の面談で次のステップの目標設定

  • 院長と本人による面談を実施し、評価シートの結果を踏まえて次期の目標や研修計画を決定。若手歯科医師には院内OJTのメンターを付け、チームでの育成を強化。

成果

  • 若手歯科医師は売上だけではなく「目標設定に基づく成長過程」が評価されるようになり、離職率が低下。院内コミュニケーションが活発化し、自費診療の比率も少しずつ向上した。
  • チーフクラスの歯科医師は、スタッフ教育や医院運営への貢献度が評価される仕組みができたことで、モチベーションが向上。各院で自主的に勉強会を開催するなどのプラス効果も生まれた。

事例2

導入背景

地方都市のB歯科医院では、院長1名、勤務医2名の体制で診療を行っていた。院長は普段の診療に追われ、勤務医の成長状況やマネジメントスキルを把握しきれないまま、なんとなく昇給を決めてしまう状態が続いていた。勤務医からは「何を基準に昇給しているのか分からない」という声が上がり、評価制度の整備が急務となった。

導入内容

1.院長・勤務医で評価項目を協議

  • 売上以外にも「専門領域の深耕(インプラント研修の参加回数など)」「患者満足度」「地域の学校や福祉施設への啓発活動」などを評価項目に追加し、勤務医からも積極的に意見を取り入れた。

2.月イチのショート面談 + 年2回の正式面談

  • 院長と勤務医が月に一度、短時間でも業務報告や学習状況のシェアを行い、問題があれば即座に対処。年に2回の正式な評価面談で昇給・賞与を決定する。
  • 評価シートには数値目標(患者数・売上)と定性目標(患者さんからのフィードバック、学会参加など)を半々ずつ設定し、総合的に判断する形を採用。

3.研修費補助・設備投資へのバックアップ

  • 勤務医がセミナーや学会に参加する場合、受講費や旅費の一部をクリニックが支援。さらに勤務医が新しい治療法や機器導入を提案した際には、評価結果に応じて設備投資の可否を検討する仕組みを作り、チャレンジを促した。

成果

  • 院長と勤務医が定期的にコミュニケーションを取ることで、お互いの目指す方向性や成長度合いを共有しやすくなった。勤務医は「いつでも相談できる体制がある」と安心してチャレンジでき、医院全体の雰囲気が向上。
  • 新しい技術導入の提案や患者満足度調査の結果を踏まえた改善アイデアが多く出るようになり、地元で「先進的な歯科医院」としての評判を得るきっかけになった。

5. まとめ

本コラムのポイント

  1. 歯科医師特有の評価項目の設定
    • 売上や新患数、リピート率などの定量指標
    • 専門領域の治療技術、患者コミュニケーション、スタッフマネジメントなどの定性指標
      この両面をバランスよく取り入れ、各歯科医師のキャリアステージに応じて評価基準を細分化することが大切です。
  1. 制度導入・運用における今後のステップ
  2. 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
    • クリニックの診療内容や方針が変われば、歯科医師に求める役割も変化します。定期的に評価項目を見直し、実情に合わせてアップデートすることが重要です。
  3. キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
    • 新人歯科医師から院長候補まで、段階的なキャリアステージを設定し、評価結果をベースに研修計画や昇格を検討する仕組みを作りましょう。スタッフ全体のやる気と組織力向上に寄与します。
  4. 歯科医師特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
    • 歯科医師の専門技術やマネジメント力が高まれば、医院の治療の質が向上し、患者満足度とリピート率のアップが期待できます。結果として、経営面でも安定した成長が望めるでしょう。

歯科医師は歯科医療の中核を担う存在ですが、評価制度が整っていない医院では、どうしても売上や収益指標だけに偏った評価になりがちです。定量・定性の両側面をしっかりと押さえた評価制度を運用し、キャリアパスやスキルアップの道筋を明確化することで、歯科医師のモチベーションと能力を最大限に引き出すことができます。

これらの取り組みは、組織全体の結束力向上やスタッフの定着率改善、そして患者さんの満足度向上にも直結します。今回のコラムを参考に、自院の実態に合った歯科医師向け人事評価制度を構築し、次世代の歯科クリニック経営をさらに発展させてください。スタッフ全体が協力し合いながら、患者さんに最良の歯科医療を提供できる環境づくりこそが、これからの医院経営における大きな差別化要因となるでしょう。

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