- 保育園に特化【第1回】 _ 成功する評価基準と運用ポイント
- 保育園に特化【第2回】_ 人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 保育園に特化【第3回】_ 保育士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 保育園に特化【第4回】_ 主任保育士に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 保育園に特化【第5回】_ 管理職(園長、副園長)に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 保育園に特化【第6回】_ デスクワーク中心の事務職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 保育園に特化【第7回】_ 専門職(調理師、管理栄養士)職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 保育園に特化【第8回】_ 保育園向け!効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣

1. はじめに
本コラムの目的と背景
これまでの連載では、保育園における人事評価制度の重要性や導入メリット・デメリット、そして保育士に特化した評価制度の考え方などを解説してきました。保育園特有の人材課題——採用難や離職率の高さ、そして保育の質向上への要求——を乗り越えるために、人事評価制度の整備と運用が欠かせないことが見えてきたかと思います。
さて、今回の第4回コラムでは**「主任保育士」**に焦点を当てていきます。主任保育士は、園長や副園長と現場の保育士をつなぐリーダー的存在であり、日々の保育業務のみならず、人材育成やクラス運営のマネジメントなど、多岐にわたる役割を担っています。園の規模が大きい・小さいに関わらず、主任保育士の力によって組織全体の保育の質が左右されるといっても過言ではありません。
主任保育士を取り巻く課題と重要性
主任保育士は、一方で現場での業務負荷が高い立場でありながら、管理業務や若手保育士の教育、保護者対応の取りまとめなど、多面的な責任を負います。保育士の離職防止やチーム力向上のキーマンとしても期待されますが、十分なサポート体制や評価制度が整っていない園では、主任自らが疲弊してしまい、結果的に園全体の人材育成が滞るリスクが高まります。
適切な人事評価制度の中で主任保育士の役割を可視化し、処遇やキャリアパスに正しく反映することで、本人のモチベーションアップやリーダーシップの強化だけでなく、現場の保育士が安心して成長できる環境づくりに大きく寄与します。
中小保育園における「主任保育士」への人事評価制度の導入状況
主任保育士の評価が後回しにされやすい理由
- 主任は“管理職扱い”とされることが多い
中小保育園では、主任保育士と園長・副園長との距離が近く、コミュニケーションが密な分、暗黙の了解で評価が進んでしまうケースが散見されます。明確な基準なく「頑張っているから大丈夫」で済まされてしまい、評価制度が形骸化しやすいのです。 - 評価項目の設定が難しい
主任の仕事は多岐にわたり、保育スキルだけでなく、マネジメント力や職員育成力、保護者対応力など、複合的な能力が求められます。評価者がどこまでを評価対象とすべきかを整理しきれず、あやふやな状態で運用されがちです。 - 現場業務の忙しさ
主任自身も現場に立ちつつ、他の保育士より負荷の高い業務を抱えています。そのため、評価を受ける側だけでなく、主任が評価者として他の保育士を評価する立場になることもあり、評価制度全体の整備が後回しになる場合があります。
経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 多岐にわたる責任範囲
保育業務、クラス統括、人材育成、保護者対応、園長への報告…主任保育士は幅広い役割を持つため、客観的に成果を把握するのが容易ではありません。 - 役職手当との整合性
主任手当が給与に組み込まれている場合、評価制度とのリンクが弱く、「主任手当はあって当然」という雰囲気になりがちで、本人のスキルや頑張りが評価・報酬に反映されにくい状況が起こります。 - 保育士との兼任による主観の入り込み
主任保育士が自らも保育業務をこなす場合、どうしても自分基準の評価になりがちな面もあり、評価基準の客観性・公平性を担保するのが難しいという声が聞かれます。

2. 主任保育士の評価が難しい理由とその対策
主任保育士の人事評価が難しい3つの事情
- リーダーシップ・マネジメント能力の見極め
保育士としての技術や子どもへの関わり方だけでなく、チームをまとめる指導力やトラブル時の臨機応変な対応力など、リーダーシップ面をどう評価するかが一つの大きなハードルとなります。 - 組織目標への貢献度合いの把握
園全体の運営方針や目標(例:離職率の低減、保護者満足度アップ、行事の充実など)に対して、主任がどれだけ貢献したのか定量的に示しにくい面があります。個人成果とチーム成果をどう区別・連動させるかという問題も絡み合います。 - 評価者・被評価者が兼任するケース
主任保育士自身が保育士を評価する立場である場合、その一方で園長や経営者から評価される立場でもあります。評価の方向が「上下」「水平」に複雑化することで、混乱や不透明感を招きやすいのです。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 評価項目の明確化とマネジメント要素の分離
保育スキルの評価と、管理・リーダーシップ評価を明確に区別する工夫が大切です。たとえば、「保育指導力」「チーム育成」「業務改善」のようにカテゴリを分け、各カテゴリ内で定量・定性評価を設定し、主任保育士が「自分の何が評価されるのか」を理解できるようにします。 - チーム評価との連動
主任保育士の役割には、個人の成果だけでは測れない要素が多分に含まれます。そこで、チーム単位・クラス単位での評価と組み合わせることで、「主任がどのようにチームを支え、成果を出しているか」を測りやすくなります。保護者アンケートや行事の達成度なども活用すると客観性が増します。 - 定期的な面談と目標管理(MBO)の導入
半年や四半期など、一定のサイクルで面談を行い、設定した目標に対する進捗を振り返り・修正する仕組みを作ると、有意義に評価を運用できます。短期的な目標(例:新人保育士の育成計画完遂)と、中長期的な目標(例:園全体の研修制度立ち上げ)をセットで管理するのも効果的です。
3. 主任保育士向けの人事評価制度設計ポイント
主任保育士の評価制度を設計する際には、保育士としての基本スキルに加えて、マネジメント力・リーダーシップ力の評価をいかに組み込むかがポイントとなります。ここでは主に「定量評価」「定性評価」「評価結果の活用方法」の3つにわけて解説します。
定量評価の主要ポイント3選
- 勤怠・業務遵守状況
園全体を率いる立場だからこそ、自分自身の勤怠を安定させ、業務手続きを正しく行う姿勢が求められます。書類提出や行事計画など、期限内にミスなく完了しているかどうかは、比較的客観的に数値化・測定しやすい部分です。 - クラス・チームの目標達成度
例えば「保護者アンケートによる満足度指標」「行事参加率」「新人保育士の定着率」など、主任が担当・統括するチーム全体の達成度を定期的に数値で把握する方法です。ただし、あくまで“チーム目標達成が主任の貢献だけによるものではない”ことを踏まえ、公平に判断する工夫が必要となります。 - 園全体への改善提案・実行数
主任保育士は現場の最前線と経営者・園長をつなぐ役割でもあるため、日々の保育改善や環境づくりなど、提案力・実行力が期待されます。提案数や実際に動いた案件数など、目に見える形で記録し、成果を数値化することで評価の指標とすることが可能です。
定性評価の主要ポイント3選
- リーダーシップ・マネジメント能力
チームメンバーへの指導や目標設定、困りごとの相談対応など、主任としてのマネジメント力を評価します。具体的には、「新人保育士の育成計画をどのように立て、進捗管理しているか」「人間関係のトラブルを未然に防ぐための取り組みを行っているか」などを細かく記録しておくと良いでしょう。 - コミュニケーション・連携力
他の保育士や保護者、さらに園長や事務スタッフ、場合によっては地域や行政とのやり取りなど、幅広いコミュニケーションが求められる立場です。誠実な対応、説明のわかりやすさ、情報共有のスピードなど、質と量の両面から確認します。 - 保育の質の向上への取り組み
主任自らが保育に入る際、子どもとの関わり方や保育の方針が他の保育士のお手本となることが求められます。例えば、「子ども一人ひとりの発達段階を踏まえたアクティビティを企画・実践しているか」「困りごとや事故の防止策をどのように周知しているか」など、実践力を見極めることが重要です。
評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
- 階層化された主任ポジション
主任保育士の上にも、主任の補佐を行う“副主任”を置く園など、役職を細分化し評価結果をキャリアアップに結びつける方法があります。主任としての評価が一定基準を満たしたら「シニア主任」にステップアップするなど、さらなるリーダーシップ研修や経営視点を学ぶ機会を提供すると効果的です。 - 将来的な園長候補や複数園統括職への道
中小保育園であっても、分園や姉妹園の拡大などによって管理職のポストが増えるケースがあります。評価制度でマネジメント能力が高いと認められた主任保育士に、園長や複数拠点統括など、より大きな裁量と責任を担うポジションを提示することで、長期的なキャリア形成を促します。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
- 主任向けスキルマップの作成
一般保育士向けのスキルマップとは別に、主任保育士に必要とされるスキル(マネジメント、リーダーシップ、行事運営、保育計画立案、スタッフ育成など)をリスト化し、評価結果と紐づけると可視化しやすくなります。 - 研修・資格取得のサポート
リーダーシップ研修やマネジメントセミナー、保育全般のスキルアップ講座など、主任保育士の能力向上につながる研修を園側が積極的にサポートし、評価制度と連動させることで、本人の学習意欲を高めると同時に、園全体の保育品質向上につながります。

4. 主任保育士向け 人事評価制度の活用事例
以下に、主任保育士の評価制度を導入して成果を上げた2つの事例を紹介します。園の規模や背景に合わせて、自園で応用できるポイントを探ってみてください。
事例1
導入背景
- 新規分園立ち上げに伴う主任増員
A園は近年、待機児童問題への対応として分園を立ち上げました。すると、各園に主任を配置する必要が生じ、短期間で複数の主任保育士を任命。ところが、主任ごとに保育方針や育成方法が異なり、スタッフ間で混乱が起き始めました。 - 評価基準の不透明さが不満を招く
園長や経営者は、主任保育士への期待が高い一方、「具体的に何を評価しているのか分からない」という声が上がり、主任たちも自分の役割を十分に理解しきれず、モチベーションが下がっていました。
導入内容
- 主任保育士専用の評価シートを作成
「保育実践力(定性的)」「チーム運営力(定性的)」「各クラスの目標達成度(定量的)」「書類管理や行事運営の正確性(定量的)」などをまとめたシートを作り、半年に一度の面談で確認する仕組みを導入。 - 統一研修の実施
主任保育士だけを対象とした研修を実施し、評価シートの項目を共有・具体的な行動例をディスカッション。新人や若手保育士の指導方法、クレーム対応の進め方など、共通理解を深めることでバラツキを減らす狙いもありました。 - 分園同士の情報交換会
3ヶ月に一度、主任同士が集まり、自園の取り組みやトラブル事例を共有する場を設けました。問題解決策や成功事例を持ち寄り、相互学習の場とすることで、評価と育成を同時に進める仕掛けを作りました。
効果
- 主任保育士間で評価項目や役割が明確になり、各園で大きな方針のズレが解消。保育士の離職率が低下しただけでなく、保護者からも「どの園でも安定した保育方針が感じられる」という評価が得られました。
- 分園立ち上げ時の混乱が収束し、新しい行事や研修プログラムも主任主導でスムーズに導入。経営者は「主任保育士の成長が園全体を支えている」と大きな手応えを感じています。
事例2
導入背景
- 主任保育士の過度な負担とバーンアウトリスク
B園では主任保育士がベテラン一人だけで、他の保育士数名を指揮していました。新人育成から行事の取りまとめ、保護者クレーム対応までワンオペ状態が続き、主任は疲弊。結果、主任が体調不良で長期休職に入り、保育現場が混乱に陥りました。 - 後任主任の選抜・育成の必要性
主任が現場を離れたことで、後任主任候補を早急に立てなければならなくなりました。しかし、人材プールが十分でなく、誰を主任に据えるべきか分からない状態が続いたため、評価制度による客観的な基準が必要とされました。
導入内容
- 「主任候補」層も対象にした評価制度
既存の主任だけでなく、主任候補となりうる保育士に対しても、マネジメント力や連携力を測る評価項目を追加。評価シートに「リーダーシップの発揮事例」「新人への指導状況」を記録する欄を設け、園長や先輩保育士が観察・フィードバックする体制を整えました。 - 指導負担を分散させる仕組み
主任候補の保育士が、小規模イベントや書類管理など、一部業務を段階的に分担するシステムを作り、負担を軽減しながら実務を学習。評価項目の「業務引き継ぎ」「チーム内コミュニケーション」などを加点対象とし、積極的に挑戦する職員を後押ししました。 - 面談スケジュールの拡充
主任保育士が体調不良になる前に相談できる環境を整え、また候補者との面談も増やすことで、「誰がどんな状況にあって、どんな育成が必要か」を早期にキャッチアップできるようにしました。
効果
- 主任のバーンアウトリスクを下げるだけでなく、新しい主任候補がすでに一部業務を経験・評価されていたため、スムーズに後任主任として就任が可能になりました。
- 負担を分散するなかで、保育士一人ひとりの「得意分野」が浮き彫りとなり、役割分担が最適化。結果的に保育の質や保護者対応のスピードが向上し、職員同士のコミュニケーションも活発化しました。
- 評価を通じてキャリアパスが明確になり、「いずれは主任やリーダーになりたい」と考える若手保育士が増加。園全体の雰囲気が前向きになり、人材確保にも好影響を及ぼしました。

5. まとめ
本コラムのポイント
- 主任保育士特有の評価項目の設定
保育スキルだけでなく、マネジメント力やチーム育成力、対外的なコミュニケーション力など、主任が担う多岐にわたる業務を整理し、定量・定性両面から評価項目を設定することが重要です。 - 評価制度の導入・運用で得られる効果
主任自身のモチベーション向上とバーンアウト予防はもちろん、保育士の離職率低下や保護者満足度アップなど、保育園全体のパフォーマンスに大きく影響を与えます。さらに、主任候補の育成にも大きく貢献し、組織の中長期的な安定運営をサポートします。
制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
園の拡大や分園の設立、組織体制の変更などに応じて、主任保育士に求められるスキルや責任範囲も変化していきます。年に一度は制度を棚卸しし、実態と乖離していないかを検証しましょう。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
主任保育士の評価とキャリア形成をリンクさせることで、さらなる園長・副園長候補や複数拠点を統括するマネージャー候補を育てる土壌が育ちます。中小保育園であっても、将来的な組織拡大を視野に入れたキャリアパス設計が求められます。 - 主任保育士特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
主任保育士は、現場の保育品質だけでなく、人材マネジメントや保護者との連携など、園の“業績”に直結する重要なポジションです。適切な評価を通じて主任が成長・活躍できる環境を整備し、保育園全体のレベルアップと持続的発展を目指しましょう。
本コラム(第4回)では、「主任保育士」に焦点を当て、その評価の難しさと具体的な制度設計・運用のポイント、事例を紹介しました。
保育園の組織づくりは、一人ひとりの保育士が安心して働ける環境と、適材適所のマネジメント体制があってこそ成り立ちます。その中で主任保育士という存在は、まさに園の要となる役割です。彼ら・彼女らが十分に評価・育成され、意欲的にリーダーシップを発揮できるよう支援することは、園全体の経営を安定させ、保育の質を高め、ひいては保護者・子どもたちの満足につながるでしょう。
これまでのコラム(第1回~第3回)と合わせて、保育園ならではの人事評価制度の課題と可能性を改めて整理し、自園に合った形で取り入れてみてください。主任保育士をはじめ、園全体のスタッフが安心して成長できる仕組みづくりが、中小保育園の未来を明るく照らすはずです。
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