
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第1回】成功する評価基準と運用ポイント
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第2回】人事評価制度を導入するメリット、デメリット
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第3回】車販営業職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第4回】整備職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第5回】サービスフロント職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第6回】営業サポート職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第7回】本部スタッフ職に活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介
- 自動車販売業(カーディーラー)に特化 | 【第8回】効果的な人事評価制度の導入と成功の秘訣
1. はじめに
本コラムの目的と背景
これまでの連載では、中小自動車販売店における人事評価制度の重要性と導入ポイントを取り上げてきました。第1回・第2回では、人事評価制度の概要やメリット・デメリット、設計と運用の要点を整理。続く第3回~第6回では、車販営業職・整備職・サービスフロント職・営業サポート職に特化して、それぞれの評価基準と実践事例をご紹介しました。
今回(第7回)は、**「本部スタッフ職」**に焦点を当てます。本部スタッフ職とは、経営企画・人事・総務・経理・IT管理など、多岐にわたるバックオフィス業務を担うポジションです。営業や整備など現場を直接支える部門と異なり、成果が目に見えにくいため、評価が後回しにされることが少なくありません。しかし、中長期的な経営戦略や店舗運営の効率化、新たなビジネス機会の創出など、会社全体をコントロールし、伸ばしていくうえで不可欠な役割を担っています。
本部スタッフ職を取り巻く課題と重要性
- 経営や事業戦略を下支え
本部スタッフ職は、採用・労務管理・経理・財務・ITシステム運用・法務・総務など、企業活動の基盤となる業務を担当します。特に中小自動車販売店では、複数の職務を兼任するスタッフも多く、一人ひとりのレベルが会社全体の運営を左右します。 - 業績への影響が見えにくい
車販営業職のように「販売台数」や「粗利」、整備職のように「工数」や「クレーム率」のような明確なKPI(成果指標)が見えにくいため、本部スタッフ職の評価が難しくなりがちです。 - 企業の成長や変革を推進
経営企画や人事総務が充実すると、新規店舗の立ち上げや拠点統合、人材育成、IT化などを計画的に進められます。逆に本部スタッフの能力やモチベーションが低いと、業務改善や新事業の企画が滞り、競合他社に遅れを取ることになります。
中小自動車販売業における「本部スタッフ職」への人事評価制度の導入状況
本部スタッフ職の評価が後回しにされやすい理由
- 売上直結の部門を優先
中小企業では、日々の売上を作る営業部門や整備部門の評価を優先しがちです。本部スタッフの評価基準は「漠然とした管理業務」とみなされ、詳細な指標が設定されないケースも多いです。 - 経営者が現場出身
自動車販売店の場合、経営者や店長が営業・整備出身であることが多く、バックオフィスの専門的な知識やスキルへの理解が浅い場合があります。結果として、**「専門性をどのように評価するか」**が曖昧になることがあります。 - 客観的な成果指標の不足
「採用人数」「在庫管理精度」「経費削減効果」など、数字化できる部分はあるものの、本部スタッフが担う業務は長期的な成果やチーム貢献が大きく、単純に短期数値だけでは評価しきれません。
経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ
- 定性評価が中心となりがち
経営サポート、総務・労務管理、IT化推進など、業務が多岐にわたり、評価者の主観が入りやすい。 - 経営計画と連動した指標設定が必要
本部スタッフ職の評価を適切に行うには、経営ビジョンや中期経営計画に紐づけた目標設定が不可欠。ここに時間や労力をかける余裕がない企業が多い。 - 専門スキルの把握が難しい
経営企画、人事、IT、財務など、部門ごとに必要なスキルセットが異なるため、横断的な評価指標の策定が難しいという声も聞かれます。

2. 本部スタッフ職の評価が難しい理由とその対策
本部スタッフ職の人事評価が難しい3つの事情
- 成果が長期スパンで現れやすい
たとえば人材育成や経営戦略の策定、ITシステムの導入など、本部スタッフ職の成果は短期的な数字には表れにくく、1年~数年単位でじわじわと会社に影響することが多い。 - 職種・専門性が多岐にわたる
本部スタッフと一口に言っても、経営企画、人事総務、経理、ITなど職種ごとに必要なスキルや目標が異なります。全員を一括で評価しようとすると、どうしても不公平感が出やすい。 - 評価者の専門知識不足
現場出身の経営者や店長が、本部スタッフ職の専門領域(労務管理・ITシステム設計・財務分析など)を十分に理解していない場合、適切な目標設定や評価ができず、曖昧なフィードバックになりがちです。
課題を解決するための3つの基本アプローチ
- 長期目標と短期目標を組み合わせる
本部スタッフ職には、**短期(1年以内)**での運用改善指標と、**中長期(3~5年)**での戦略的目標を組み合わせて設定する。たとえば「今期中に社内システムを導入し、業務工数を○%削減」など短期の数値目標と、「3年後に社内デジタル化率を○%まで引き上げ、競合優位性を確立する」といった中長期目標をバランスよく掲げる。 - 職種別・専門性別の評価基準を整備
経理なら「月次決算の正確性・スピード」「資金繰りの安定」、人事なら「採用力向上」「離職率低下施策の成果」、ITなら「システム運用の安定性」「セキュリティ対策」など、職種ごとに具体的な指標を設定する。全員が同じ基準ではなく、それぞれの領域に応じた評価項目を明示することが大切。 - 評価者への教育と360度評価の活用
本部スタッフ職の評価にあたっては、評価者が専門領域をある程度理解しておく必要があります。そのため、評価者研修や外部コンサルタントのサポートを活用し、評価者が適切な基準を持てるようにする。また、特に専門性が高い部門では、**360度評価(周囲の同僚や外部パートナーからのフィードバック)**を取り入れると客観性が増します。
3. 本部スタッフ職向けの人事評価制度設計ポイント
定量評価の主要ポイント3選
- プロジェクト達成度・スケジュール遵守率
本部スタッフが主導・参画するプロジェクト(システム導入・新店舗開発・人事制度改革など)の目標と期日を設定し、完成度や納期遵守率を評価に組み込む。どれだけ計画通りに進行できたか、成果物の品質はどうか、といった客観指標を活用します。 - コスト削減・利益貢献度
経理や財務、人事総務などが取り組む施策(経費削減策、保険手配の見直し、助成金の活用など)が実際にどれだけ費用を抑え、利益に貢献したかを数値化する。単なる削減だけでなく、投資リターンの面からプラス効果を測定するケースも。 - KPI(Key Performance Indicator)の設定
人事部門なら「採用充足率」「新卒定着率」、IT部門なら「システム障害の件数」「利用率」、企画部門なら「新規事業検討数」「施策の実施率」など、職種ごとのKPIを明確にして定量評価につなげる。
定性評価の主要ポイント3選
- リーダーシップ・マネジメント力
本部スタッフがチームを率いてプロジェクトを遂行する場合、部下や他部署を巻き込みながら目標を達成できたかが重要。コミュニケーション力や意思決定スピード、問題解決力も含めて評価する。 - 専門知識・スキルレベル
経理やIT、法務、人事など、専門職としての知識・スキルアップをどれだけ図っているか。資格取得や研修参加、最新の業界動向リサーチなどを評価ポイントに含める。 - 経営方針・店舗現場との連携
中小自動車販売業では、本部と店舗現場の温度差が課題になりがちです。本部スタッフが現場の実情を理解したうえで経営方針や施策を企画し、現場の声を拾いながら改善に繋げているかを評価します。
評価結果の活用方法
昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす
本部スタッフ職の評価結果は昇給・賞与に直結するだけでなく、社員のキャリア形成の指針としても重要です。
- 管理職登用: 部門リーダーや統括マネージャー、役員候補など、上位ポストへの昇格要件に評価結果を活用する。
- 専門職ルート: 経理やITなど特定領域でスペシャリストを目指す社員は、資格取得や専門研修の費用を会社がサポートし、評価結果に反映する仕組みが有効。
スキルマップや資格取得支援制度との連動
経営企画、人事総務、経理、ITなど、職種が多岐にわたる本部スタッフ職こそスキルマップが役立ちます。必要とされるスキルや知識をリスト化し、社員が自分の現状と目標を明確に把握できるようにする。
- 資格取得支援: 経理なら日商簿記や税理士試験の科目合格、人事なら社会保険労務士やキャリアコンサルタント、ITなら基本情報技術者など、業務に関連する資格取得を推奨し、合格後は手当を支給する方法が効果的。

4. 本部スタッフ職向け 人事評価制度の活用事例
ここでは、実際に本部スタッフ職の評価制度を導入・活用した事例を2つご紹介します。いずれも架空の設定ですが、中小の自動車販売店でよく見られる成功パターンとしてイメージいただければ幸いです。
事例1
・導入背景
- 地方都市で3店舗を展開する中小規模ディーラー(社員数40名)。
- 本部スタッフは経理・人事・総務を兼務する2名体制で、どちらも激務なうえ、専門性が評価されないと感じていた。離職のリスクが高まり、経営者が人事評価制度の見直しを決断。
・導入内容
- 職種ごとの評価シート整備
経理業務を担当するスタッフには「月次決算の正確性・早期化」「キャッシュフロー管理」「経費削減施策の推進度」を評価項目に設定。人事・総務を担当するスタッフには「採用達成率」「研修実施率」「労務トラブル削減」などを盛り込んだ。 - プロジェクトベースの目標管理(MBO)導入
経理担当者には「年度内にPOSシステムと会計ソフトを連動し、入力時間を30%削減」など、具体的なプロジェクト目標を設定。人事・総務担当者には「社員満足度調査を実施し、その結果を研修企画に反映」などのKPIを設定し、四半期ごとに進捗をレビュー。 - 外部アドバイザーの活用
地元の会計事務所や社労士と提携し、本部スタッフの業務レベルを客観的に評価・指導してもらう仕組みを整備。経営者が理解しきれない専門領域にも、外部の視点を加えることで公平性を保つ。
結果
- 経理担当者は会計ソフト連動プロジェクトを無事に完了し、データ入力の工数が大幅に削減。空いたリソースを活用して財務分析レポートを作成し、経営陣から高く評価された。
- 人事・総務担当者は社員満足度調査を実施し、研修企画や福利厚生の改善プランを打ち出した。社員からの評価が上がり、離職率も低下。
- 本部スタッフ職の評価基準が明確になり、経営者とスタッフのコミュニケーションが活性化。専門性を活かした人材活用が進み、組織全体の生産性が向上した。
事例2
・導入背景
- 首都圏で1店舗を運営する自動車販売店(社員数25名)。
- 経営者は元整備士出身で、財務やITに詳しくないため、本部スタッフ1名が経理・総務・簡易的なIT管理を担当していた。業務量が膨大になり、スタッフが疲弊。「自分が何をどこまでやれば評価されるのか不明」と不満が高まっていた。
・導入内容
- 週次ミーティングで業務内容を共有・可視化
本部スタッフが週次ミーティングで「今週の業務状況」「課題と進捗」を経営者や店長と共有。業務が多岐にわたることを理解してもらい、優先度や必要リソースの相談も行う。 - 評価項目の明確化と段階的スキルアップ
- 経理業務:月末の試算表作成、支払手続きの正確性・スピード
- 総務業務:社内イベント運営、備品管理、契約書管理
- IT管理:PCトラブルの一次対応、ソフトウェア更新
それぞれの業務に対して難易度・重要度を設定し、どのレベルに達したら昇給・賞与に反映されるのかを明文化。
- 専門研修への参加を奨励・費用補助
経営者の予算承認を得て、簿記講座やPCスキル研修への参加費用を会社が負担する制度を導入。取得した資格や学んだスキルを業務改善につなげた場合、追加の評価ポイントを付与する。
結果
- 週次ミーティングで業務の全体像が共有され、経営者もITや財務の重要性を理解。無理な業務依頼が減り、スタッフが段取りよく作業を進められるようになった。
- 本部スタッフが資格取得をきっかけに経理精度やITセキュリティの水準を高め、外部への委託費用を削減。経営にもメリットが生まれた。
- 評価項目が明確になったことでスタッフのモチベーションが向上し、**「次はもっと高度な業務に挑戦してキャリアを積みたい」**と前向きな意欲が高まった。
5. まとめ
本コラムのポイント
- 本部スタッフ職特有の評価項目の設定
- 定量評価: プロジェクト達成度、コスト削減効果、KPIの達成率など
- 定性評価: リーダーシップ、専門知識・スキル、経営方針や現場との連携度合い
- 短期と中長期の目標を組み合わせ、職種・専門領域に応じた評価指標を明確化する
- 制度導入・運用における今後のステップ
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
新店舗展開や業態の変更などに伴い、本部スタッフに求められるスキルや目標も変化する。定期的に評価項目をアップデートし、実態に即した制度運用を心がける。 - キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
本部スタッフ職にも、管理職ルートや専門職ルートなど多様なキャリアパスを用意し、長期的な成長をサポートする。評価結果を昇給・賞与のみならず、研修・資格取得支援への投資に反映することが効果的。 - 本部スタッフ職特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
会社全体のバランスを見ながら、現場を下支えし、経営を加速させる本部スタッフ職の役割を正当に評価することで、組織全体のパフォーマンスと競争力を高める。
- 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
本部スタッフ職は、中小自動車販売業の基盤を支え、成長を推進する縁の下の力持ちです。営業や整備といった目立つ部門とは異なり、成果が数字として見えにくい部分も多々ありますが、適切な評価制度を構築して専門性を正しく評価・育成すれば、業務効率や経営クオリティの飛躍的な向上が期待できます。
今回のコラム(第7回)では、本部スタッフ職が直面する評価の難しさと、それを解決するための評価制度のポイントや事例を紹介しました。これまでの連載内容とあわせて、人事制度の設計・運用にぜひお役立てください。次回以降も、自動車販売業界に特化した実践的なノウハウや事例をお届けしてまいりますので、引き続きご注目いただければ幸いです。評価制度を一歩ずつ整備し、会社全体の成長を力強く後押しする体制を築いていきましょう。

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