税理士事務所に特化 | 税務コンサルタントに活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

税理士事務所に特化 _ 税務コンサルタントに活用できる人事評価制度のポイントと事例紹介

目次

1. はじめに

1-1. これまでの連載の振り返り

これまでのコラムでは、税理士事務所における人事評価制度がなぜ必要なのか、そのメリットやデメリット、そして職種別(税理士・税理士補助・会計スタッフ・営業職など)における評価のポイントを中心に解説してきました。税理士事務所は多様な職種で構成され、それぞれの役割や仕事の進め方、専門性が異なります。画一的な評価制度では現場の実態に合わず、不公平感やモチベーション低下を招きかねないため、職種特有の業務内容や求められる能力を的確に捉えた評価基準 が重要になります。

本コラムでは、その中でも 「税務コンサルタント」 に焦点を当てます。税理士補助や会計スタッフと同様、税務コンサルタントは税理士事務所にとって重要な人材ですが、その業務内容や評価指標が比較的複雑で、体系立てた評価制度を導入できていない事務所も少なくありません。そこで、税務コンサルタントを取り巻く現状と課題、評価制度設計のポイント、そして実際の事例をご紹介し、より適切な評価方法を検討するための手がかりにしていただければと思います。

1-2. 税務コンサルタントを取り巻く課題と重要性

税理士事務所におけるコンサルタントの役割

従来の税理士事務所の業務といえば、決算や申告書の作成、顧問先への税務対応が中心でした。しかし、近年では相続対策や事業承継、M&A、海外進出など、高度なコンサルティング領域 への対応ニーズが急速に拡大しています。こうした分野で専門的なサービスを提供できる税理士事務所は、顧客からの信頼を一層強固にし、収益源の拡大につなげることが可能です。そのような背景から、税務コンサルタントの専門知識とコンサルティングスキルが不可欠 となり、業界全体で需要が高まっています。

コンサルタントを適切に評価する難しさ

しかしながら、税務コンサルタントの業務成果は一般的な「申告業務」や「経理処理」とは異なり、定型化しにくい側面があります。個々の案件ごとに異なる課題やスキーム、提案内容があり、成果の測定が難しいことが多いのです。また、顧客満足度や長期的な経営改善への貢献度が評価に影響するため、短期的な数値指標だけでは十分にカバーできません。こうした複雑性が、税務コンサルタントの評価を後回しにしてしまう大きな要因となっています。

1-3. 税理士事務所における「税務コンサルタント」への人事評価制度の導入状況

税務コンサルタントの評価が後回しにされやすい理由

  1. 業務領域が多岐にわたる
    相続税対策、国際税務、組織再編、企業再生、M&Aなど、税務コンサルタントがカバーする領域は実にさまざまです。事務所ごとに得意分野や扱う案件の種類が異なるため、一律の評価基準を作りづらいという問題があります。
  2. 成果が可視化しにくい
    申告業務のように「ミスや納期遵守率」で評価しづらく、コンサルティング成果は売上・利益だけでなく「顧客の事業成長」「リスクの低減」「経営意思決定支援」など、定量化しにくい要素が大きいのが特徴です。特に長期案件の場合、評価時期とのタイムラグも生じやすくなります。
  3. 評価者自身が専門知識を把握しきれないことも
    所長税理士や人事担当者が必ずしも全てのコンサル領域に精通しているわけではありません。コンサルタントが行っている業務の価値や難易度を正確に把握しづらいケースが多く、結果として「とりあえず売上や契約数で見る」という簡易的な評価に陥りがちです。

経営者・人事担当者が感じる評価の難しさ

  • 「数字以外」の努力や貢献度をどこまで評価に含めるか
    実際の契約が成立するまでの過程や、顧客満足度向上のためのアプローチなど、売上金額に直接表れない要素をどう扱うかが難題となります。
  • 高度な専門知識や提案力を評価する基準作り
    税理士試験科目だけではカバーできない特殊知識や、実務経験から生まれるノウハウが高く評価されるべき領域です。これらを体系化するのは容易ではありません。
  • 社内連携の重要性
    コンサルタント一人の能力だけでなく、所内の税理士や補助スタッフとのチームワークによって成果が左右される場合も多く、「個人評価」と「組織評価」のバランスをどう取るかが悩みの種になりがちです。

2. 税務コンサルタントの評価が難しい理由とその対策

2-1. 税務コンサルタントの人事評価が難しい3つの事情

  1. 案件ごとのオーダーメイド性
    税務コンサル案件は、顧客の事情や目指すゴールに合わせて個別にスキーム設計を行うため、「同じ作業を何件こなす」 という形で成果を測りにくい特徴があります。非常に専門性が高く、案件の規模や難易度も千差万別です。
  2. 長期的な成果を要するケースが多い
    M&Aや事業承継のようなプロジェクトは、短期的には費用や手間ばかりがかかり、売上につながるまでに時間を要することがあります。また、経営改善や資金調達のコンサルの場合、提案から実行、成果の顕在化までに数年単位かかることもあるため、単年度評価に収まりにくい のです。
  3. 評価者の専門知識不足
    コンサルタントが担当している領域の専門性が高い場合、評価者がその内容を深く理解していないと、表面的な数値 だけに頼った評価になってしまう懸念があります。結果として、コンサルタント側から見れば「自分がやっている仕事の価値を分かってもらえていない」と感じ、不満につながりがちです。

2-2. 課題を解決するための3つの基本アプローチ

  1. 定量・定性評価の軸を複数用意し、バランスを取る
    税務コンサルタントの成果を正確に把握するためには、「売上」「受注件数」といった定量的指標と、「顧客満足度」「コンサルプロセスでの専門性」「チーム貢献度」などの定性指標を複数組み合わせる必要があります。一つの指標に偏らない評価項目の設定 が重要です。
  2. 長期評価を見据えた仕組みづくり
    案件によっては短期に成果が出ないため、半年~1年を超えるスパン での評価を検討することが不可欠です。プロジェクトの進捗やクライアントの反応を定期的に確認し、必要に応じて評価タイミングを調整したり、区切りのタイミングで中間評価を行ったりする運用が考えられます。
  3. 評価者の専門知識強化と客観的な仕組みの導入
    評価者がコンサルティング領域の専門性を全て把握しきれない場合、外部の専門家に評価プロセスのアドバイスをもらう、あるいは評価基準の作成時にコンサルタント本人も参画 して合意形成を図るといった方法が考えられます。評価者同士のすり合わせを定期的に行うことで、評価のバラつきや不公平感を軽減することができるでしょう。

3. 税務コンサルタント向けの人事評価制度設計ポイント

3-1. 定量評価の主要ポイント3選

  1. 案件獲得数・売上貢献度
    分かりやすい指標として、コンサル案件の獲得数や、案件から生じた売上(成功報酬やコンサルフィーなど)を計測します。ただし、前述したように「数」や「金額」だけでは案件の難易度や特殊性を考慮できないため、案件規模や顧客満足度との連動 を検討する必要があります。
  2. プロジェクト進捗度
    長期案件の場合、最終的な売上や成果が評価時期に間に合わないケースが少なくありません。そこで、プロジェクトマネジメントの視点から「計画通りに進んでいるか」「節目ごとの目標達成度はどうか」といった進捗状況を定量化する方法が有効です。これにより、中間評価 を行いやすくなります。
  3. 新規顧客開拓・リピーター率
    コンサルティングを提供する顧客のほとんどは、一度で終わりではなく、何度も追加の相談を行う場合が多いです。コンサルタント個人がどれだけ新規顧客を開拓できているか、既存顧客との継続契約やリピート率がどうなっているかを数値化すると、顧客との長期的関係性 が評価に反映されます。

3-2. 定性評価の主要ポイント3選

  1. 専門知識の深さと応用力
    税務コンサルタントには高度な税務知識が求められる一方、ケースバイケースで最適なスキームを組み立てる応用力も欠かせません。法改正に対応した最新情報のキャッチアップや、事業承継・M&Aなど特化分野でのリサーチ能力を評価指標に加えることで、コンサルタントの専門性の深さ を可視化できます。
  2. コミュニケーション・リーダーシップ
    クライアントとの折衝だけでなく、所内の税理士や他スタッフとの連携、外部専門家(弁護士や弁理士、金融機関など)との協働が必要になるのがコンサルタントの仕事です。このため、プロジェクトを円滑に進めるためのコミュニケーション力やリーダーシップ も定性評価の大きなポイントといえます。
  3. 問題解決・提案力
    コンサルティングとは、顧客が抱える問題を的確に抽出し、解決策を示すことが本質です。ヒアリングから仮説構築、シミュレーション、提案資料の作成、そして説明力まで、一連のプロセスを的確に行えているかを評価項目に組み込むと、成果物だけでなく過程 も評価しやすくなります。

3-3. 評価結果の活用方法

3-3-1. 昇給や賞与だけではなく、キャリアパス構築に活かす

評価結果を単に給与や賞与に反映するだけでは、税務コンサルタントのモチベーション向上や専門性強化を十分にサポートしきれない可能性があります。そこで、評価結果をもとにキャリアパス を明確化する方法が有効です。たとえば、

  • ある分野の専門家としてチーム内でリーダーシップを発揮する
  • 管理職やパートナーとしてマネジメントに携わる
  • コンサルチームを超えて事務所全体の新規サービス開発をリードする

といった複数の道を提示し、評価を通じて「どの道が適切か」「どのスキルを伸ばすべきか」をすり合わせる仕組みを作ります。

3-3-2. スキルマップや資格取得支援制度との連動

税理士試験科目の一部合格や、関連する金融・法律資格、コンサルティング関連の認定資格(中小企業診断士など)を目指すスタッフもいるでしょう。こうした資格取得支援制度 を評価制度と連動させ、合格時の評価アップや報酬改定を設けると、学習意欲が高まりやすくなります。また、スキルマップ を活用して「どの領域の知識・経験が不足しているか」を把握し、評価面談の中で具体的な勉強計画や研修受講プランを提案することで、コンサルタントの専門性を計画的に強化できます。

4. 税務コンサルタント向け 人事評価制度の活用事例

ここでは、実際に税理士事務所が税務コンサルタントの評価制度を導入し、成果を上げた2つの事例をご紹介します。事務所の規模や得意分野は異なりますが、いずれも定量・定性の両面から評価を行う ことでコンサルタントのモチベーションを高め、事務所全体のサービスレベル向上を実現しています。

4-1. 事例1

4-1-1. 導入背景

A事務所は、スタッフ20名ほどの中堅税理士法人で、相続対策や事業承継コンサルティングを強みとしていました。しかし、コンサルタントとして採用したスタッフの評価が曖昧で、案件数や売上金額だけで評価していたために、大きな案件ばかりを狙ってしまう ような偏りが生じていました。顧客満足度や長期的なリレーションシップ構築が評価されず、コンサルタント本人も「数字だけ見られている」と不満を抱え、離職リスクが高まっていたのです。

4-1-2. 導入内容

そこでA事務所では、まず相続・事業承継コンサルのプロセス を分解し、「ヒアリング・分析」「提案書作成」「顧客との調整」「実行支援」「アフターフォロー」の各段階で必要とされるスキルや成果を整理しました。さらに、定量指標として「案件受注数」「売上金額」「定期フォロー率」、定性指標として「提案の質」「顧客コミュニケーション能力」「社内スタッフとの連携度」「法改正・制度更新への対応力」などを設定。半年ごとの面談で、進行中の案件状況をヒアリングし、定量・定性の両面 から評価を下す仕組みを取り入れました。

この導入によって、コンサルタントたちは短期的な売上獲得だけでなく、顧客との長期的な関係づくり に注力しやすくなりました。また、提案の質や顧客満足度が評価されるため、慎重で丁寧なアプローチを取るケースが増え、結果的にリピートや追加契約につながったのです。コンサルタント本人の満足度も向上し、離職率の低下に寄与しました。

4-2. 事例2

4-2-1. 導入背景

B事務所はスタッフ10名ほどの小規模事務所で、M&Aや企業再編など、比較的大きな案件を少数精鋭で対応していました。ところが、コンサルタント1名が高いスキルを持ちながら案件をほぼ一手に抱えており、他のスタッフとの連携がうまく進まず、属人的な運営 が問題となっていました。評価制度もほとんど整備されておらず、コンサルタント本人にかかるプレッシャーが大きく、疲弊しつつある状況でした。

4-2-2. 導入内容

B事務所では、まずコンサルタントと所長税理士が評価制度の骨子づくり に共同で参加。M&A案件の特徴や必要となる専門知識、リスクマネジメントの項目などを洗い出したうえで、定量評価に「案件の成約数・成約金額」「案件スケジュール遵守率」を設定し、定性評価では「他スタッフへのノウハウ共有」「チームリーダーとしてのマネジメント力」「クライアント満足度調査結果」などを重視しました。また、案件の進捗に応じた中間評価やフォローアップ面談 を頻繁に実施し、負担の偏りや不明点を早期に解消できる体制を作ったのです。

結果として、コンサルタントは案件獲得の責任 を感じながらも、社内での業務分担を進める意欲を持つようになり、情報共有とチームワークが改善しました。新人スタッフや他の税理士補助もM&A案件の一部を学べる機会が増え、組織全体のスキルアップに寄与。コンサルタント本人も精神的な負担が軽減され、離職のリスクが大幅に低下するとともに、より質の高いコンサルティング を提供できるようになりました。

5. まとめ

5-1. 本コラムのポイント

  1. 税務コンサルタント特有の評価項目の設定
    • 定量評価:受注件数、売上金額、プロジェクト進捗度、新規顧客開拓率など
    • 定性評価:専門知識の深さ・応用力、顧客とのコミュニケーション、チーム連携やリーダーシップ、問題解決力・提案力など
    • 長期案件が多いため、評価期間やスパンを柔軟に設定し、中間評価を行う仕組みが求められる。
  2. 制度導入・運用における今後のステップ
    • 評価制度の継続的な見直し(経営方針・事業規模の変化に合わせる)
      コンサルティング領域は法改正や経済環境の変化が激しい。事務所として扱う案件の種類や規模が変われば、評価基準も適宜アップデートすべき。
    • キャリアパス制度との連動性を強化して次世代人材の育成
      コンサルタントの専門性は一朝一夕には身につかない。評価を通じて得意分野や成長領域を把握し、資格取得支援や研修プログラムとの連動を図る。
    • 税務コンサルタント特有の事情を考慮した人事評価で業績向上を狙う
      長期的かつ高度な専門性を要するコンサル業務を的確に評価できれば、スタッフのモチベーション維持・向上だけでなく、事務所全体の競争力強化にも大きく貢献する。

税理士事務所にとって税務コンサルタントは、専門性を武器に新たなビジネス領域を切り拓き、収益を拡大するためのキーパーソンとなり得る存在です。しかし、その業務内容や成果が多岐にわたることから、評価制度の設計が難しく、一律の物差しで測りにくい のが実情です。そこで、定量評価と定性評価の両軸を取り入れ、長期的な目線でコンサルティング活動を評価する仕組みづくりが求められます。

本コラムで紹介した評価制度のポイントや事例 を参考に、貴所の実情に合わせて評価項目をカスタマイズし、コンサルタントのモチベーション向上と専門性強化、そして顧客満足度と事務所の業績アップを同時に実現していただければ幸いです。評価制度は一度導入して終わりではなく、継続的な見直しとブラッシュアップ が不可欠です。ぜひPDCAサイクルを回しながら、自事務所に最適な制度を育てていってください。

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