- 社労士事務所に特化 |【第1回】成功する評価基準と運用ポイント
- 社労士事務所に特化 |【第2回】人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 社労士事務所に特化 |【第3回】手続き申請職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第4回】給与計算職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第5回】労務コンサルタント職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第6回】営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介を選択
- 社労士事務所に特化 |【第7回】専門職(助成金、事務組合事務)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第8回】効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣

1. はじめに
本コラムの目的と背景
これまでの連載コラムでは、社労士事務所特有の人事評価制度の重要性や、そのメリット・デメリットについて取り上げてきました。第1回では「評価基準の考え方と運用ポイント」、第2回では「人事評価制度導入のメリット・デメリット」を中心に解説し、社労士事務所が評価制度を整えることで得られる成果と注意点を整理しました。
今回、第3回のコラムでは「手続き申請職」にスポットを当てます。社労士事務所の主力業務の一つである、社会保険・労働保険の手続き申請を担うスタッフは、法律や制度の変化に迅速に対応し、正確かつ効率的に処理することが求められます。しかしながら、評価制度を導入する過程で、**“手続き申請職の評価が難しい”**と感じる経営者や人事担当者は少なくありません。
手続き申請職を取り巻く課題と重要性
手続き申請職は、正確性・迅速性が求められるだけでなく、法改正や運用のアップデートを常に追いかけ続ける必要があります。顧問先企業にとっては、社労士事務所の手続き業務がスムーズかどうかが信頼度や満足度に直結するため、実は非常に責任が重いポジションなのです。
しかし、この手続き申請職に対しては、「成果が定量化しづらい」「ミスの少なさ以外、評価材料が見えにくい」などの理由で、評価基準の策定が後回しにされることがあります。その結果、手続き申請のスタッフは「頑張っても評価されない」と感じやすく、モチベーションの低下や離職リスクにつながる懸念があります。
社労士事務所における「手続き申請職」への人事評価制度の導入状況
手続き申請職の評価が後回しにされやすい理由
- 日常業務が細かく、スケジュール管理も複雑
常に多くの書類を扱い、複数の企業・行政機関とやり取りする手続き申請職は、定量的な“成果指標”をつかみにくいと感じられがちです。 - 法改正・制度改変の影響を受けやすい
その時々の法改正や行政手続きの変更に応じて柔軟に業務プロセスを変えていかなければならないため、業務効率や難易度が変動しやすいのです。
経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 「どこまでをミスとカウントするか」
単純な誤字脱字なのか、顧問先企業に損害を与えかねない重大ミスなのか、その線引きが曖昧になりがちです。 - 「対応件数だけで評価していいのか」
件数が多い人は確かに業務に追われる一方、件数が少なくても難易度が高い案件をこなしている可能性もあります。そこをどう評価に反映させるかが課題となります。

2. 手続き申請職の評価が難しい理由とその対策
手続き申請職の人事評価が難しい3つの事情
- 細分化されたタスクの集合体であること
例えば、健康保険の加入・脱退手続き、雇用保険の取得・喪失手続き、各種給付金の申請など、仕事内容は多岐にわたります。一つひとつのタスクが小さいため、「成果」をまとめて把握するのが難しいのが実情です。 - 繁忙期の波が激しい
年度末の更新手続きや算定基礎届の時期など、一定の時期に業務が集中しやすいのが社労士事務所の特徴です。閑散期と繁忙期では作業負荷がまったく異なり、その偏りを加味せずに評価すると不公平感が生まれかねません。 - 対外調整力・コミュニケーション力が見えづらい
行政機関への問い合わせや顧問先との連絡などが多く、コミュニケーション力が問われる場面が少なくありません。しかし、そこは定性的要素が強いため、**「どのように評価するか」**が明確になっていないと見落とされがちです。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 業務プロセスを明確化し、評価指標を細分化する
手続き申請職の仕事を大まかな「書類作成」「期限管理」「問い合わせ対応」などに分類し、それぞれで何が成果指標となるかを定義します。細分化することで、目標設定やフィードバックが具体的になりやすくなります。 - 繁忙期・閑散期それぞれの目標を設定する
業務量の変動を考慮し、繁忙期・閑散期ごとに評価期間をずらしたり、重点評価項目を変えたりすることで、公平性や納得感を高めます。「繁忙期は作業スピードや正確性を重視し、閑散期は書式整備や業務改善アイデアを評価する」など、メリハリをつけるとよいでしょう。 - コミュニケーションや法改正対応力を定性評価に組み込む
手続き申請職でも、“対人折衝”や“新しい制度へのキャッチアップ”は重要な要素です。こうした面が埋もれてしまわないよう、定性評価でしっかり可視化することが必要です。
3. 手続き申請職向けの人事評価制度設計ポイント
ここでは、手続き申請職の評価を設計する上で押さえておきたいポイントを、「定量評価の主要ポイント」「定性評価の主要ポイント」「評価結果の活用方法」の3つに分けて紹介します。
3-1. 定量評価の主要ポイント3選
- ミス率(エラー発生件数)と是正対応のスピード
- 手続き書類の誤記載や提出遅延などは、事務所の信頼に直結するため重要視されます。ただし、単なる“ミス件数”だけを追うのではなく、どれくらい迅速・正確にリカバリーしたかも合わせて評価すべきです。
- 例:「月間書類ミス率を2%以下に抑える」「ミス発生時は◯日以内に所内・顧問先へ報告し、再提出まで完了させる」など、具体的な目標を設定します。
- 対応件数・処理スピード
- どれだけ多くの案件をこなし、期限内に終わらせたかを定量化します。タスク管理ツールやエクセルなどで案件数を集計し、処理完了までの平均日数を測る方法が一般的です。
- ただし、案件の難易度に差がある場合は、一律に件数だけで比較するのではなく、**「難易度係数」や「顧問先の満足度」**と合わせて評価すると公平感が増します。
- 納期遵守率・提出期限遅延の有無
- 社労士事務所の場合、行政手続きを期限までに完了しないと顧問先にデメリットが発生することがあります。そのため、**「期限厳守」**は重要な評価指標です。
- 書類の提出遅延があった場合、その理由が事務所側にあったのか、顧問先からの書類提出が遅れたのかなど、背景を確認する運用ルールを作ると、スタッフを一方的に責めるだけにならず、組織的課題を特定できるでしょう。
3-2. 定性評価の主要ポイント3選
- 法改正や新制度への対応スキル
- 社労士事務所では常に新しい法律や助成金制度の情報をキャッチアップし、業務フローをアップデートする必要があります。
- 「改正内容をどの程度理解し、所内に共有できたか」「顧問先に的確なアドバイスを行えたか」など、専門性を活かした行動を評価します。
- コミュニケーション力(顧問先・行政機関・所内)
- 手続き申請においては、クライアントからのヒアリングや書類の不備確認など、対人折衝能力が求められます。メール・電話・対面など、複数のチャネルを使い分けるスキルも大切です。
- 具体的には、顧問先からの問い合わせに対する対応速度や、分かりやすい説明ができているかといった面を観察・ヒアリングし、定性的評価項目として設定します。
- 業務改善意識・主体性
- ルーチンワークが多い手続き申請職だからこそ、**「作業効率を高める方法を提案できるか」**や「ミス防止策を事務所全体に共有するなど、主体的に動けるか」が鍵となります。
- たとえば、複数の書式をまとめた“チェックリスト”を作成したり、クラウドツールの導入を提案したりといった行動を積極的に評価に組み込みます。
3-3. 評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
- 評価結果を基にした能力開発
手続き申請職の評価結果は、単に「賞与アップ」や「昇給額」の根拠になるだけでなく、スタッフの能力開発やキャリア形成の指針として機能します。
たとえば、「処理スピードは高いが法改正対応の理解度が不足している」と判明した場合には、法改正セミナーや専門誌購読を推奨するなど、具体的なアクションプランを立てられます。 - 社内異動や職域拡大の機会創出
評価制度を通じて、手続き申請職として優れたスタッフが給与計算やコンサルティング部門に挑戦する道を示すことも、事務所全体の人材活用を最適化するうえで重要です。評価結果から「コミュニケーション力が高い」「助成金知識に強い」などの強みが見えれば、キャリアパスを広げる機会を与えられます。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
- スキルマップの作成・更新
「保険手続き」「助成金」「給与計算」「労務コンサル」といった専門分野のスキルレベルを可視化し、スタッフごとの強みや弱みを整理します。定量・定性評価の結果を加味すると、スキルマップがより正確になり、異動や研修計画に活かしやすくなります。 - 資格取得支援との連動
社労士資格はもちろんですが、その他にも給与計算実務検定、年金アドバイザー資格など、手続き申請業務に関連する資格取得を事務所として支援する制度を整備し、評価に組み込む方法も有効です。資格取得者には評価加点を付与するなど、専門力強化を後押しする仕組みがあれば、スタッフの向上心を高めやすいでしょう。

4. 手続き申請職向け 人事評価制度の活用事例
最後に、実際に手続き申請職を中心とした評価制度を導入・運用し、成果を上げている事務所の事例を2つご紹介します。いずれも「手続き申請の業務特性に合わせて評価基準を細分化する」という共通点があり、スタッフのモチベーション向上や業務効率化に寄与した例と言えます。
事例1
導入背景
- 事務所規模の拡大による手続き数の急増
ある地方都市で長年経営を続けていた中規模の社労士事務所では、新規顧問先の増加に伴い、手続き業務が爆発的に増えました。しかし「対応件数の多いスタッフほど疲弊しやすい」「正確性が十分担保されているか不安」といった問題が表面化しました。 - スタッフからの不満
「件数ばかり多いとミスが増えやすいのに、それが評価で大きなマイナスになるのでは理不尽」「忙しい時期の負担が大きく、公平に評価されない」という声が上がっていたのです。
導入内容
- 繁忙期と閑散期で異なる評価項目を設定
年度末や算定基礎届が集中する時期には「処理スピード・ミス率」を優先的に評価し、閑散期には「業務改善アイデアの提案」「社内マニュアル整備」を重視する仕組みに。評価表を2パターン用意し、期間ごとに使い分ける方法を採用しました。 - チーム単位の評価も導入
一人のスタッフだけに業務が集中しないよう、チーム全体の達成度を加点対象とする制度を導入。これにより、スタッフ同士が助け合う雰囲気が生まれ、ミスの削減や業務負担の平準化につながりました。
事例2
導入背景
- 手続きスタッフのキャリアパスが不透明
首都圏で展開する社労士法人で、手続き申請職のスタッフが一定の経験を積むと「次に何を目指せばいいのか分からない」と言い始める状況に。離職やモチベーション低下が懸念されました。 - 事務所独自の評価項目が未整備
大手コンサル会社の導入した評価制度を一部流用していたため、手続き業務の実態と合わない評価軸が多く、不公平感が生じていました。
導入内容
- 定量評価と定性評価をバランスよく組み合わせる
処理件数やエラー率などの定量評価に加えて、「顧問先とのコミュニケーション」「システム活用スキル」「チーム内でのノウハウ共有活動」などを定性評価項目として追加。特に新制度の学習・共有に積極的なスタッフをしっかり評価するようにしました。 - キャリアパス制度の明確化
手続き申請職のスタッフが専門知識を磨き、給与計算チームや労務コンサルチームへ異動する道筋を示すことで、「将来的にはコンサルへのキャリアアップを目指したい」というモチベーションをサポート。実際に手続き経験を活かして、企業の労務管理全般に助言できる人材が育ち始めました。
5. まとめ
本コラムのポイント
今回のコラムでは、社労士事務所の**“手続き申請職”**に焦点を当て、評価制度を設計・運用する際の留意点や具体的事例を紹介しました。主なポイントは以下のとおりです。
- 手続き申請職特有の評価項目の設定が重要
細かい書類作業や期限厳守、法改正対応など、手続き業務ならではの特性を反映した**定量評価(ミス率・対応件数・処理スピードなど)**と、**定性評価(コミュニケーション力・業務改善意識など)**を組み合わせる必要があります。 - 繁忙期と閑散期を考慮した運用
業務量の波が激しいからこそ、評価項目や基準を時期に合わせて調整し、不公平感や不満を最低限に抑える工夫が大切です。
制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
社労士事務所の事業規模や顧問先のニーズが変われば、手続きの量や難易度、求められる専門性も変化します。定期的に評価指標をアップデートし、現場の声を反映する仕組みを整えましょう。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
手続き申請職としての専門性を高めた後に、給与計算やコンサルタント、助成金業務へのステップアップを目指せるキャリアパスを整備することで、スタッフのモチベーションや定着率を向上させられます。 - 手続き申請職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
正確性・スピードを求められる手続き申請業務は、実は社労士事務所の信頼を大きく左右する基盤です。評価制度を通じて質の高い手続きサービスを提供できれば、顧問先からの評価も高まり、事務所全体の業績アップにつながります。
以上が、第3回「社労士事務所に特化!手続き申請職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介」となります。手続き申請職は、業務特性こそルーチンワークに見えがちですが、実際には法改正対応や顧問先への配慮、コミュニケーション力が求められる重要なポジションです。評価制度の活用を通じて、スタッフ一人ひとりのモチベーションを高め、その専門性を最大限に発揮できる環境を整備してみてください。
本コラムでご紹介した事例やポイントを参考に、自事務所の実態に合わせた評価基準のカスタマイズや、キャリアパスの連動を検討することで、手続き申請業務をより高いレベルへ引き上げられるでしょう。専門性と効率性、そしてスタッフの働きやすさを同時に実現するために、ぜひ今回の内容を今後の制度設計・運用にご活用ください。

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