
- 社労士事務所に特化 |【第1回】成功する評価基準と運用ポイント
- 社労士事務所に特化 |【第2回】人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 社労士事務所に特化 |【第3回】手続き申請職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第4回】給与計算職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第5回】労務コンサルタント職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第6回】営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介を選択
- 社労士事務所に特化 |【第7回】専門職(助成金、事務組合事務)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第8回】効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣
1. はじめに
本コラムの目的と背景
これまでの連載では、社労士事務所における人事評価制度の導入メリット、職種別の設計ポイントなどを中心に解説してきました。第1回・第2回では評価制度全般の基礎とメリット・デメリット、第3回〜第5回では手続き申請職、給与計算職、労務コンサルタント職の評価ポイントを取り上げました。今回取り上げる**「営業職」**は、社労士事務所においては比較的新しいポジションといえるかもしれません。
昨今の社労士事務所は、従来の手続き代行だけではなく、労務コンサルティングや助成金活用支援など、付加価値の高いサービスを展開するケースが増えています。これにともない、「新規顧問先の獲得」「既存顧問先への追加提案」など、積極的に営業活動を行う専門スタッフが必要とされるようになってきました。
営業職を取り巻く課題と重要性
営業職の主な役割は、新規顧問先の開拓や既存顧問先とのリレーション強化を通じ、事務所の売上拡大やブランド力向上に貢献することです。特に現在は競合となる社労士事務所やコンサルティング会社が増え、サービス内容も多様化しています。こうした競争環境の中で、営業職が自事務所の強みや専門性を的確に伝え、顧客ニーズに合ったサービスを提案できるかが極めて重要です。
一方で、社労士事務所の営業職には、専門的な労働法規や社会保険制度の知識がある程度求められるため、一般的な法人営業とは異なる難しさがあります。顧問先企業の人事・労務担当者に具体的かつ有益なアドバイスを行うケースもあるため、「コミュニケーション能力+専門知識」の両方をバランスよく備えた人材が活躍しやすい職種と言えます。
社労士事務所における「営業職」への人事評価制度の導入状況
営業職の評価が後回しにされやすい理由
- 他の職種に比べて明確な評価基準が作りにくい
社労士事務所の主要業務である手続き申請や給与計算は、定量化(件数、ミス率など)が容易です。しかし、営業職の成果は「新規契約数」「売上金額」だけでは測れない部分も多く、評価項目が設定しづらいという課題があります。 - “専門職ではない”という先入観
事務所によっては、所長や社員の多くが社労士資格を持ち、営業活動は「兼務」で行っているケースもあります。こうした風土の中だと、営業に特化しているスタッフへの評価が後手になったり、一定の売上目標さえ達成していれば十分とみなされてしまうことがあります。
経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 「売上だけを評価すると短期志向にならないか」
新規契約数や売上目標達成率は分かりやすい指標ですが、短期成果を追うあまり、顧問先企業の長期的課題を聞き出す前に強引なクロージングをするなど、事務所の信頼を損なうリスクが懸念されます。 - 「専門的な労務知識の習熟度をどう測るか」
営業職であっても、最低限の社労士知識を身につけておく必要があります。これをどのように評価指標に落とし込むかが経営者・人事担当者の悩みとなります。

2. 営業職の評価が難しい理由とその対策
営業職の人事評価が難しい3つの事情
- サービス自体が複雑かつ専門的
一般的なモノ売りの営業とは違い、社労士事務所のサービスは「労務管理」「給与計算」「就業規則」「助成金」など多岐にわたり、かつ法改正や顧問先の状況によって提案が変わるため、営業プロセスを単純な数値で表しにくい側面があります。 - 長期的な関係構築が必要
顧問先契約の場合、一度の商談だけで契約が締結されることは少なく、複数回の訪問や提案が必要となるケースがほとんどです。短期的な売上だけで判断すると、契約までのプロセスが評価に反映されにくくなります。 - 個人のコミュニケーション力・人脈が成果に大きく影響
営業職の場合、スタッフ個々のコミュニケーションスキルやネットワークが顕著に成果に繋がります。結果として「属人的な営業」になりやすく、組織的なノウハウ共有や評価基準の統一が難しいという課題があります。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 数値目標とプロセス評価の併用
新規契約数や売上金額などの定量指標に加え、提案件数・アプローチ件数・訪問回数などの営業プロセス、さらに顧客満足度や人脈形成の度合いなどを総合的に評価します。これにより、短期成果だけでなく、長期的な関係構築も評価対象に含めることができます。 - 専門知識習得度や提案の質を評価項目に追加
営業職であっても、社労士業務に関連した知識が欠かせません。定期的な研修や勉強会への参加状況、提案書の完成度、法改正情報のキャッチアップ力など、専門性を測るための評価指標を取り入れるとよいでしょう。 - チーム営業の推進とノウハウ共有
「誰がどこで契約を取ったか」だけに注目すると、個人の成果主義に陥りがちです。一方、手続き担当やコンサル担当と協力しながらチームで顧問先を獲得・維持する仕組みを作り、成果に応じてチームとして加点するなど、評価制度をチーム連携促進のツールとして活用する方法もあります。
3. 営業職向けの人事評価制度設計ポイント
ここでは、社労士事務所における営業職を評価する際に押さえておきたいポイントを、「定量評価の主要ポイント3選」「定性評価の主要ポイント3選」「評価結果の活用方法」の順に整理します。
3-1. 定量評価の主要ポイント3選
- 新規契約数・売上目標達成率
- 営業評価では定番の指標ですが、社労士事務所の場合は**「顧問契約数」「単発業務(就業規則作成、助成金申請など)の売上」**などの観点で目標を設定することが多いです。
- ただし、単純に「大きい数字を取ってくれば高評価」という図式にしないよう、後述の定性評価やプロセス評価とのバランスをとる必要があります。
- アプローチ件数・商談件数
- 新規顧客や既存顧問先への訪問件数、オンライン商談回数、提案書送付件数など、活動量を測る指標を設定することで、短期的な結果が出にくいスタッフも日々の努力が評価される仕組みとなります。
- 目標が未達だった場合、商談の質や顧客ニーズの分析力に問題がないか振り返る材料にすることができます。
- 顧客単価・継続率
- 既存顧客がどれだけ追加サービスを利用しているか、または契約をどれだけ継続しているかは、営業職のフォロー力やリピート獲得力を表す重要な指標です。
- 特に社労士事務所の顧問契約は長期にわたることが多いため、継続率の高さは営業担当者が顧客との関係をしっかり維持している証とも言えます。
3-2. 定性評価の主要ポイント3選
- 専門知識・法改正対応力
- 営業職であっても、最低限の労務知識や社会保険制度の理解が不可欠です。コンサルタントや手続き担当ほどの深い知識は不要でも、顧客への初期提案や説明に支障がないレベルを維持する必要があります。
- 「最新の法改正や助成金情報をキャッチアップしているか」「顧問先が抱える課題を適切に理解し、社内の専門スタッフへ繋げることができるか」といった点を定性評価に組み込みましょう。
- コミュニケーション・提案書作成スキル
- 営業職は顧客との窓口になるため、コミュニケーション能力は欠かせません。相手のニーズを引き出すヒアリング力、提案内容をわかりやすく伝えるプレゼンテーション力など、総合的な対人スキルを評価します。
- また、提案資料のクオリティや論理構成力も、顧客の信頼獲得に直結する要素です。「説得力のある提案資料を作成できているか」を定性的に測ります。
- チーム連携・顧客フォロー体制
- 社労士事務所では、契約後の各種手続きやコンサル業務を他部署が担当することが多いため、営業職がどれだけスムーズに連携できているかも重要な評価軸となります。
- 特に、受注後のアフターフォロー体制や、既存顧問先への追加提案など、事務所全体で顧客満足度を高める仕組みに営業職がどのように貢献しているかを定性評価に含めましょう。
3-3. 評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
- 評価結果を用いた能力開発・配置転換
評価結果を振り返ることで、「営業スキルは高いが専門知識が不足」「提案内容は良いがクロージングが弱い」など、個々の強み・課題が見えてきます。これをもとに研修プログラムを設計したり、コンサルチームや手続きチームとのジョブローテーションを検討するなど、スタッフのキャリア形成に役立てられます。 - モチベーション維持・向上をサポート
営業職は成果を直接数字で見られる機会が多い反面、失注や顧客対応のストレスなど、精神的負担が大きい職種でもあります。人事評価制度を通じて「努力が正当に評価される」仕組みを作り、公平かつ客観的に認められる場を提供することで、スタッフのモチベーションを高く維持できます。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
- スキルマップの作成・更新
営業職に必要なスキル(コミュニケーション力、提案資料作成力、法令基礎知識など)を一覧化し、スタッフごとの習熟度を可視化します。評価期間ごとに更新することで、成長度合いや組織内の人材配置を考える指針が明確になります。 - 資格取得や専門分野の学習サポート
一般的には社労士資格の取得をめざす営業スタッフもいるでしょうし、助成金や労働保険・社会保険の実務検定など、特定分野の資格を得ることで提案力がアップするケースもあります。これらを評価制度に組み込み、合格時の報奨金や評価加点を設定することで、自己学習のインセンティブを高められます。

4. 営業職向け 人事評価制度の活用事例
ここでは、実際に「営業職向けの評価制度」を導入し、成果を上げている社労士事務所の事例を2つご紹介します。いずれも定量評価と定性評価を組み合わせ、専門職との連携を促す仕組みが取り入れられているのが特徴です。
事例1
導入背景
- 新規顧問先獲得の強化
地域密着型の中小企業向け社労士事務所で、手続きや給与計算の既存顧問先は安定していたものの、新規開拓が伸び悩んでいた。所内に専任の営業スタッフがおらず、資格者や手続き担当が兼任で営業を行っていた。 - 評価の不透明感
兼任営業のスタッフは「手続き業務の繁忙期は営業に時間を割けない」「売上目標は設定されているが、評価基準が曖昧」という不満を抱えていた。
導入内容
- 営業専任スタッフの配置と明確な役割定義
- まず、手続き担当とは別に営業専門スタッフを採用・配置し、新規顧問先の開拓や既存顧問先への深耕営業を担う体制を整えた。
- 同時に、手続きやコンサル担当との連携ルールを策定。営業が引き継いだ案件は、担当者との打ち合わせレポートや進捗報告が義務付けられた。
- 定量・定性混合の評価シートを導入
- 定量評価としては「新規契約数」「提案件数」「売上目標達成率」を重視。
- 定性評価としては「顧問先満足度」「社内スタッフとの連携度合い」「法改正の理解度」などを設定。特に顧客満足度は、簡単なアンケート形式や口頭ヒアリングを参考に数値化した。
成果・効果
- 新規契約数の増加と既存契約の安定化
専任スタッフの営業活動と評価指標の明確化により、数値目標への意識が高まった。顧問先満足度を重視した結果、既存顧問先へのクロスセル(追加サービス提案)も増え、全体売上が前年対比で20%アップを実現した。 - スタッフのモチベーション向上
「営業だけ頑張っても評価されない」「成果を上げても曖昧に処遇される」といった不満が解消され、明確な評価制度を背景に主体的に営業活動に取り組むスタッフが増えた。
事例2
導入背景
- 全国展開する大手社労士法人の課題
複数拠点を持ち、全国で多彩なサービスを展開している大手社労士法人。営業担当のスタッフ数が多いため、「受注ルール」や「ノウハウ共有」が属人的になりがちだった。 - 評価者間のばらつき
各拠点の支店長やマネージャーが独自に評価を行っており、スタッフから「自分の拠点は評価が厳しい」「他拠点は緩い」といった声が上がっていた。
導入内容
- 営業プロセス管理ツールと共通評価フォーマットの導入
- 商談管理システム(CRM)を活用し、訪問日時、提案内容、次回アクションなどを全社でリアルタイム共有できるようにした。
- 評価についても、定量評価・定性評価の項目を標準化したフォーマットを導入。各拠点のマネージャーにはフォーマットに基づいて「数字」「プロセス」「専門知識」などを総合的に評価するよう指示。
- 社内資格制度・研修との連携
- 一定の実績を上げた営業スタッフは「シニア営業」「営業マネージャー」などの社内資格を取得でき、評価に反映される仕組みを作った。
- 定期的に労働法改正や助成金新設などに関する研修を実施し、受講修了を評価加点とする運用も開始。
成果・効果
- 評価の公平性向上と情報共有の促進
評価フォーマットとCRMを全社統一することで、スタッフは**“自分がどのように評価されるのか”**を明確に把握できるようになり、不透明さが解消。また、他拠点の営業手法や成功事例を容易に参照できるようになり、ノウハウ共有が活性化した。 - 中長期的な人材育成が進む
社内資格制度と連動した評価により、「短期的な売上だけでなく、専門知識の深化やマネジメントスキルの習得も重要である」ことがスタッフ全体に浸透。結果として、営業スタッフが自発的に研修や資格取得に取り組むようになり、組織としての専門性がさらに強化された。
5. まとめ
本コラムのポイント
今回のコラムでは、社労士事務所における「営業職」の人事評価制度について、以下のポイントを中心に解説しました。
- 営業職特有の評価項目の設定
- 定量評価としては「新規契約数」「売上目標達成率」「アプローチ件数」「顧客継続率」など。
- 定性評価としては「専門知識の習得度」「コミュニケーション・プレゼンスキル」「チーム連携度合い」などを重視する。
- 短期成果だけでなく、長期的な信頼構築や提案の質を評価する仕組みが必要。
- 評価制度を活用して営業力と組織力を同時に強化する
- 単なる売上至上主義にならないよう、プロセス評価や専門知識評価も組み合わせる。
- チーム連携や既存顧客の追加提案など、事務所全体の成果向上を促す仕組みを評価制度に織り込む。
制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
社労士事務所のサービスメニューや経営方針が変われば、営業活動の重点も変わります。定期的に評価項目や重み付けを見直し、現場の声を反映することで、制度の形骸化を防げます。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
営業スタッフが専門性を高めたり、管理職を目指したりできるように、評価結果とキャリアプランを繋ぐ仕組みを整備すると、優秀な人材の長期定着が見込めます。 - 営業職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
営業職は直接的に売上増加に貢献する重要なポジションです。しかし、単に「数字を追う」だけではなく、顧問先との長期的なパートナーシップや事務所の専門性を活かした提案など、事務所が目指す経営戦略に合致した営業活動を評価することで、結果的に事務所全体の業績やブランド力が向上します。
以上、社労士事務所に特化した「営業職向け人事評価制度」のポイントと事例をご紹介しました。 営業活動は日々の成果が見えやすい一方、複雑な専門性や長期的な関係構築も求められる難しい職種です。適切な評価制度を導入してスタッフを支援し、彼らのモチベーションと成長を促すことで、新規顧問先開拓・既存顧客深耕の両面において大きな成果が得られるでしょう。
これまでの連載コラムの内容とあわせて、自事務所の現状や経営方針に合った評価制度の検討を進めてみてください。組織全体で“営業”の役割を正しく理解し、大いに活かすことができれば、社労士事務所としての存在感をさらに高め、より多くの企業とWin-Winの関係を築いていけるはずです。

- 社労士事務所に特化 |【第1回】成功する評価基準と運用ポイント
- 社労士事務所に特化 |【第2回】人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 社労士事務所に特化 |【第3回】手続き申請職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第4回】給与計算職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第5回】労務コンサルタント職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第6回】営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介を選択
- 社労士事務所に特化 |【第7回】専門職(助成金、事務組合事務)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 社労士事務所に特化 |【第8回】効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣